2019/02/13

【山谷剛史の"デジタル中国"のリアル】
写真で振り返る、スマートフォンで中国の生活はどう変わったか(後編:2016~2018年)

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中国を拠点とし、中国・アジアのIT事情を現地ならではの視点から取材・執筆。IT系メディアやトレンド系メディアなど連載多数。著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)などがある。

デジタル化が進む中国。では、雲南省昆明という地方都市では、スマートフォンによって実際にいつどのように生活が変わったのか。2012~2015年を振り返った前回の記事に続き、後半では2016年から2018年までを引き続き生活者視点で追っていこう。

2016年~スマートフォンのリアルショップが増加、アプリ+キャッシュレスも定着

2016年には、スマートフォン本体についてはOPPOとvivoが台頭してくる。この2社はオンラインショップでコストパフォーマンスの高いスマートフォンを売るというそれまでのシャオミ(小米)の手法の真逆をいくかのように、都市の繁華街だけでなく、郊外や農村部にまで販売店を展開し、広く中国人にブランドを認知させた。農村に旅行に行くと、そこにOPPOやvivoの看板を掲げた店がそこかしこにあるわけだ。

OPPOやvivoはこうしてショップに人を呼び込み、一躍トップメーカーになることに成功した。その背景には、各地の中国人が日々の生活の中で2社の広告と商品を目にする機会が多くなったことのほか、実店舗とオンラインショップで同じ販売価格に設定していること、店頭で実機に触れて良さを体感できることもある。

大都市より貧しい地方都市ならば低価格な商品が売れると思いがちだが、OPPOは「R9」(2,499元)を、vivoは「X7」(2,598元)(いずれも4万円前後)というフラッグシップモデルをどの店でも推しており、結果的に中国全土で売れるヒット商品となった。1,000元機と呼ばれる1,000元(約1 万6,000円)をわずかに切る製品の存在感が以前よりも薄くなり、人々が当たり前のように1,000元を大きく超えるスマートフォンを買うようになった。

こうした中でファーウェイも中国の小さな行政区画「県」にまで代理店を増やす「1,000県計画」を掲げ、シャオミも同社のリアルショップ「小米之家」を中国全土に急拡大する方針を発表した。このほかにもさまざまなメーカーがリアルショップをモールなどに展開し始めて、じっくり商品を触れるようになったのがこの年だ。

スマートフォンだけでなく、スマートフォンと連携するスマート機器や、パソコンやスマートフォン用の周辺機器を扱うガジェットショップが急増し、意欲的なITガジェットを知る機会が増えた。健康志向の高まりとともにジョギングが市民の中で根付いたことで、スポーツ愛好者向けのスマートウォッチも売れだした。

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ファーウェイのリアルショップ

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データカードが販売されるようになり、料金を抑えつつ高速データ通信が利用できる環境が徐々にできてきた

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住宅街に貼られていたブロードバンドの広告。固定光回線とモバイルデータ通信をあわせて月100数十元(約2,000円)程度で利用できるプランが登場

この年、人が集まるショッピングモールでスマートフォンを活用する機会が増えた。それまでもモール内全体をWi-Fiがカバーし、各店舗でアリペイやウィーチャットペイが利用できたのだが、それに加え、中国全土に展開するモール「ワンダ(万達)」などの一部のモールでは、買い物が安くなったり、その時々のお得情報が配信されたり滞在が楽しくなったりするアプリが提供されるようになった。これはアリババが提案した、ネットとリアルショップを融合する「ニューリテール(新零售)」のさきがけだった。また、映画館にはスマートフォンアプリ予約専用端末が置かれ、アプリで映画チケットを予約してから映画館に行くことができるようになった。

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VR体験コーナーが各地のモールに登場

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キャッシュレスに対応した飲料の自動販売機

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スマートフォンを使った無料のプリントサービス

こうしたアプリを利用するにはアリペイやウィーチャットペイなどが必要だが、現金が利用できなくて困るという話は聞かなかった。すでにキャッシュレス決済はこれらのアプリを利用したい層には普及していたのだ。

2017年~シェアサービスが本格普及、実名登録義務化もスマートフォン利用をさらに後押し

2017年は昆明では大きな変化があった年だった。昆明にもMobikeやofoなどのシェアサイクルが大量に道端に置かれ、一気に街の景色が一変したのだ。上海や広州などの大都市ではこの前年には普及していたが、昆明では1年遅れての展開だった。本来あるべき歩道の道幅が大量のシェアサイクルの駐輪で一気に狭くなった。どこにでもあることで多くの人々に認知され、男女や貧富の差を問わずユーザーが急増した。

またGoFunやEVCARDなどのシェアカーの展示も見るようになった。ただし、都市内にいくつも専用駐車場ができ、それなりに使えるようになるのは翌2018年のことになる。

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シェアサイクルofoの整理員

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カーシェアリングGoFunの展示

また、モール内のレストランなどにスマートフォン用のモバイルバッテリーを短時間レンタルできるシェアバッテリーが登場した。同時にモバイルバッテリーを携帯する人々を急激に見なくなったことから、モバイルバッテリーを普段使うようなヘビーユーザーの間で普及したと思われる。

レストランが集中する地域やショッピングモール近くで、「軍団」と呼んでいいほど多くのフードデリバリーのバイクの人々が待つ姿が目立つようになったのもこの頃だ。さらに一部のレストランや食堂では、テーブル単位でQRコードをスキャンしてセルフ注文ができるシステムを導入した。こうしたサービスはアリペイやウィーチャットペイをインストールしたスマートフォンを携えていないと利用できず、スマートフォンを使いこなせない人はいよいよ生活が相対的に不便になっていく。

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「ウィーチャットペイを使えば5元(約80円)引き」をアピールするマクドナルドの広告

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食べ物の自販機も目立つようになった。果物を販売する変わり種も

キャッシュレス決済が重要になっていく中で、この年の12月には第三のキャッシュレス決済として銀聯が「QuickPass(雲閃付)」を発表し、さまざまなキャンペーンを打ち出して顧客を得ようとした。が、結果としては先行する2社に食いつくレベルではなかった。

スマートフォン関連のハードウェアでは、スマートフォンをはめ込んで使うVRゴーグルが30元(約500円)程度の価格で街中で売られるようになった。VRコンテンツを楽しめるというよりも、動画サイトの映画などを大画面で見られるという触れ込みで売られていた。また期間限定とはいえアリババがスマートスピーカーを99元(約1,500円)の激安で販売したことで、関心のあるユーザーから導入が進んでいった。またモールにはスマートフォンで操作する無人カラオケボックスが登場した。

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99元で売られたアリババのスマートスピーカー「天猫精霊」

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スマートフォンが必須のミニカラオケボックス

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マッサージチェアの利用もスマートフォンアプリから。充電もできる

通信環境では、チャイナモバイル(中国移動)、チャイナユニコム(中国聯通)、チャイナテレコム(中国電信)の通信事業者各社がこれまでになかった「データ通信使い放題プラン」を発表し、街中で広告を見るようになった。データ通信使い放題プランは、実際のところは使いすぎると速度が低下するとはいえ、いよいよ通信料を気にせずデータ通信をどこでも利用できるようになった。

加えて、表だって見えるものではないが、2017年に施行された「中国網絡安全法」という法律の存在もスマートフォンの普及をダメ押しした。それ以前からスマートフォン向けのサイトやアプリのUIが強化される一方でパソコン向けサイトはあまり注力されていなかったが、この法の施行によってほぼすべてのサービスが実名制となったことで、各種サービスを利用するにはスマートフォンからのログインが必須となり、パソコンは(サービス利用端末としては)いよいよ不要のモノとなった。

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網絡安全法の施行にあわせ、ECサイト淘宝(タオバオ)でも携帯電話の登録を促す

2018年~早くもゴミの山と化すシェアサイクル、急激に広がったTikTok

2018年になると、2017年にはIT先進国中国の代名詞のように扱われたシェアサイクルが、ゴミの山となり処分されていく様子が話題になる。筆者自身も、ニュース写真になるほど巨大なものこそ見ることはなかったものの、それなりの規模のシェアサイクルの山にはしばしば遭遇した。ofoが経営危機を迎えると報じられたのと並行して、ofoの黄色いシェアサイクル車両の数が減少していった。ただMobikeやofoの車両が減ってきた一方で、アリババ傘下のアントフィナンシャル(螞蟻金融)が出資するHelloBikeや配車サービスの滴滴出行(ディディチューシン)が運営するLimeBikeといった新たなプレーヤーが登場したため、シェアサイクル自体は減って不便になった印象はなく、引き続き多くの人が利用している。シェアカーも以前に比べ車両を見かけるようになったものの、中国車ゆえの耐久性の低さか、すでにボロボロで乗りたくないような車両も見かけるようになった。

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シェアサイクルがゴミの山に

スマートフォンを使って入店する無人店舗が中国全土に点々と登場し、しばしばメディアで取り上げられた。昆明にも1店舗登場したが、現状では普及という言葉からは遠く離れている。

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スーパーマーケットの無人店舗

スマートフォンのメーカーはファーウェイ、シャオミ、OPPO、vivo、それにアップルに絞られた。また、実店舗・オンラインショップ問わず、アントフィナンシャルによる信用スコア「芝麻信用」を活用したスマートフォンのレンタルサービスを提供するようになった。ただそれを利用する人は、リアルショップでは見ておらず、店員も消極的だった。

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芝麻信用のスコアでスマートフォンをレンタルする店が登場。スコアが600以上ならその場ですぐに借りられる

サービス面では日本ではTikTokとして知られる抖音(ドウイン)が一気に普及してきて、オンラインだけでなく街中でも存在感を示してきた。ショップやレストランで「TikTok映え」をアピールする店を見かけるようになった。これが普及した一因には、前年のデータ通信使い放題がさらにキャリアの競合により安くなったこともある。この結果、人々がデータ通信料をますます気にしなくなり、店やモールでWi-Fiの宣伝を見ることが以前より減った。

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ウィーチャットかTikTokで「いいね!」を20集めれば20元引き、とうたうレストランの看板

「スマートフォンは2010年代に普及した」――その歴史を振り返るとき、こう回顧されるだろう。こうして年ごとに追ってみると、中国では2010年代に、ファーウェイをはじめとした端末メーカーのほか、サービスプロバイダー、通信事業者などさまざまな企業が毎年新しいモノやサービスを生み出し、スマートフォンがより必要だと感じられる環境を構築してきたことがわかる。きっと今後もスマートフォンを取り巻く新しいしかけが次々に登場し、人々の生活をじわじわと変え続けていくはずだ。

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