2019/08/04

【北欧ライフに学ぶ、幸せの処方箋】自分の頭で考える――私たちは本当に考えているのか? 振り返りの重要性

奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修士を取得後、国内造船会社で新規事業開発を担当。その後、外資系コンサルティング会社で内部統制やCSR(企業の社会的責任)支援を中心とした多様なコンサルティングに従事。デンマークに移住後、オールボー大学で課題解決学習(PBL)を学び、トレーニングコンサルタントになるべく就職活動中。

Sergey Nivens © 123RF.com

働きやすい、子育てしやすい、福祉が充実している、男女平等……こうしたイメージで語られ、幸福度が高いと言われる北欧諸国。そこで人々が感じている「幸せ」の源泉はどこにあり、それは日本人にとっての「幸せ」とどう違うのでしょうか? 連載「北欧発Happiness Technology」で社会に根づき人々に幸せをもたらすICTを紹介してくださっている北欧研究所主宰の安岡美佳さんを中心に、北欧での日々の体験に基づく「北欧式・幸せの形」をさまざまな角度から探っていただきます。今回は、オールボー(Aalborg)大学でデンマーク式課題解決学習(Problem-Based Learning:PBL)を学んだ内田真生さんが、PBLを通して得た大きな気づきを共有します。

フランスの思想家パスカルは、人間は「考える葦」と言った。オールボー(Aalborg)大学で、デンマーク式課題解決学習(Problem-Based Learning:PBL)を学び、自分の過去の学び方や仕事の仕方を「振り返り」浮かんだ疑問は、「自分の頭で物事を考えてきたのだろうか?」だった。実は、考えているフリをしているだけ、模範解答を探して表面的な理解をしているだけで、自分自身で課題や解決方法を深く考え具現化したことはなかったのではないか。ではなぜ、自分の頭で考えてこなかったのか?恥ずかしい話だが、それは、物事を実行したときに発生する「責任」から逃れようとしていたからだ、という気づきにつながった。

学びの主役は学習者、教員は脇役

学術的に言うと、PBLは「問題・課題に対して学習者が能動的に自分たちで解決策を見つけ出し、その過程で関連する知識も得ていく(Problem-based)、学習者中心(Learner/Student-centred)の学習方法」である。ただし、指導する側の教員の学習への介入度、グループ学習の方法、取り扱う問題・課題の種類、求められる学習成果、学習結果の評価方法などにより、組織や学習目的で定義が異なる。

一般に、PBLの教員は、知識を「教える(Teach)」人ではない。PBLの定義により違いはあるが、ファシリテーター、監督者、または専門家の役割を担う。学習者が見つけた問題・課題と解決策に対し、専門家としての助言をするほか、彼らの学習が行き詰まった時や行くべき方向性を見誤った場合に、建設的なフィードバックや質問といった技術を使い、彼らの現状をともに考え、進むべき方向を示唆する。常に、学習者とともに学ぶことが必要となる。

ただし、教員は学びの支援者かつ脇役で、学びの主役は学習者だ。主役である学習者は、自分自身の学習に責任を持つことが求められる。つまり、わからないことがあれば、自ら率先して、仲間、教員、その他の周囲の人々や情報にアクセスし、さまざまな経験をしながら答えを見つける、もしくは生み出していかなければならない。「先生は教えてくれなかった」と言っても意味はない。

振り返りから学ぶ

少し専門的な話になってしまうが、PBLはいくつかの学習方法の組み合わせでできている。その中の一つ、経験学習の提唱者であるアメリカの哲学者デューイ(Dewey)は、「私たちは経験から学ぶのではない。経験に基づく振り返り(Reflection)から学ぶ」と言った。この学習者による「振り返り」が、PBLにおいて最も重要な要素となる。

振り返りは、「物事に対する意味付けのプロセス」を指す。振り返りでは、学習者は、他者との何らかのやりとり(相互作用)によって起きたある経験と、自分の他の経験や思考を結び付け、深く理解できるようになることで、さらなる学びにつなげる。これを連続的に繰り返す。その際、学習者には自分の成長だけでなく、相手の成長も大切にする態度や心構えが求められる。

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デンマークの短い夏。街中で日光を浴びながら友人とのおしゃべりを楽しみ、冬に備える

プロジェクトベースの実践的な学び

デンマーク式というよりオールボー式PBLは、実社会の問題を解決できる人材の育成を目的とし、プロジェクト活動を重視する、プロブレム/プロジェクト・ベースド・ラーニング(Problem/Project-Based Learning)である。プロジェクト活動を重視する理由は、学習者であるデンマークの学生が、小学生の頃から多くのプロジェクト活動を経験しており、この学習形式に親しみがあること。そして、実社会さながらに他者と協力しながら問題・課題抽出と解決する経験を通じ、学生が机上の空論ではない専門知識・技術を学べる方法だからでもある。実社会の問題解決に重きを置いているため、学習成果は、レポートやプレゼンテーションなどの成果物として完成させることが必須だ。また、仲間と一緒に学ぶことで、個々の学生の学習に対するモチベーションを保つねらいもある。

プロジェクト活動の詳細は別の機会に紹介させていただくが、要は、各学生が、教員陣や外部の専門家のサポートを受けながら、個別の自己学習、仲間とのピア学習(仲間同士で、互いの知識や情報をもとに、協力しあって問題解決をしていく学習活動)、グループでのディスカッションによる振り返りを行い、実社会にある問題・課題を見つけ、解決策を成果物としてまとめ評価を受ける、というものである。この学習方法を通じて、学生たちは、協力しながら独自の答えを見つけ、形にする訓練をしているといえる。

私はPBLの理論と実践方法を、オンラインのMPBL(Master of Problem-Based Learning)コースで学んだ。ここでもプロジェクト活動が中心だったが、その活動に必要な知識・技術を学ぶ講義があった。そこでは、学生が事前学習を行った上で講義に参加する「反転学習(Flipped Learning)」を導入していた。講義は週一回、教員陣による重要事項の解説もあったが、主な目的は質疑応答やクラス全体でのディスカッションによる振り返りだった。事前学習用に、前週に翌週の課題が課題図書などとともに提示される。その課題を問題(Problem)として捉え、自己学習やピア学習を行った成果をレポートにまとめ、オンライン上で全クラスメートと共有。その際、質問や疑問点、皆の参考になりそうな情報も共有し、自主的にディスカッションを始めることもあった。

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オンラインコースのMPBLプログラムでも、プロジェクトが学習活動の中心となっている(’The project is at the core of learning activities in the MPBL programme.’ by Study Guide for the MPBL programme (2014). Problem Based Learning in Engineering and Science, MPBL より筆者による日本語訳追加)

「正解は一つじゃない」
他者の価値観でごまかさず、自分で考えるという気づき

事前学習では、自分の頭で問題と解決策を考えだすことが大切だが、何をどう考え、どう伝えれば良いのか、効果的な議論につながる形にすることも必要だった。講義中は、議論の間、他者の意見から得た振り返りを常に行い、その結果を自分の意見として発信しなければならない。講義後は、自分が何を学べたのか、各々振り返りを行うことが求められた。

この学習活動の集大成が、期末試験だった。試験では、あるテーマに対し、自分で設定した課題とその解決策を提示するとともに、「自分が何を学び、どのような振り返りができたのか」「実際の職場に、どのように反映できたのか」をレポートとしてまとめ、それについて口頭試問を行った。

今でも忘れられないのは、最初の試験終了時のこと。当時、模範解答があるのではないかと考えた私は、試験官の教授に「何が正解だったのでしょうか?」と質問した。彼女の答えは、「正解なんて一つじゃない。あなたが正しいと自信を持った上で、論理的に他者に説明し納得させ、できれば実行できた結果が、あなたにとっての正解なの。この課題の中で、何をどう学んだのか、それを実社会でどう反映できるか、振り返ることが重要なのよ!」というものだった。

その言葉の真意を探る振り返りを繰り返す中で、自分が世の中の価値観や考えにしがみついている姿が頭に浮かんだ。同時に、他人の価値観や考えをコピーすることで、自分の頭で物を考え、発信するという当たり前のことに対する責任を放棄していたのだと気づいた。自分の頭を使って振り返りを行わないことで自身の価値観が曖昧になり、確固たる価値観が欲しいために他者にすがり、他者に責任転嫁をすることで批判精神が大きくなる、という不幸なループに陥っていたことにショックを受けた。

世の中、答えは一つではない。価値観や考えは人によって違う。他者の価値観や考えを理解し、受け入れるためには、自分自身の価値観や考えを持つことが不可欠だろう。そして、異なる基準や答えに敬意を持ち認め合い、協力・協働することができれば、世にある問題・課題を解決できるだけでなく、多様な価値観や考えの存在する新たな生きやすい世界を生み出すこともできるのではないだろうか。

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自然の中で家族とのんびり楽しむ。これも幸せの一つの形

私は、「生きやすさ」は幸福感につながると信じている。そして幸せは、頭を使って考えた先で、感じられた所にあるものではないかと思う。言い換えれば、日々の生活の中で、学びとしての振り返りを行い、その中で自分の価値観や考えを見直し続けることが、自分自身の幸せをつくることになるのではないだろうか。さらに、その個人の幸せを、他者と尊重し合い組み合わせることで、新たな幸せを生み出せると思う。他者の価値観や考えで自分自身の不安をごまかし、自分を正当化するために異なる価値観や考えの人を攻撃していても、幸せは生まれない。これが、”今”の私がオールボー式PBLで振り返りを行った結果だ。

北欧ライフに学ぶ、幸せの処方箋⑤
振り返りを行い、自分の幸せそのものを考えてみよう

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