2019/02/18

【北欧発Happiness Technology】
急成長のスタートアップ企業によるフードロス解決アプリToo Good To Go

デンマーク工科大学 リサーチアソシエイト。北欧研究所主宰。京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学博士取得。専門分野は、情報システム、デザインアプローチ。異文化協調作業支援、創造性支援、北欧におけるITシステムと参加型デザインの研究を行っている。

デンマーク発のスタートアップが開発

デンマークには近年、社会性の高いアプリがたくさん生まれてきている。実に94%がICTを利用するIT先進国であるデンマークの国民は、環境への配慮をはじめとする国連の持続可能な開発目標(SDGs)に対して非常に意識が高い国民であるとも言われる。社会性が高いアプリは、そんな意識の高いデンマーク人たちの”幸せマインド”を刺激するのかもしれない。北欧のハピネステクノロジーを紹介する本連載の第2回では、前回の記事でも紹介した「Too Good To Go」をより踏み込んで詳細に見てみよう。

Too Good To Goとは、フードロスを防ぐために作られた、お店とカスタマーをつなぐプラットフォームアプリである。食料廃棄を問題視し、強い関心を持ったイギリスとデンマークの若者たちがつながってできあがったスタートアップ企業、Too Good To Go ApSが、2016年にスタートした。TooGoodToGoアプリは余った食品を提供したいベーカリーやスーパーマーケット、レストランなどと、安価で購入したい購入者をつなぐマーケットプレイスとしての仕組みを提供している。今まで余った食品を廃棄するしかなかった販売者と、食費を節約したい、もしくは、フードロスの課題にコンシャスな消費者をユーザーフレンドリーなインターフェースでマッチングした。消費者にとっては安く簡単に地元で買い物できるという利点があり、今ではデンマークばかりでなく、イギリス、ドイツ、オランダなどヨーロッパ圏内まで拡大し、広く受け入れられている。

アプリの使い方

1 . ダウンロード・ログイン
まずアプリをダウンロードする。ダウンロードするとログイン画面が表示されるので、そこで名前、メールアドレス、電話番号を登録する。

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2. 店舗選択
食品を提供するお店は、自分の現在地に合わせて表示される。利用者は、表示画面を地図かリストのどちらか選択することができる。地図上では、食品が入手可能なお店、すでに売り切れてしまったお店がそれぞれ緑色と赤色の点で示され、店をタップするとお店の詳細が表示される。
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リスト画面を選ぶと、今の自分の現在地から距離の近い順に表示される。また、どちらの表示形式も時間、ジャンル(レストラン、ベーカリー、野菜・果物、特別提供品)で検索条件を絞ることができる。販売する商品は1店舗につき1商品のみ。
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3. 購入
お店を決めたら購入ページに移る。前払い制で、初めて購入するときは、この段階でクレジットカード情報を入力して購入することになる。一度登録すれば、お店を決めてから購入までワンクリックで購入することが可能だ。購入画面には本来の値段が記載されており、お得感がより増す効果を生み出している。この場合だと、定価の1/3の値段で購入できることになっている。
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購入をすると、注文完了メールが届く。この注文完了メールは、味気ない領収書のようなものというよりは、フレンドリーなメールスタイルで、例えば、「このサービスを使ってくれたおかげで、埋立地に行くはずだった食品が救われ、推定2kgの二酸化炭素排出量を減らすことができました。地球環境の保護に一役買うなんて、いい気分でしょ?」といった文面が送られてくる。
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4. 引き取り
購入した食品は、実際にそのお店に指定された時間に行って、自分で直接ピックアップすることになる。受け渡しの形態はお店によって異なるが、基本的にお店の人がアプリの画面を確認し、購入品を手渡しする。
ちなみに、食品を提供するお店側はフードロスを減らすための「パートナー」として登録され、お店に貼るToo Good To Goのステッカーと受け渡しの紙袋などが配布される。現在パートナーとして登録されているのはスーパーマーケット、ビュッフェ式レストラン、ベーカリーなどが多い。

いつもの商品がかなりお得に

このToo Good To Goアプリを実際に利用してみた。まずは家の近所のベーカリー。指定時間にお店を訪れると”Too Good To Go”と書かれた紙袋がいくつか並べて置いてあった。携帯の購入完了ページを見せて、お店の人がその画面をスワイプすることで、紙袋を受け取ることができた。中身は日によって異なるそうだが、少なくとも普段、同じ値段で買うことは考えられないようなたくさんのパンが入っていた。デンマークの物価は非常に高いということもあり、何倍もお得に感じられ、特に幸せ感を感じることができた。

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次に試したのは、ビュッフェ形式のレストランだ。デンマーク国内旅行中、デンマーク第二の都市オーフスにて、昼ごはんを安く抑えようとアプリを利用した。受け取り時間は午後2時からで、遅めの昼ごはんとなったが、首都のコペンハーゲン以外にも広がっているとは思わなかったので、意外であり助かった。実際に指定時間内にお店を訪れると、発泡スチロールでできたワンプレート容器にパスタやポテト、ソーセージなどいろいろな料理が入っていた。

Too Good To Goには多くのビュッフェ形式のレストランがパートナーとして登録されているが、何種類もある料理から自分の好きな料理を好きなだけ容器に入れられることができる店と、すでに用意されている店がある。前者の場合は時間より早めに行って列に並ばないと好きな料理が手に入らないといったことが発生する。

募金も可能、売り切れの場合もあり

一方、ちょっとした失敗も経験した。アプリ上の表示はすべてデンマーク語なので、筆者はアプリの文面を翻訳してから購入していた。しかし、何度か利用して使い慣れてきたある日、翻訳をせずに購入し、指定された時間にその場所を訪れたところ、店舗が存在しなかった。よくよく翻訳してみると、購入したと思っていた商品名が「フードバンクや社会的弱者をサポート」となっていた。お店の選択肢の中には純粋な「募金」というものも存在しており、自分では気がつかないうちに弱者サポートを提供していたのだった。

また、アプリ上で購入しても、当日実際に食品が手に入ることが確証されるわけではない。ベーカリーで「その日の売れ残りのパンセット」を購入したものの、購入時間前にキャンセルの連絡が入ったことがあった。登録したメールアドレスに、「ベーカリーのパンが売り切れたので今回のToo Good To Goのサービスはありません」という通知が来たのだ。この場合、支払ったお金はアカウントに戻される。アプリのコンセプトはフードロスをなくすためのお手伝いであり、100%食料の確保を保証するサービスアプリではないので、これはしかたのないところだ。

心をくすぐるしかけ

サービスの利用中、一貫して「あなたはフードロスに貢献している」というフィードバックを受けていた。アプリ上でお店を選択する時には、どの店舗の紹介にも必ずフードロス撲滅のためのキャンペーンメッセージのようなものが書かれている。また前述のように、購入後に届くメールに「このサービスを使ってくれたおかげで、埋立地に行くはずだった食品が救われ、推定2kgの二酸化炭素排出量を減らすことができました」とあったほか、ウェブサイトにも「世界の1/3の食品は廃棄されている」というメッセージや、今までどれぐらいの量の二酸化炭素排出量を減らすことができたのかが定量的に示されている。

おそらく、多くの利用者のアプリ利用のきっかけは、安く食品が手に入るという理由からだろう。そして、その期待通り、アプリをダウンロードして利用を始め、実際に非常に安価かつ食べても何の問題もない食品を入手することになる。それだけでも満足だろうが、さまざまな仕組みが巧妙に張り巡らされているがゆえに、食品を手に入れた上にフードロスに貢献したという二重の充足感を自然と得ることができ、さらに、フードロスについての関心を高めることにつながる。

ベーカリーで購入したパンはビニール袋には入れず直接紙袋で渡された。本当の理由はどうあれ最低限の資源しか使わないというのも、環境を配慮した取り組みの一つともとらえられる。そんな細かいしかけが、心に訴えかけてくるのである。 お店側も捨てるはずだった食品を別の形で売ることで、本来なかった利益をあげることができ、なおかつ環境に配慮した店舗としてお店のイメージアップにもつながる。お店と顧客の両方を満足させるWin-Winの関係を生み出すアプリになっているのだ。

まずは草の根の意識変革から

Too Good To Goは現在、ベルギー、フランス、デンマーク、イギリス、ドイツ、ノルウェー、スペイン、スイス、オランダでアプリ展開をしている。このアプリはフードロスに比較的関心のある国の個人経営の店、小規模、中規模のチェーン店が導入しやすいようだ。

日本でも企業単位では似たような動きはあり、Too Good To Goに類似するアプリも出てきているようだが、主に東京都内の個人経営のお店が中心で、大規模な改革につながっているわけではないようだ。日本のコンビニやチェーン店は大企業経営が多く、食品の廃棄分に対して廃棄補填費が出ていたり、本部で管理していたりすることもある。もちろん同様のサービスが存在しているのは大きな一歩であり、今後はユーザーの意識変容と企業や消費者を簡単に巻き込むことのできる使い勝手のいいテクノロジーが、スケールするためのカギになるだろう。

人々の意識の転換をもたらすために、コペンハーゲンのToo Good To Go本社では数々のイベントが開催され、啓蒙的な働きかけを行っている。設立者の1人であるジェイミー・クルーミ(Jamie Crummie)氏は、当初アプリのコンセプトの説明にあたり「残り物を食べる/提供する」というマイナスイメージを持たれることが多く、それが障害となってきたと述べている。食料廃棄を減らすという目標は皆が合意する点であったとしても、その廃棄される食料を安価で購入する、という違う視点を人々に理解してもらうには、人のマインドセットの転換が不可欠だ。そして、その認識の変容をもたらすまでにはどうしても時間がかかるようだ。

一方でクルーミ氏は「テクノロジーの利用によって、より効率的に、持続可能なフードビジネスを作り上げることができる」と根本的問題の解決の糸口を語る。フードロスを撲滅という最終目標を達成するには長い月日を要するが、まずは小さな目標を決めて世界にインパクトを与えながら、フードロスを周知していくことに奔走している。

デンマークでは、Too Good To Goと時期を同じくして、これまでフードロス撲滅運動を行ってきた活動家兼グラフィックデザイナーのセリーナ・ユール(Selina Juul)氏の働きかけによって国内最大規模のディスカウントスーパーRema1000が動き、これまで大量に購入すれば割引としていた食品を1個からでも割引販売することで、無駄な購入を減らし、食品廃棄の削減を実現した。デンマーク政府も2016年にフードロス対策事業への助成金を決定している。

草の根活動による人々のマインドセット転換と同時に、政府主導の法整備や大手食品流通業者の対応などが、フードロス問題の解決には欠かせない。デンマークでも法整備や高級スーパーの取り組みなどにはまだ至ってていないが、まずはできるところから。そして、草の根でもスケーラビリティが期待できるデジタルアプリによる小さな一歩は、フードロスを減らす世界な流れの大きな一歩になると、筆者らは期待している。

共著者

小林 萌(こばやし もえ)

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