2019/01/30

【北欧発Happiness Technology】
コペンハーゲン・テックフェスティバルで、人とテクノロジーの関わり方を考える

デンマーク工科大学 リサーチアソシエイト。北欧研究所主宰。京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学博士取得。専門分野は、情報システム、デザインアプローチ。異文化協調作業支援、創造性支援、北欧におけるITシステムと参加型デザインの研究を行っている。

人を幸せにするテクノロジー

幸せの国、住みやすい国、働きやすい国として各種国際指標でトップを維持するデンマークは、電子政府指標などでも上位に出てくることの多い国だ。電子政府政策進展の恩恵を受け、デンマークでは行政手続きに止まらず、医療、福祉、教育、金融などのあらゆる分野に置いてデジタル化が進み、デジタルの恩恵が国民生活の隅々にまで行き届いている。デンマークは、先端技術が次々と生まれる国というわけではないものの、国内外の先端技術をうまく活用した生活を良くする工夫が次々と生まれる、人を幸せにする技術の国なのである。

北欧に拠点を置く北欧研究所は、「我々の幸せを向上するためにICTは何ができるか?」を追求している。本連載では、デンマークをはじめとした北欧で花ひらく「人を幸せにするテクノロジー」をハピネステクノロジーと呼び、事例を紹介させていただこうと思う。新しい技術が生活に受け入れられるには、単に技術的進展ばかりでなく、ビジネス上の妥当性や使い勝手の良さが不可欠になる。テクノロジーが人々の生活に恩恵をもたらす北欧の事例を見ることによって、人とテクノロジーの関係性について何かしら学べる点があるのではないか、それを解き明かしていきたい。

第一回目は、多くの生活に密着した技術が紹介されるハピネステクノロジーの見本市とも言える「テックフェス」を紹介する。

人を中心にしたテクノロジーイベント「テックフェス」

2018年9月5〜9日の5日間に渡ってコペンハーゲンで「テックフェスティバル(Techfestival、以降「テックフェス」)」が開催された。テックフェスは、期間中に200を超えるテクノロジー関連のトークショーやワークショップが実施されるフェスティバルで、参加者は一度リストバンドチケット(200デンマーク・クローネ、 1クローネは約17円)を手に入れれば、期間中すべてのセッションに参加することができる。開催場所であるクルビューエン(Kødbyen、直訳すると「肉の街」)は、かつて精肉工場があったエリアで、現在はレストランやバー、アートギャラリーなどのクリエイティブな施設が立ち並ぶ、コペンハーゲンの中でも特に熱いエリアだ。このイベントの開催は今年で2回目である。

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テックフェスの目的は、テクノロジーがどのように私たち人間の社会を形成しているのか、そしてそれが私たちの生活に関わるときに何が起きているのかを見直すことと定義されている。テクノロジーのイベント、と聞くといわゆる「最先端の技術が展示される場」を連想したり、自分とは関係のないものだと思う方も多いかもしれないが、テックフェスは違う。テクノロジーのあり方を人間を中心に置いて考えるための場であり、テクノロジーを利用するすべての人に開かれたイベントなのである。

今回筆者が参加したのは、「Rethinking Food in 21st Century(21世紀の食を見直そう)」というタイトルのトークショー。最初に近くの人と「未来の食」について、5分ほど話す時間が設けられ、その後3人のデンマーク発スタートアップ関係者によるそれぞれのサービスの紹介と、パネルディスカッションが行われた。

楽しみながら家庭の食品廃棄を削減 Plant Jammer

最初に紹介されたのは、Plant Jammerというスタートアップ企業だ。CEOのマイケル・ハッセ(Michael Haase)氏が登壇した。同名のスマートフォン向けアプリは、冷蔵庫の中にある、野菜をはじめとした食材を入力するとそれに合わせてレシピを提案してくれる。家庭で出る食品廃棄をなくすためのアプリだ。

あらかじめアプリに食材を登録しておき、作りたい料理のジャンルを選ぶ。すると、ベースやアクセント、トッピングとなる食材などのカテゴリーごとに食材の選択肢が出てくる。食材の組み合わせがAIによって提案されており、より良い組み合わせほど上部に出てくるようになっている。メインの食材を選んだあとは、「Gastro Wheel」と呼ばれる風味や食感で構成されたマップを操作することで、食材を足し引きして味を調整することができる。そして、最終的に選んだ食材によるレシピが表示される。

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現在選べる料理のジャンルはサラダやパスタなど基本的なものからキッシュやリゾットなど。すでに多種多様だが、今後も選べるジャンルを増やしていくという。食材のシンプルなイラストを基調にしたインターフェースはわかりやすく、また自分が選んだ食材や調味料に基づいてどんなレシピが出てくるのか、ワクワク感がある。「手持ちの食材だけでいかに美味しい食事を作るか」という料理体験の楽しさを原動力に、食品廃棄を減らせる画期的な取り組みである。

つながりを重視、シェアNo.1のフードロス解消アプリ Too Good To Go

Too Good To Goは、飲食店や小売店で販売できなくなったがまだ食べられる食品を安く消費者に提供するプラットフォームである。本イベントでは代表としてデンマーク地域マネージャーを務めるミケル・フォー(Mikkel Fog)氏が登壇した。食品廃棄の解決を目指したアプリとしては世界No.1のシェアを誇っており、欧州の9か国で展開している。イギリスで始まったともいわれるが、実はデンマーク発のアプリである。アプリの中では位置情報を元に近くのレストランやカフェ、スーパーの中から、それぞれのお店が用意した「マジックバッグ」と呼ばれる食品の入ったパッケージを探すことができる。利用者がそれをインターネット上で購入し、お店でパッケージを直接受け取ることで、食べ物が「救出」される、という仕組みだ。

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トークショーでは、食品のロスを防ぐこと以外にも「直接」受け渡しをすることで生まれるローカルなつながりが強調されていた。そのため、Too Good To GoはUberのような宅配サービスを付け加えることは今のところはないという。また、目的は食品廃棄の解消であり、購買を促進することではないため、利用者のデータを集めてそれぞれの嗜好にあった商品を表示させる、といったようなAI活用の仕組みは考えていないという。 このプラットフォームは、ただ有用なテクノロジーを組み込むのではなく、有機的なつながりや本来の社会的課題に焦点を当ててデザインされている。まさに人間と食品との関わり方を中心に考えられているアプリだといえるだろう。

コーヒーかすから価値を生み出す Kaffe Bueno

最後に紹介されたのは、高品質のコーヒー豆を販売する傍らコーヒーを抽出した後の残りかすを有効活用するビジネスを行なっているスタートアップ、Kaffe Buenoだ。話し手は、共同創設者のアレハンドロ・フランコ(Alejandro Franco)氏。彼によると、デンマークでは1年間で5000万kgものコーヒーが消費されているが、なんとその99%は残りかすとして捨てられてしまうそうだ。そこで、Kaffe Buenoはオフィスや飲食店から抽出後のコーヒーを回収したのち独自に精製し、美容オイルやコーヒーフラワー(小麦粉の代用品)を製造、販売しているという。

カフェインをはじめとするコーヒーの成分には、紫外線による肌ダメージの減少、脂肪の燃焼、2型糖尿病リスクの減少など、人の肌や健康に良い成分が多く含まれており、Kaffe Buenoはこれに可能性を見出して日々研究を続けている。2019年には北欧初のコーヒー精製所をコペンハーゲンにオープンする予定だという。同社が活用するバイオテクノロジーは、コーヒーのかすを新しい価値に変え、これからの循環型社会の一役を担うものになると期待されている。

社会的意義を持つサービスに注目

このトークイベントに限らず、テックフェス全体を通して見られた特徴として、「多様性」があげられる。参加者の年齢・性別の偏りがあまり感じられず、イベントはすべて英語で行われていることもあって国籍も多様だ。これは、専門家だけでなく、テクノロジーを利用するすべての人が対象となるテックフェスの性格ゆえのことなのだろうし、社会におけるテクノロジーの利用を考えてみると不可欠なイベントデザインの枠組みだろう。

今回取り上げた事例の他にも、テックフェスではさまざまなデンマーク発のテクノロジー関連サービスが紹介されていた。そしてその多くが、技術の新しさだけでなく、生活や社会の課題を解決することを主眼とするものであった。特にIT系では、使い勝手の良いアプリなどが次々と出ている。それゆえに、北欧の人は目も肥えていて、アプリも単なる新規性だけでは使ってもらえない。便利さだけではなく、持続可能な社会に貢献することが付加価値となりつつあるのだ。持続可能な開発目標(SDGs)が国際的に定められ、さまざまな取り組みが行われるなか、こうした社会的意義を持つサービスは今後世界でもより注目を浴びていくのではないだろうか。

今後も本連載では、北欧の社会に根づき、人々を幸せにしているユニークなハピネステクノロジーを紹介する。そして、社会課題解決の重要性が増していくなかで、これからのテクノロジーはどのように位置づけられるべきかを考えていく。

共著者

堀内美佑(ほりうち みゆ)

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