2019/08/10

【北欧ライフに学ぶ、幸せの処方箋】デンマークのデザインラボ・CIIDで学んだ、成功するチームの秘訣

外資系IT企業にてデジタルマーケティング関連の技術コンサルティングに従事。
現在デンマークのコペンハーゲンにあるデザインスクールCopenhagen Institute of Interaction Design(CIID)に留学中。

rawpixel © 123RF.com

働きやすい、子育てしやすい、福祉が充実している、男女平等……こうしたイメージで語られ、幸福度が高いと言われる北欧諸国。そこで人々が感じている「幸せ」の源泉はどこにあり、それは日本人にとっての「幸せ」とどう違うのでしょうか? 連載「北欧発Happiness Technology」で社会に根づき人々に幸せをもたらすICTを紹介してくださっている北欧研究所主宰の安岡美佳さんを中心に、北欧での日々の体験に基づく「北欧式・幸せの形」をさまざまな角度から探っていただきます。今回は、デンマークのデザインスクール・CIIDで学ぶ本間美夏さんが、チームワークでイノベーションを生み出すための秘訣について語ります。

世界的に有名なデザインスクールは、まるで大人の幼稚園!?

デンマークにある業界で著名なインタラクションデザインスクール・CIID(Copenhagen Institute of Intearction Design)に通い始めて約半年が経過した。前回の記事でも紹介した通り、CIIDの教育部門は1年間の大学院に相当するプログラム。世界各国から集まった25名で、毎日朝から深夜までアイデアの創出からプロトタイプ作成までを繰り返している。CIIDの1年プログラム参加者の9割は社会人経験があり、もともと会社の役員クラスだった人もちらほらいる。つまり立派な大人である。バックグラウンドも年齢も国籍もバラバラで、共通点があるとしたら好奇心と意欲の高さくらいだ。

この大人たちが毎日「ラボ」にこもり、「何か面白いもの」を一生懸命に考えて作っていく。制約はない。何を使ってもいい。とにかくアイデアを形にして伝えることに皆必死である。この様子がまるで「大人の幼稚園」のようだと、自らを揶揄することもある。

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マイコンを使い、センサーを積んだ自走ロボットを制作

この「大人の幼稚園」に半年間在籍し、何を学んだのか。もちろんデザインプロセスの理解を深めたり、テクノロジースキルを強化をしたという側面もあるが、一番の学びは多様なメンバーと一緒に新しいものを創り出す経験そのものである。

CIIDでは、ある課題に対するソリューションのアイデア出しからプロトタイプ作成までを、2〜4名のチームで、数日間という限られた時間の中で繰り返し行っていく。この半年間で15個のプロトタイプを作成したが、当然うまくいったケースもあれば満足する結果が残せなかったケースもある。新しいアイデアを形にしていくプロジェクトにおいて、チームの成功要因は何なのだろうか。半年間の自身の経験を振り返り、重要だと感じた要素をまとめてみよう。

①メンバーが熱を持って取り組めるテーマを設定する

目指す姿への共感はどの組織運営に置いても重要な要素ではあるが、少人数で新しいアイデアを形にするプロジェクトにおいては、特に丁寧に心がけて進める必要がある。論点を設定し取り組むべきソリューションの大枠をチームで決めていく際、メンバーが熱を持って取り組めるテーマ・世界観を設定できるかどうかが、プロジェクト全体の質に大きく影響する。

「こんな世界が作れたらワクワクする」と本気で感じられるものを、自分たちで作り上げていく工程は単純に楽しいものだ。具体的な形・機能・使い方に関するアイディアも自然に生まれやすいし、何よりチームにポジティブな空気が生まれていく。逆に言うと、人は自分の興味関心の薄い、もしくは何かが心に引っかかる世界を作るために全力で頑張り抜くことは難しい。メンバー1人1人が取り組みたいと思えるテーマになっているかどうかが、プロジェクトのすべての工程に少しずつ影響し、結果として表れ、チームの外にも伝わっていく。

チームで議論を重ねていくと、「あぁ、これだ」とカチッと全員の歯車が合う答えに辿り着く瞬間がある。ここに辿り着くのはなかなか大変なので、妥協したり声の大きい人の意見に従ったりする方が楽と感じることも多いのだが、後々のチーム崩壊を防ぐためにも慎重に進めるべきだ。

しかしこの共感テーマの設定が重要だとわかっているがゆえに、限られた制作時間の多くを取り組む対象を決めるためのディスカッションに費やしてしまい、時間が足りずに失敗することもよくある。煮詰まった時には、まず目に見える形で具体化してしまうと良い。

②手を動かしながら考える

議論が煮詰まる時は、机上の空論での対決となっている場合が多い。どんなに優雅な言葉を並べてアイデアを説明したところで、そこから連想するものは人それぞれ異なる。また、アイデアを出した本人すら、実際に形にしてみると想像していた世界観と食い違うということもよくある。そのため、早い段階で手を動かして形にしながら考えることがとても大切だ。形にすると言っても、最初は紙とハサミで1分で作れるような単純なもので構わない。いったん形にしてみると、違和感を感じるポイントが明確になり、チームメンバーに説明しやすくなり、メンバー間で議論している対象レベルが揃うことで、議論が前に進みやすい。

逆に最初に議論だけで世界観の共有がうまくいったと感じる場合にも、形にするタイミングが遅くなれば、後からズレが生じてくることがある。「話すより、動く」「動きながら考える」ことを基本スタンスとすると、うまくいくケースが多い。

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アイデアスケッチと、簡易的なプロトタイプの例。可視化しながら議論を進めていく

③お互いの癖(価値観、強み・弱み)を尊重し、信頼する

プロジェクトの方向性・進め方などに何か違和感を感じた時、それを躊躇せずに口に出せる環境作りも非常に重要である。チームメンバー全員が心理的安全性を感じながらフラットに意見交換ができる環境作りは、結局のところ、互いを尊重して信頼関係を構築していくプロセスに尽きるのだと思う。

チームにおいて「自分の意見がきちんと聞かれている」と感じることができなければ、相手への不信感からやる気を失ったり、相手をぞんざいに扱ったり、相手のいないところで議論を進め出すなどといった現象が発生しやすい。

たとえ意識的に相手を尊重するように気を配っていても、流暢にしゃべる人の発言の方が良い意見に聞こえやすいし、声の大きい人の意見が通りやすいというのは、ヒエラルキーのまったくないCIIDにおいても同じだ。

互いのことをよく知らない初期であれば、1人1人の発言時間を均等にするなどのルールを活用して全員の意見を拾う方法もある。しかしながら、やはりお互いの考え方の癖や強み・弱みを理解した後の方がスムーズに協業しやすくなるのは言うまでもない。お互いを知って信頼関係を構築していく過程においては、自分の癖を客観的に捉えて伝えるスキル、相手が強みを発揮しやすいようにコミュニケーションを調整していく姿勢が、互いに求められる。

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あるプロトタイプが完成した直後に、メンバーと撮影

改めて振り返ってみても、CIIDは世界でも稀に見る最高に贅沢な大人の幼稚園だと思う。CIIDでは、成績という概念は存在しない。誰かの評価を気にしたアウトプットを出す必要もない。「ここまでできたら十分」という指標が誰からも与えられない環境では、常にモチベーションの源泉は自分たちの中だけに存在する。参加者の多くは、キャリアを中断し、時間とお金を投資してCIIDに来ている。自分を誤魔化せば自分に返ってくるだけ、チームで満足のいく結果を出せなければそれも自分に返ってくるだけである。一般社会とは種類の異なる高いプレッシャーの中で、自分と相手の価値観にまっすぐに向き合い、密なコミュニケーションを重ねながら新しいアイデアをどんどん形にしていく環境。CIIDで得られる一番の資産は、ここで経験をともにした信頼できる仲間であるということだけは間違いないだろう。

大人になって経験を積めば積むほど、制約ありきで考える癖がつき、未知の領域に対する抵抗感も強くなる。いったん幼稚園児に戻ったような感覚で、制約のない探索が許される「大人の幼稚園・CIID」から多くの革新的なアイデアや作品が生まれているのは、理にかなっているのだなと感じた。

北欧ライフに学ぶ、幸せの処方箋⑥
他人の評価を気にする前に、自分と仲間に向き合ってみよう

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