2019/03/09

人工知能(AI)は進化している。では、人間は? 元SAP・インフォシスのヴィシャル・シッカ氏に聞く、これからのAIの展開と教育の重要性

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ヴィシャル・シッカ(Vishal Sikka)氏。独SAPに12年間在籍し、SAP HANAなど主要製品の開発をリード、CTOを務めた。2014年に印インフォシスのCEO兼マネージメントディレクターに就任。2017年に同社を退職後、ハンテンシステムズ(Hang Ten Systems)を設立し、CEOとなる。

By Christopher Pereira and Linda Xu from WinWin

人工知能(AI)は、研究分野としては1956年から存在していた。ここ数年はいくつもの重要なブレークスルーが起き、機械が人間と同様の理解力を要するようなタスクを遂行する能力は格段に上がっている。しかし、AIがその可能性を発揮するには超えるべきハードルがたくさんある。そのひとつが、進化を加速させるために必要な優れたAIエキスパートが不足していることだ。

コンピューターの計算性能が飛躍的に向上し、膨大なデータが利用可能になっている今、AIはさまざまな産業や人々の生活に革命を起こそうとしている。 世界的に見ても、AIによる分析に対応した組織モデルを構築することが、部署ごとに分断されている顧客インサイトを統合的に理解するために欠かせないと考えている企業は多い。私たちがますますつながったインテリジェントな世界に近づきつつあることは明らかだ。

こうしたビジョンに呼応して、元インフォシス会長で現在は自ら創設したハンテンシステムズのCEOを務めるヴィシャル・シッカ(Vishal Sikka)氏は、AIのアプリケーション、システム、アナリティクスがあふれる未来を待ち望んでいると語る。彼は現在のAIの隆盛が「莫大な数のアプリケーションを生み出し、巨大なインパクトをもたらす」と考えている。この盛り上がりは長続きせず、「より慎重で広範なアプローチに移っていくだろう」とはするものの、AIにおける人材のギャップを埋め、AIアプリケーションを一般の人たちにも使えるものにし、AIが安全な技術として発展を続けるためには、教育を再考することが必要だと強調する。

知覚的タスクでは人間を上回る

複数の進展が組み合わさり、AIにおける重要なブレークスルーがもたらされてきた。シッカ氏は語る。「ファーウェイなどの企業が自社でAIプロセッサーを開発し、多くのスタートアップもこれに続き、それらすべてがクラウドプラットフォーム上で利用できるようになっています。こうしたインフラ上で動くソフトウェアのコアな技術においても多数の進展が徐々に起こっていますが、これはまだ初期段階で、今後も発展が続くでしょう」

画像認識、音声認識、言語処理などの基礎的なセンシング処理や知覚的タスクにおいては、AIはすでに人間の能力を上回っている。インテリジェントなシステムはいまや医療画像からがん細胞を人間よりも高い精度で検知することができるし、翻訳や画像検索、文書の分類といったタスクは速度・精度ともに人間と比べて遜色ない。

Tracticaの予測によれば、AIソフトウェアを直接・間接に活用したアプリケーションが世界市場で生み出す売上規模は、2016年の6億4,370万米ドル(約708億700万円)から2025年には368億ドル(約4兆480億円)へと、年平均成長率56.8%で成長するという。この成長を支えるのは「コンピューティング性能が劇的に向上し、巨大なデータセットが利用可能になっていること」だとシッカ氏は述べる。

例えば、X線画像解析や大規模な顔認識はすでに人間を超えている。上位10位のユースケースのうち、60%はビッグデータに、40%は画像・物体認識に関わるものだ。AIの強みが最も発揮されるのがこの分野であることは間違いない。

AIは我々の仕事を奪うのか?

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こうした進展を踏まえると、我々は自分たちの仕事の未来について心配すべき時に来ているのかもしれない。我々の仕事は機械に奪われてしまうのだろうか?

だが実際のところ、AIが人間を置き換えるようになるにはほど遠いとシッカ氏は言う。「人工知能はいまだ子どもの知能にも及んでいません。画像認識のような知覚的タスクに長けてはいるものの、今のところその能力は表層的なものにすぎません。AIや深層ニューラルネットワークが犬と犬の絵と金属製の絵とを見分ける能力はきわめて表面的で、単純な分類ができるだけです」

AIが目覚ましい進化を遂げているとはいえ、技術的にはボトルネックがある。「人間の脳の仕組みはきわめて複雑で弾力性が高く、単に不具合を特定したり、障害物を見つけて回避したりするだけの機械とは大きく異なります。私はこうして会話しながら、車を運転することもできるし、次に何をしようか考えることもできるし、のどが渇いたと感じることもできるのです」

機械がこれと同じことをできるようになるには、さらなる進展が必要だとシッカ氏は語る。現在AIは特定の技術をめぐってゴールドラッシュのような状態になっているが、「より広範で可用性の高い技術を開発し、推論や発話といった能力を高めなければならない」とシッカ氏は考えている。

信頼できるAIソリューション

企業のAI活用を促すようなソリューションも出てきてはいるが、課題はまだ多い。例えば、見事にタスクをこなすAIシステムが、実際どのようにそれを行っているのかはっきりとはわからない。AIエンジニアはシステムの挙動を明確に把握できておらず、システムが人間と同じ方法で情報の理解や処理を行っているわけでもない。

「企業向けAIを構築する際には、こうした課題を念頭に置く必要があります。この点で、ファーウェイが発表したAI戦略には感心しています。AIプロセッサー、プログラミングモデル、機械学習フレームワークの『MindSpore』、開発者プラットフォームなど、チップセットからソリューションまでのレイヤーを広くカバーしているからです」(シッカ氏)

ファーウェイは昨年、自社のクラウドサービスプラットフォーム上でオープンソースのAI開発ツールを展開した。これにより、開発者やエンジニアが機械学習のトレーニングからローカルデバイスへの展開に至るAIのワークフローを簡素化できるよう支援する。例えば「MindSpore」フレームワークはデバイス-エッジ‐クラウドをまたぐトレーニングと推論を、機械学習・深層学習・強化学習向けの一元化された分散アーキテクチャに基づいて提供する。同時に、他のフレームワークでトレーニングされたモデルにも対応する。 AI分野の多くのプレーヤーは、こうしたフルスタックのソリューションを活用した企業向けアプリケーションの構築に注力することになるだろう。次の数十年で基礎技術がさらに発展し、AIソリューションに統合されていくことは確かだ。すでにさまざまな産業で優れたアプリケーションが登場しつつあるが、各業界はこうしたアプリケーションをしっかりと見極めて、企業が信頼を置いて活用できるようにしていくことに注力していかなければならない。

AIエンジニアを数千万人規模に

AIの発展は均等に起きているわけではない。データへのアクセスとAIエキスパートが少数の企業に集中していると、シッカ氏も考えている。「AI周辺は騒がしく盛り上がっていますが、必要なのは基盤を広げること、より多くの人々にAIに対する意識を高めてもらうことです。これは教育インフラの問題です」機械学習の発展の速度についていくためには、我々も学びの速度を上げなければならないとシッカ氏は言う。「AIにとって教育は欠かせない要素です。今後AIがどれだけ重要性を増すかを考えると、我々はAIについてもっと学ぶべきです」と氏は語る。「機械学習エンジニアは世界に30万人ほどしかいません。今後10~20年で、これを数千万人規模にしなければなりません」

シッカ氏は教育を通じてAIをより多くの人々に利用できるようにすることが重要なだけでなく、この先オープンなコラボレーションと生涯にわたる学習がよりいっそう大事になってくるとも語る。「仕組みを説明できるシステムや、安全なAI、発話するAIを構築するには、学術界や政府などからの幅広い協力が必要です。教育を重視し、大学や教育機関の枠を超えたコラボレーションを促し、ライフステージやキャリアパスを通じた学びを実現していくことが重要です」

真のAI時代への道のり

将来に向けた展望を聞くと、シッカ氏はこう答えた。「推論や発話ができるよりインテリジェントなシステムを実現できればとてもエキサイティングだと思います。そのためには引き続きツールやプラットフォームの構築に取り組んでいかなければならないでしょう」

業界の多くの人々は、21世紀にはAIは産業革命における電気や鉄道のような「汎用技術」になるだろうと考えているが、彼らもシッカ氏のこのコメントには同意するだろう。

真のAI時代の到来に向けて、我々にはまだまだ学ぶべきことがたくさんある。教育はそこに向けた前進のカギとなるはずだ。

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