2019/01/30

いよいよ「現実に降りてきた」人工知能(AI)活用
~中国、世界における先進事例を見る

北海道生まれ。Footprint Technologies株式会社代表取締役。ライター、編集者としてモバイル機器、AV機器、エンタープライズ向けソリューションなど、テクノロジー分野を幅広くカバーするほか、オートバイを含むオートモーティブや旅行といったジャンルの記事執筆も行う。

人工知能(AI)が人間の仕事を奪うのでは、と危惧する向きもあるなか、それでもAIの技術は日々進歩し続けている。クルマの自動運転、無人店舗、自律・会話ロボットなど、AIにかかわるニュースを見聞きしない日は1日としてないほど。今のところ日本国内では、そうしたニュースになる事例は実証実験の意味合いの強いものが目立つが、中国や世界ではすでにビジネスに、あるいは日常に、すでにAIが入り込んでいる。そんな「現実に降りてきた」AIの実例を、昨年10月に中国・上海で開催された年次イベント「HUAWEI CONNECT 2018」のなかから見てみたい。


2018年10月に行われたイベント「HUAWEI CONNECT 2018」

産業、交通分野~安全性、作業効率の向上を実現する道具の認識

中国国内のとある工場の出入り口で稼働しているAIゲートでは、従業員が身に付けている装備を映像から判断して通行を制御している。イベントの展示では、その一例として、ヘルメットを装着しているかを認識し、正しく装着していればゲートを通過できるというデモを行っていた。ここでポイントとなるのは、単純に頭部のヘルメットの有無を見ているのではなく、あごひもをしっかり結んでいるかどうかも判断していること。作業する人の安全、ひいては工場の信頼性の担保にAIが活用されている。


工場の出入り口に設けられたAIゲート(左上)で装備のチェックを行っている


イベントで展示されていたAIゲート。ヘルメットを正しく装着していないと通過できない


工具類の管理にもAIを活用可能。決められた正しい配置で保管されているかどうかを市販のカメラで監視し、所定の位置になければ通知する。作業の効率化に結び付く仕組みと言える

自動車メーカーの間で激化している自動運転車の開発競争。自動運転の精度を高め、より安全に走行するにはデータ量とAIの処理性能がカギとなるが、ファーウェイは自動運転向け車載コンピューティングプラットフォーム「MDC 600」を開発し、アウディと協業して完全自動運転の1歩手前となる自動運転レベル4を達成している。まだ実用の段階にはないとはいえ、市販車にこの技術が搭載される日もそう遠くないだろう。


自動運転レベル4を達成したアウディの車両


車両のラゲッジスペースに設置された自動運転のための機材


自動運転向け車載コンピューティングプラットフォーム「MDC 600」

教育、セーフ・スマートシティ分野~AIによる行動分析で効果的な教育手法を提案

AIは教育の分野にも広がっている。中国国内やサウジアラビアなどの学校の一部では、教師と生徒の行動データ分析にAIを用いている。教室の授業の様子をカメラで撮影し、その映像を元に教師と生徒の挙動を統計データ化する仕組みだ。教師が説明しているのか、質問しているのか、板書しているのか、あるいは生徒が挙手しているのか、回答しているのか、居眠りしているのか、といったことまで判定し、その行動の割合を数値化するなどして効果的な教育の方法を探ることが可能になっている。


教室内を映像で記録し、AIで教師と生徒の行動分析を行う。遠隔でのリアルタイムコミュニケーションも可能


データの解析結果を表示。教師や生徒がどのような行動をとったかを統計データとして表示する

セーフシティ・スマートシティの分野では、AIの活用は必須。街角に無数に設置されている監視カメラが捉えた映像はあまりにも膨大で、人の目では確認しきれないためだ。展示では、大勢が行き交う街の人々の顔だけでなく、性別、服装、持ち物、状態(姿勢)まで判定している様子や、自動車も同様に車種やナンバーまで判定している様子を確認できた。


歩行者の性別、服装、年齢層に加えて、車両のタイプや具体的な車種まで判定


ほとんど人とはわからないほど遠くにいる人物まできちんと認識している

AIによる画像認識処理は、昨今日本国内でも話題に上ることの多い無人店舗でも活用されている。購入したい品物をカメラの設置されたレジ台に乗せるだけで商品を判別し、合計支払金額を算出する。あるいは、自販機から取り出した商品を検知して、自動で支払いまで完了する。現在主流になっているバーコードによる商品管理と比べると、ラベルを貼る手間を省略でき、レジ係など余剰店員も削減して、コストダウンにつなげられる可能性がある。


レジ台に乗せるだけで商品を認識。レジ係が不要になり、すばやく会計を済ませられる


自販機内に設置したカメラ(棚の天井部分の突起)で商品を認識。商品を取り出したあと、自動でWeChat Payで支払われる

エンターテイメント、コンピューティング分野~AIで新しい遊びを創造

エンターテイメントコンテンツのAI化は、新しい遊びの創造にもつながっている。イベント展示では、PC向けチップメーカーであるインテルとコラボレーションした「AI卓球」を見ることもできた。これは、プロジェクターで卓球台に映像を投影し、そのうえで卓球をプレーすると、ピンポン球の挙動をカメラが検知し、自動でスコアの記録やプレースタイルの分析などを行うもの。審判が不要なだけでなく、映像を使った演出でプレーを盛り上げることもでき、これまでとは違った新しい卓球の楽しみ方が可能になりそうだ。


クラウドサーバーを手がけるインテルとのコラボレーションで実現した「AI卓球」

フルHD(1920×1080ドット)の映像ソースを4K(3840×2160ドット)相当にアップコンバート出力する処理に、AIを利用したシステムの展示もあった。日本ではBS/110度CSの4K/8K放送がスタートしたところだが、過去の低解像度コンテンツを大画面・高精細化が進むディスプレイで表示させる機会は今後も増える可能性があり、こうした技術のニーズは少なくないだろう。


フルHD(画面左半分)の映像と、それをAIで補間処理して4Kにアップコンバートした映像(画面右半分)


別のシーンを拡大。4Kにアップコンバートされた映像(画面右半分)が自然に高精細化されている

今後はAI活用を前提とした競争へ

このように教育分野や店舗のほか、スマートフォンやスマートスピーカーにおける音声認識などで、AIはすでに我々の身近なところに入り込んできている。AIがあらゆるシーンで当たり前の存在になりつつあることで、HUAWEI CONNECT 2018では「AI搭載」を前面に押し出すのではなく、AIを使用したうえで「今何ができるのか」をアピールすることにシフトしてきた。

日本国内のイベントでも2018年後半から、そうした雰囲気が少しずつ見られるようになってきている。例えば12月に東京ビッグサイトで開かれた「AI・スマート住宅EXPO」では、バックグラウンドにAIを使用したスマートな住宅設備が多数展示されていたが、あえてAIは強調せず、実用に即した機能紹介に重点を置いているブースが少なくなかった。

ワイヤレス機器でWi-FiやBluetoothのような無線通信技術の採用自体をアピールしないのと同様に、今後は音声・画像認識などを行うシステムにおいても、AIの採用を声高に訴えることは少なくなるに違いない。代わりに、AIの活用は前提としたうえで、他とどのように差別化を図っているのか、いわば競争の原点に立ち返っていくと考えられそうだ。

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