2019/02/20

【東南アジア ON THE MOVE】
カンボジアのベンチャーエコシステムをつなぐ日本人・宮武俊介氏

1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア『ROBOTEER』を運営。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。

宮武俊介氏(写真:本人提供)

復興・成長を遂げるカンボジアと1人の日本人

内戦終結から約25年の時を経て、復興、そして経済発展の道を着々と歩むカンボジア王国。ここ数年の経済成長率は約7%と、発展めざましいとされる東南アジア各国の中でも高い成長水準を誇っている。そんな、新たな時代を迎えたカンボジアの発展をさらに加速させるべく、同国ベンチャー&スタートアップ支援に注力する日本人男性がいる。宮武俊介氏だ。

宮武氏は現在、日本の大手広告代理店のカンボジア支社で重責を務めながら、同国のベンチャーエコシステム、そしてそこに関わる人々と深いつながりを築いている。トヨタ・カンボジアが主催した「トヨタインパクトチャレンジ」というインキューベーションの実施を裏で支えている人物のひとりでもある。日本ではほとんど聞かない「カンボジア×ベンチャー」というテーマに、なぜ宮武氏はライフワークとして取り組むようになったのか。そこには、いくつもの偶然、そして必然の出会いがあった。

「父親がノルウェー系の船会社で働いていた影響もあり、幼少期から外国の人々と触れる環境には恵まれていたと思います。大学の頃には、スペインを中心にヨーロッパへ旅にも出たことも。いずれ海外で何かしたいと常々思っていました。しかし放浪しながら気づかされたのは、自分の人生に明確な目標がまだないということ。一方でそれらの体験から、いろんな考えを持った人に出会う楽しみを学びました。そして日本に帰国後には、人との出会いが多いという可能性を感じ、広告代理店を就職先として選ぶことになります。数年後、人事に所属していた時に、たまたま隣にビジネス開発室という部署が立ち上がり、その部署で働く人たちから刺激を受けていました。その頃から広告や営業よりも新たなビジネスを生み出すことが面白いと感じ始め、日本の起業家たちとも交流を始めました」

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カンボジア現地で取材に応える宮武氏

そんな折、社内の事情から人事担当者に「カンボジアに行かないか」と声をかけられる。かねてから海外を舞台に何か新しいことに挑戦したいと考えていた宮武氏は「行きます」と即答。辞令があった2週間後の2016年7月から首都・プノンペンに単身で赴任することになるが、それから目にすることになるカンボジアの日常風景は、宮武氏の心を徐々に虜にしていく。

「赴任してまもなく、カンボジアで著名な政治活動家ケム・レイ氏が何者かに暗殺される事件が起きました。その時、ケム・レイ氏の実家からお墓まで数十キロに渡り僧侶や一般市民が行進を始めた。その光景に、とても衝撃を受けました。その後も、ノーヘルメットや4人乗りのバイク、路上で焼肉、謎の植物を食べる人々など、カンボジアの日常で目にする混沌とした光景に次第に心を惹かれていきました。学生時代からヨーロッパや日本を中心にしかモノゴトを見てこなかった自分にとって、アジアの新興国での日々はとにかく新鮮な衝撃の連続だったんです」

刺激に満ちたカンボジアでの日々

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建設ラッシュに沸く首都・プノンペン

有名インスタグラマーとしての顔も持つ宮武氏は、カンボジアをより深く知るため、一眼レフカメラを購入して路地裏やマーケットなど人々の生活にフォーカスをあてた写真を撮るようになる。うるさいし、けたたましいし、日本では見なれない光景ばかり。トゥクトゥクで3回ひったくりにも遭うなどアクシデントにも見舞われた。が、宮武氏はそのストリートの日常生活の中から「生きるエネルギー」を強く感じたという。

「やがて、1人で写真を撮るのもつまらないと思い始め、SNSでイベントを検索していたところ『Creative Walk』というイベントを見つけました。参加してみると、全身刺青で坊主頭の女性ヘアスタイリストと出会い、彼女に自分がスピーカーとして登壇する『Nerd Night』というイベントに来ないかと誘われました。後に、そのNerd Nightが、『PechaKucha』という日本発のプレゼンイベントのプノンペン版だと知りました。Nerd Night では、1枚あたり20秒で切り替わるスライドを20枚使って、プレゼンテーションを行います。これは面白いと思い、2週間後の翌イベント時には『どうしたら良い携帯写真が撮れるか』というお題でスピーチをしました。そこからNerd Night のチームに加わり、カメラマンとしてイベントの写真を撮ることになります」

現地の人々と交流を深めながら生活や仕事をするうちに宮武氏が気づいたのは、カンボジアでは都市部でも、農村地域でも、とにかく人々の携帯電話の所有率が高いということだった。老若男女問わず、1人1台はスマートフォンを所有し、FacebookやYouTubeなどを楽しんでいる。携帯に触れている時間がとても長いのだ。しかも、都市部であれば4Gの通信環境が整っていてWi-Fiも常につながる。

「スマートフォンの普及率が高い一方で、カンボジアのオリジナルコンテンツをなかなか見かけないと思っていました。そこで、Nerd Nightなどのつながりを頼りに、面白いコンテンツ制作者を探していたところ、リティー・トォル(Rithy Thul)氏というカンボジア人と出会うことになります。彼はカンボジアの地方出身なのに英語がペラペラ。高校卒業後、プノンペンの大学へ入学し、英語を専攻したものの2年程度で中退し、本をたくさん読みながら、なけなしのお金と1,000ドルの借金で起業。しかし事業は失敗し、その後自転車で旅に出て、途中アメリカ人に100ドルを寄付してもらい、インターネットを学ぶことに。再度立ち上げたビジネスが軌道に乗り始め、2011年にスモールワールドというカンボジアで初のコワーキングスペースを立ち上げました。現在はメンタリングやスモール投資をしながらカンボジアのスタートアップエコシステムを育てています」

トォル氏との出会いがきっかけとなり、カンボジアのベンチャーエコシステムに興味を抱き始めた宮武氏は、やがて「インパクトハブ・プノンペン」の存在に辿りつく。インパクトハブは、社会にインパクトを生み出そうとする人達のコミュニティ。起業家、フリーランサー、アーティストなどさまざまな人々が集う場で、世界各地に支部がある。

「もともと日本でインパクトハブ・トーキョーには足繁く通っていたのですが、まさかプノンペンにもあるとは知りませんでした。インパクトハブ・プノンペンを通じて、多くのベンチャーがプノンペンにあることを知りました。カンボジアは貧しい国とか、一党独裁といったイメージがありますが、そこで出会った若い子たちは実にポジティブで、自分がやりたいことは実現できると信じている子たちばかりでした。リティーのように実際に起業して成功している人もいれば、インパクトハブが開催するイベントやネットワークを使って成功しようとしている人もいる。ストリートで感じた生きる活力が、ベンチャー界隈にも強く充満していたんです」

カンボジア・ベンチャーの活力を、自分の経験やノウハウを活かすことでブラッシュアップすることはできないか。そこで宮武氏は、インパクトハブとトヨタ・カンボジアをつなげるアイデアを企画。こうして実現したのが「トヨタインパクトチャレンジ」だった。

つながり始めるカンボジア・ベンチャーエコシステム

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トヨタインパクトチャレンジに参加する若者たち(写真:宮武氏提供)

「トヨタインパクトチャレンジでは、自動車メーカーとカンボジアの課題という切り口から、『スマートシティ』『排出ガス削減等環境問題』『交通安全』『次世代移動手段』という4つのカテゴリーを設定しました。その範疇で、とにかく面白くてイノベーティブなビジネスアイデアを募ったんです。結果、全カンボジアから約50のアイデアおよびチームが集まりました。

最終的にごみの仕分けでポイントが貯まり、それをいろいろな店舗で使える『スマートビン』というサービスが優勝して賞金を勝ち取りましたが、その他にも、カンボジアの課題に根差したアイデアやサービスがたくさん持ち寄られました」

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優勝した「スマートビン・チーム」(写真:宮武氏提供)

宮武氏は、他国でトレンドになっているような“二番煎じ的”なサービスが出てきたとしても問題ではなく、むしろ積極的に支援していくべきだと考えている。まだまだ粗削りであってもかまわない。むしろ、若者たちの生きる活力にフォーカスをあて続けてこそ、いずれ社会を変えていく大きな原動力になると信じて疑わない。

「世界を代表するような大企業と、カンボジア人と他国から来た人たちが入り混じっているコミュティであるインパクトハブ、そしてカンボジアの将来を担う若者たちを巻き込んで大きなイベントを成功させることができたのは、カンボジアのベンチャーエコシステムにとって大きな前進だったと思います。その後、UNDP(国連開発計画)やGrab(配車アプリ大手)から『うちもやりたいが話を聞かせてくれないか』と打診があり、インパクトハブと組んで『アーバンモビリティ・インキュベーター』というプログラムが始動しています。

単なる援助ではなくて、カンボジアの若者たちの熱意やアイデアを育てる環境が広がっていくことに、私自身もとてもワクワクしています」

日本をはじめとする世界各国のメディア報道においては、カンボジアのビジネス環境はまだまだ複雑で課題が多いと言われる。しかし、宮武氏は「それなりにうまくいく」と感じているという。というのも、道端で焼肉をしている人にしろ、昼からビールを飲んでいるトゥクトゥクのドライバーにしろ、みんな若くて明るい。活力が溢れている国民が多い国が、間違った方向に行くようにはとても感じられないというのだ。

カンボジアのベンチャーエコシステムを支援する宮武氏自身にも、実は夢がある。それは、自身が運営する「Casadetake」というメディア上のサービスを拡充し、人々の人生の目的(=Life Purpose)を取材・撮影したコンテンツやストーリーを世界に伝えていくことだ。なお、このアイデアはEchelon Asia Summitというテックメディアプラットフォームが主催したピッチ大会で「カンボジアトップ20アイデア」の1つに選ばれている。

「そのコンテストでは、僕だけ唯一、チームでなく個人として参加しました。ベンチャー支援をすると言いながら、自分自身にベンチャー経験がないと説得力がないと考え、思い切って参加してみたんです。実際にプレゼンしたら、投資家に笑われましたよ。『これお金必要ないでしょ?やればいいじゃん』って(笑)」

それでも夢は、大きく壮大に膨らませていきたいと宮武氏。仲間集めやマネタイズが最初の課題だと、夢実現までのプロセスを真剣に考え始めているという。カンボジア発のベンチャー企業の未来とともに、自身の未来も成功に導くことができるのだろうか。いつかその2つのサクセスストーリーをCasadetakeで読める日を心待ちにしたい。

取材協力

河原良治・天沢燎

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