2019/08/05

【山谷剛史の"デジタル中国"のリアル】「教育情報化2.0」で教育へのIT導入をさらに進める中国

中国を拠点とし、中国・アジアのIT事情を現地ならではの視点から取材・執筆。IT系メディアやトレンド系メディアなど連載多数。著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)などがある。

教育熱を背景に政府主導で進む
「教育+インターネット」

見聞きしたことがあるかもしれないが、中国での都市部の親の教育熱心さは日本以上で、中国の学生は小学生から高校生まで恐ろしく忙しい。日々の学校の宿題が非常に多い上に、時間に余裕があれば親は子どもに英会話教室や、学習塾や、音楽や絵画などの芸術系のおけいこごとなどに通わせる。学校の夏休みの宿題は、「数学と英語の問題集をゼロの段階から1冊あるいはそれ以上終わらせる」「毎日日記を書く」「将棋や囲碁などのやり方を覚える」「英語の曲を一曲唄えるようにする」「中国語の小説と英語の短い読みものを読み終える」といった具合である。学生にとっては夏休みでありながら、とても休める状況ではない。

学校や学習塾やカルチャースクールは程度の差は異なれ、IT化が進んでいる。雲南省の省都・昆明の地場の学習塾チェーンを訪問したことがあるが、学習塾のサイトにログインすると、親と教師の間で生徒の各教科の理解度が共有できるほか、テストや授業で出た問題についての動画解説があり、また授業中にはiPadをディスプレイにつないでパワーポイントによる問題解説が行われる。これら動画やパワーポイントによる解説コンテンツはきちんと著作権が考慮されていて、どこかから拝借したのではなく、学習塾の手作りのものだ。つまり学習塾チェーンの先生が問題を作っては、それについてのパワーポイントや動画の解説コンテンツを作成し、学習塾のネットサービスで学生向けに配信するというのだから、先生方も大変である。

こうしたエデュテック、つまり教育+インターネットの動きは2012年、2013年あたりから急に普及したという。2012年に中国政府による「全国教育信息化工作電視電話会議(中国全土教育情報化テレビ電話会議)」において、「各自のネット学習空間を設けること」「電子黒板を各学校に導入すること」という目標を発表したことが、現在の学校や学習塾のIT化の礎になっている。

この2012年から現在に至るまでの間に、家庭内でのネット端末の主役は一家に1、2台のパソコンから1人1台のスマートフォンに変わり、ポータルとなるサービスは検索の百度(Baidu)から騰訊(Tencent)の微信(WeChat)に変わった。学校では生徒と保護者と教師が微信を活用したグループチャットやサービスを活用し、コミュニケーションをとることが当たり前になった。

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IT系展示会で展示される学校のIT化ソリューション

質の向上やクラウドプラットフォームでの管理を目指す
教育情報化2.0

2018年になり、中国政府教育部は「教育信息化2.0行動計画(教育情報化2.0行動計画)」を発表した。これは2022年を目標に、教育環境のIT化をもう一段階進めるというものだ。2012年が「教育情報化1.0」のはじまりなら、2018年は「教育情報化2.0」のはじまりなのである。

この教育情報化2.0が目指すところは、
「三全」:「全ての教師に、教育学のアプリケーションの恩恵を」「全ての学生に、学習アプリケーションの恩恵を」「全ての学校に、デジタル学校の恩恵を」
「二高」:「情報化アプリケーションの向上」と「生徒と教師の情報リテラシーの向上」
「一大」:あらゆる業界にインターネットテクノロジーをもたらす「互聯網+(インターネットプラス)」の教育版である「インターネットプラス教育プラットフォーム」を構築
である。各学校でのIT機器を導入した教育にとどまらず、生徒だけでなく教師の質もネットサービスにより向上させる一方、さまざまな情報を中央政府・省政府・市政府の教育クラウドプラットフォーム上で管理することになる。教師の質については、中国全土の1万人の小中高校の校長、2万人の小中高の教師を対象とすることを目標にあげる。

この発想は中国の教育部のオリジナルな発想というわけではない。本連載の前回の記事で、医療分野についても似たようなことを書いた。

「微医匯(ウェイイーフイ)」は、ネットを活用した医者を育てるサービスだ。好大夫にも医療関連記事はあるが、こちらは医療関係者向けに絞っている。100万人の医療関係者が登録していて、医療関係の2万超の授業動画がアップされている。中国各地にある約1,000の医療機構と提携していて、各地の医者がこれらのオンラインレッスンを利用しているという。
「微医匯」以外にも医者を育てるサービスは、名医によるオンライン授業動画+オンラインテストによる医療関係者のトレーニングサービス「名医伝世(ミンイーチュエンシー)」、医療関係者向けライブストリーミングサービスの「医生匯(イーシャンフイ)」……などがある。

これらがターゲットとする「医療関係者」を「教師」と置き換えれば、イメージが湧きやすいのではないかと思う。

上述した中国中央政府や省政府の教育部署が管轄する「インターネットプラス教育プラットフォーム」は、同じく2018年に発布された、小学校から高校までの学校のデジタル化建設規範「中小学数字校園建設規範(試行)」に記された4つの目標に基づくものだ。4つの目標とは、

  1. 環境のデジタル化。ビッグデータ、IoT、AIなどのITを活用するほか、教室、ネットワーク、端末といったインフラから、教材、図書などのリソース、学習・教育学・管理・生活までデジタル化を目指す。
  2. あらゆる場面を教育システムがカバーし、アプリケーションが相互につながることを目指す。これにより各人が質の高いアプリケーションやコンテンツを利用し、学校と家庭、教師同士などがつながることを促進する。
  3. ユーザーのネットリテラシーを高める。学生のITを活用した学習能力、教師のITを活用した教育能力、管理者の情報管理能力、技術担当者の能力をそれぞれ向上させる。
  4. ITと教育学を融合し、IT教育学を当たり前のものとし、さらに発展させる。学校の管理についてもIT化し、学校の管理能力や決定能力を向上させる。


つまり、これもまた先に挙げた「教育情報化2.0」に似たものとなっている。

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教育情報化2.0のシステム図(出典:「K12教育信息化的ToB市场布局、未来发展趋势」)

エデュテック企業のサービスと政府の情報管理が融合
さらなる質の向上へ

教育系サービスは無数にある。オンラインで英語・中国語・数学を学べるサービス、おけいこごとのサービス、幼児向けのサービスから、職業訓練に特化したものまで、オンラインとオフラインを融合したサービスを提供するエデュテック企業は数多い。

そうした中でも特に有名なのは、1対1でビデオチャットで英語が学べる「VIPKID」、問題の写真を送るだけで自動的に回答方法を提示してくれたり、レベルに合わせた課題を提供してくれたりする「作業幇」、大手ポータルサイト「網易(NetEase)」が運営する電子辞典や翻訳サービスの「網易有道」などだ。中でも作業幇や網易有道は、本業のほか、現在のネットトレンドに合わせて先生とのライブチャットによる授業サービスも提供するようになった。これはいずれも単体でオンラインとオフラインを融合しているので「教育情報化1.0」だ。もちろん「教育情報化1.0」だからといってローテクというわけではなく、各企業がサービスに磨きをかけていく。

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ネイティブスピーカーの教師陣が売りのチャット英会話サービス「VIPKID」

2019年3月に教育部が発表した教育のIT化に関する通知「2019年教育信息化和網絡安全工作要点」も、目標数値がやや具体化しているが、これまでの「教育信息化2.0行動計画」や「中小学数字校園建設規範(試行)」を踏襲している。追加された点としては、寧夏回族自治区と湖南省でエデュテックを強化すること、さまざまな優良な学習サービスと提携することが記されている。

今後中国人の所得があがって生活が向上するにつれ、ますます多くの人々が質の高い教育を求めようとするだろう。かつ、ふたりっ子世代の下の子どもたちが幼稚園に入園し、やがて小学校に入学するようになる。子どもによりよい教育を受けてあげさせたいと思う親はさらに多くなり、その社会ニーズに応える教育環境構築が急務となっている。

上述のような政府の計画と、中国の他業種で起きてきたことをふまえ、未来の中国の教育の形を考えると、さまざまな学習塾やおけいこごとがIT化でより進化すると同時に、中国が統一した教育プラットフォームを構築し、政府教育系ビッグデータに各学習塾やおけいこごとのデータが加わっていけば、政府の個人情報管理が進む一方で、教育の質はどんどん高まっていくのではなかろうか。

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