2019/01/30

【携帯電話研究家・山根康宏が見る、5Gとその先の未来】
すべてがつながる、5G時代の社会と生活

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香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。1,500台超の海外携帯端末コレクションを所有する携帯博士として知られるが、最近では通信技術やIoTなど広くICT全般へと関心を広げ、多岐にわたるトピックをカバーしている。『アスキー』『ITmedia』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。

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端末からサービス、人々の生活まで、すべてを変える5G

2019年は5Gサービスが各国で始まろうとしている。すでにアメリカでは2018年9月からベライゾン・ワイヤレスの商用サービスが開始され、韓国ではLG U+が試験波を飛ばしている。ほかの国でも5Gのテストは活発に行われており、5G対応スマートフォンも今年中には登場する予定だ。

5Gの特徴である「高速」「低遅延」「同時多接続」はこれまでのモバイル通信の進化を大きく変えるものだ。とはいえそれぞれの特性を活かしきれるサービスやアプリケーション、またハードウェアが出てくるまでには時間がかかるだろう。例えば今のスマートフォンは、画面サイズ、解像度、ユーザーインターフェース(UI)、どれも5Gを活かしきれるものではない。逆に言えば5Gの普及とともにスマートフォンは見た目も中身もまったく新しいものが出てくるだろう。3G黎明期に登場したiPhoneがすべての携帯電話を変えてしまったのと同じように、5Gの開始はスマートフォンの形状やUIを変えるものになるはずだ。

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2019年は5G元年となる。アメリカではベライゾンがすでにサービスを開始している

筆者は「携帯電話研究家」という肩書を持っており、端末コレクターでもあるためついつい端末の方向に話が向いてしまうのだが、5Gの普及はそのレベルでとどまるものではない。生活そのものをすべて変えるほどの新たなイノベーションを社会に与える可能性に、筆者は大きな期待を寄せている。都市のインテリジェンス化や工場の完全なる自動運転化と遠隔監視、家屋のスマート化など、4Gでは本格的な商用サービス展開ができなかったものも、5Gになれば実現できるだろう。通信やIT関連の展示会取材を通じ、筆者には5Gの実現する世界が年々具体的に見えてくるのだ。

過疎地でこそメリットを発揮

生活の中で5Gのメリットが感じられるのは大都市よりも地方や過疎地域かもしれない。そう感じたのは2018年12月、筆者の韓国の自宅がある、釜山近郊の統営(トンヨン)市に1週間ほど滞在した時だ。統営は釜山から車で西に2時間半ほどの距離にあり、大小の島からなるリゾート地でもある。海岸線は入り組んでおり、ちょっと車を走らせればすぐに海辺にたどり着く。その地形から「東洋のナポリ」と呼ばれることもある。

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東洋のナポリとも呼ばれる韓国の統営市

しかし交通はバスと車のみであり、入り組んだ道路を走るバスも基幹路線を離れると本数は少ない。中心部のバスターミナルから統営のさらに奥地へと移動するときはまだしも、奥地から他の地域へ移動するときはネットの情報を頼りに停留所でバスを長時間待たなくてはならない。田舎だからそんなものだ、と考えてもいいが、いまやスマートフォン1台あればどこでも仕事ができる時代だ。都会であろうとも田舎であろうとも1分は同じ1分、無駄にはできない。

もしもすべてのバスの車両に通信モジュールが搭載されるようになれば、バスの位置をスマートフォンで常に監視できるようになり、バス停への到着時刻も1分単位で正確にわかるようになる。あるいはバス停に人が待っているとき、バス停に搭載されたセンサーが人を感知し、次のバスが何分後に来るかといった情報をバス停のデジタルサイネージに表示することもできるようになるだろう。

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路線番号一覧もはがれかけている簡素なバス停。田舎なら当たり前の光景だろうか

韓国でもソウルなど都市部ではバスロケーションサービスが提供されている。いずれ過疎地のネットワークカバレッジも広がれば地方でもバス待ちに何時間もかかる、といった不便さは解消されていくだろう。

人口密度からすれば、過疎地域なら4Gのカバーで十分かもしれない。しかし5Gならば有線ブロードバンドの設置が困難なエリアでも高速無線ブロードバンドを提供でき、過疎地域ならではの課題の解決にもつながる。たとえば、農地のIoT化には気象センサーや土壌センサー、河川の水量センサーなど数多くのセンサーの設置が必要となる。5Gドローンを使った監視も日常的なものとなるだろう。人の目の届かないところで情報収集できるという点で、5Gは人の少ない過疎地域のデータ活用を促進し、地域間のデジタルデバイドを解消してくれる可能性を持っているのだ。

焼肉もスパも、待たずに入店

さて韓国といえば焼き肉が有名だが、一言で焼肉と言っても牛と豚の違いもあるし、焼き方で料理名も変わってくる。日本語の「焼肉」は韓国では「プルコギ」であり、日本人がイメージする焼肉とは異なる料理だ。筆者が好きなのは値段も安くすぐに焼きあがる「テペサムギョプサル」。かんなで削った木材のように薄い豚肉で、キムチとナムルを一緒に炒めて食べる料理だ。

自宅近くのサムギョプサルの店はいつも混んでおり、ある日は土曜日ということで早めにお店に行ってみることにした。ところが店はガラガラで先客は1組しかいない。付近に食べ放題のサムギョプサル屋が開店したばかりで客がすべてそちらに流れていたのだ。これもテーブルに搭載されたセンサーで収集した店の空席情報や店内の写真をリアルタイムで確認できるようになっていれば、店にあらかじめ電話する手間も、あるいは行ってみたら満員で入れなかった、なんてこともなくなるのである。

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豚肉はよく焼かなくてはならない。薄いテペサムギョプサルはすぐに焼ける

そして夜になれば近場のスパ(チムジルバン)に行くのが韓国滞在時の楽しみだが、週末となれば結構な人で混雑していることもある。これも靴箱にLPWA(Low Power Wide Area)を利用したセンサーが搭載されるようになれば、いまどれくらい込み合っているかを自宅にいながら確認することができる。たとえ混雑していても、アプリにそれぞれの靴箱の使用時間がグラフや色で表示されれば「まだしばらくは混みそうだ」あるいは「30分もすれば人が急に減るだろう」といったこともわかる。AI機能が組み込まれれば、アプリを開いた瞬間に「今の混雑が半分になるまであと1時間」といった表示も自動でされるようになるだろう。

ペットを首輪でトラッキング

入浴後に自宅へ戻り、ドアを開けると子猫が出迎えてくれた。生まれた月から「オゥル(韓国語で5月の意味)」と名付けた我が家の子猫はずっと家の中で飼っており、普段は外には出していない。そのためこちらも油断して、ドアを大きく開けたまま、車から降ろした荷物を部屋の中に入れようとした。ところが外が暗くて興味がわいたのか、オゥルがドアから飛び出し家の裏側まで走っていってしまった。

自宅は田舎のため明かりはわずかで、家の裏側の照明もない。そのうえそのまま裏山につながっている。初めて自由を得た子猫にとって、そこは未知の世界ながらも無限の興味を感じさせる場所だろう。あわてて子猫の名前を呼ぶがもちろん反応はない。懐中電灯を探して家の裏に行くもどこにいるかまったくわからない。10分ほど家の周りを歩き回ったが姿を見つけることはできなかった。

ペットにつけるトラッキングデバイスはすでに実用化されている。従来のBluetooth接続タイプと比べ、NB-IoTやLoRaなどのLPWAの製品は電池の持ちがよいことや単体で通信できることから使い勝手が良い。5Gの普及が進むころにはそんなトラッキングデバイスを個人がいくつも購入し身の回りの物やペットに装着することが当たり前になるだろう。通信事業者も5G普及を促すために、スマートフォン契約とLPWA端末のセット販売を積極的に行うはずだ。

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ファーウェイ製のNB-IoT内蔵ペット用トラッキングデバイス

「うちのオゥルにもつけておけばよかった」そう反省しつつ二度と家には戻ってこないだろうとあきらめかけていたとき、家の軒下からひとしきり走り回って疲れた表情をした子猫がゆっくり出てきた。トラッキングデバイスが当たり前のものになれば、こんな心配をすることは起きないだろう。

ロストバゲージを解消

このように5Gで一般消費者が最もメリットを感じられるのは、今までとは比較にならないほどモノと人がリアルタイムで接続されることではないだろうか。中でもトラッキングデバイスはIoT製品のキラーデバイスの一つになると思われる。航空業界向けICTサービスを提供するSITAの報告によると、飛行場でのスーツケースや手荷物の紛失は乗客1,000人あたり5.57個(2017年)に及ぶという。それらがすべて追跡できれば、乗客の払う保険料や保険会社の補償費も不要になる。荷物の紛失で商談のサンプルが用意できなかったりコンサートで演奏ができなくなったりといった、保険金ではカバーできないトラブルも低減できるわけだ。

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スーツケースにトラッキングモジュールを内蔵した製品も出ている

子どもや高齢者の見守りも安価に

ところで中国の動画サイトを見ると、親に向けて注意を促す興味深いビデオがよく見受けられる。子どもを連れて歩いている母親がスマートフォンのゲームに夢中になり、後ろからついてくる子どもが途中で誘拐にあっても気づかず、その後探しても見つからない、といったストーリーで、「ゲームに夢中になってはいけない」ということを喚起するものだ。中国では年間20万人以上の子どもが行方不明になっているという話もある。最近では子ども向けの4G対応・GPS機能搭載スマートウォッチが多数販売されており、都市部では子どもが装着している姿もよく見かける。

しかし4Gスマートウォッチは充電を日々行わなくてはならないうえに、1万円以下になったとはいえ低所得者層にとっては手が出しにくい。LPWAの通信モジュールを搭載したトラッキングデバイスであれば、通信費込みでも毎月1,000円以下で利用できるだろう。5G回線の「同時多接続」は子どもや高齢者の安全も提供してくれるのだ。

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中国では子供向けの4Gスマートウォッチが増えている(ファーウェイが中国で販売している『児童手表(Kids Watch) 3 Pro』)

メリットは無限大

こうしてあらゆるものがつながると、社用の端末を使う会社員は自分の居場所がすぐに会社にばれてしまう。「息を抜く場所がなくなる」と嘆く声も聞かれるかもしれない。だがその一方では、顧客と歩き回って商談場所のカフェを探すもどこも満員で入れない、といった無駄がなくなり、生産性が向上するとともに、自由に使える時間が増えることになる。朝の通勤の満員電車に乗る時でも、前の晩に「明日の天気は寒いので、10分早く出ると座れる可能性が20%上がります」といった通知がスマートフォンの画面に表示されるようになるだろう。5GとIoTの普及はデメリット以上に計り知れないほどのメリットを与えてくれるのだ。

5Gは通信技術の進歩だけではなく、生活を変える新しいテクノロジーだ。SF映画のシーンが5Gの普及とともに一歩一歩現実のものになろうとしている。「未来」が「今」になる瞬間を、この連載を通して伝えていこうと考えている。

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