2019/07/26

【日中クロスオーバー】「読まれるだけではだめ」老舗ウェブメディアRecord Chinaの社長が語るメディア産業と日中関係の変化

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年から中国・大連の東北財経大学に博士留学した後、少数民族向けの大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に執筆、翻訳。法政大学イノベーションマネジメント研究科兼任講師も務める。

Record China 代表取締役社長 任書剣氏

中国情報を発信する老舗ウェブメディアの「Record China」。月間約2,500万PV(ページビュー)と高い知名度を誇りながらも、運営会社や編集部についてはどこかベールに包まれた存在だった。創業者の任書剣代表取締役社長によると、Record Chinaは写真の販売プラットフォームとして設立され、日本での中国情報ニーズの高まりとともに、現在の形に進化していったという。任社長にメディアの歴史や編集体制、そして多くのウェブメディアが抱える運営のジレンマ、解決方法について聞いた。

報道写真の販売からスタート

ーーRecord Chinaはどんな体制で運営しているのでしょうか。

社員が12人いて、そのうち半分が編集部のスタッフです。数年前から韓国担当のスタッフも1人います。また、関東で災害が起きるリスクを考え、関西にも1人スタッフが常駐しています。1日に50~60本のコンテンツを配信しており、翻訳や編集作業は、外部スタッフにも支援してもらっています。創業時からの縁で、大手通信社の複数のOBが、在宅でデスク作業をしてくれています。

ーー今年で創業15年目。ウェブメディアとしては老舗と言ってもいいと思いますが、どういう経緯で起業したのでしょうか。

会社を設立したのは2005年、当時私は日本大学大学院芸術学研究科に留学する学生でした。南京大学でジャーナリズムを専攻し、日本では映像を学んだことから、日中のメディア関係者と付き合いがありました。

ある時、中国のメディアから、「中国の報道写真を日本で販売したい」と相談を受けました。日本の大手通信社の出版部門に売り込みに行き、前向きな返事を得たのですが、その際に取引を仲介する会社が必要になり、設立したのがRecord Chinaです。私はいずれドキュメンタリー映画を作りたいとも思っており、「中国を記録する」という意味の社名にしました。

写真の販売会社としてスタートしたので、当時は今のような事業を手がけるとは想像していませんでした。

中国を伝えるプラットフォームを作る

ーー写真販売サイトからニュースメディアになったきっかけは何だったのでしょうか。

Record Chinaを設立したころは、北京オリンピックを控え、中国情報の需要が急速に高まっている時期でした。

当初は写真だけを販売したのですが、ヤフーをはじめとする国内メディアから「もっと多種多様なコンテンツが欲しい」との要望を受け、写真に詳しいキャプションを入れるなど、情報の付加価値を高めて対応していました。

その後、中国のニュースメディアから協力を得て、2006年11月1日に、ヤフーニュースに記事配信を開始しました。

話が遡りますが、私は学生時代の2003年から2004年にかけ、NHKの番組「新シルクロード」の現場の撮影に数か月参加しました。現地ではNHKとCCTV(中国の国営テレビ局)のスタッフが一緒に撮影していたのですが、意志疎通がうまくいかず支障が出ていました。そこで大学の関係者を通じ、私に現地で調整に当たってほしいと依頼がありました。すぐに新彊に飛び、20~30人の日中のスタッフの間に入り、食事の準備や撮影の調整に奔走しました。その現場にいるときに、「自分ならこういう撮り方をする」と考えたりして、その経験が自分のキャリアの原点になっています。思い返せばあの頃から、中国を伝えるプラットフォームが必要だと感じていました。

ーーインターネットインフラの普及と2008年の北京オリンピックが、Record Chinaの成長を大きく後押ししたわけですね。

そうですね、その頃は競合メディアもなく、独り勝ちと言っていい状態でした。北京オリンピックが終わると、日中の双方向なメディアを作ろうと、北京にオフィスを設け、「Record Japan」の配信を始めました。

そこに水を差したのが、2010年に顕在化した尖閣諸島問題です。私たちの中国でのビジネスは大打撃を受けました。実は中国のテレビ局の協力を得て、日中合同で紅白歌合戦を放映する企画があり、私もその実現に精力を注いでいたのですが、日中関係の冷え込みで白紙になりました。結局2013年に、Record Japan事業の停止を余儀なくされました。

「PV至上主義」からの脱却

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ーー中国での事業はうまくいかなくて残念でしたが、日本でのRecord Chinaのサイト運営は好調だったそうですね。

日中関係の悪化は、新規事業にとってはマイナスでしたが、情報への需要はかえって高まっていたのですね。できるだけ24時間体制で配信しようと2014年にニューヨークに事務所を開設するなど、コンテンツの量と速さを追求するようになりました。

しかし、「読まれる記事をたくさん、速く出そう」という姿勢は、次第にひずみを生むようになっていきました。

このころ、Record Chinaは収益の9割が広告収入でした。コンテンツが大手ポータルサイトのニュースアクセスランキングで上位に入ると、当社のプラットフォームへのアクセス流入も増え、広告収入に貢献しました。

ーーどんな記事が読まれたのでしょうか。

日中関係、日韓関係に関しては、ネガティブなニュースほどPV(ページビュー)が稼げると言っていいでしょう。結果的に、「PV稼ぎ」を目的としたあおり記事が増えました。 読みやすいタイトルを工夫するといったことであれば問題ないですが、過度にネガティブな話題で目を引こうとするあおり記事は、社会の役には立たないんです。この方向性ではだめだと思いつつ、当時は立ち止まれませんでした。

例えば数年前に、中国で肉まんに段ボールを混ぜて販売しているという衝撃のニュースがありました。しかし、探しても引用の報道ばかりで事実が見つからないのです。迷いましたが、私たちも他の日本メディアがやっているからと、引用で記事を作りました。

あおりコンテンツはPVには貢献しますが、批判も絶えません。他社のケースですが、PVを増やすために事実確認がおろそかなまま記事を掲載して大きな問題となり、閉鎖に追い込まれたメディアもありました。私たちもビジネスモデルの転換を迫られ、夜も眠れない日が続きました。

ーー編集方針の軌道修正をしたのでしょうか。

それもありますが、「PV至上主義」を見直すには、広告収入に依存したビジネスモデルを変えることが不可欠です。この3年は専門家の紹介や旅行業など、新規ビジネスの模索を続けてきました。

希望を感じたのは、2015年の爆買いです。中国の一般市民が、自分たちの目で日本を見て、判断する時代になったと感じました。日中関係が悪化しても、市民が冷静さを保っている限り、破壊行為に発展した反日デモは起きないと思いました。

この頃には日中関係も改善に向かい、中国企業や教育機関の日本視察団や訪日旅行、中国政府の日本での投資説明会をお手伝いする機会も出てきました。映像を学んだ私は、元々日本メディアの中国取材をコーディネートすることが多かったのですが、中国側からの依頼が増えてきたのです。

今はこれらのサービスと、メディアの広告収入が半々くらいになりました。

Record ChinaのPVは今も大事です。ただ、以前よりは絶対的なものではなくなりました。

オリジナル記事で専門性を追求、広告に頼らないビジネスモデルへ

ーーコンテンツの作り方も見直したそうですね。

写真販売から始まった会社なのでRecord Chinaは中国メディアの記事の翻訳が中心ですが、2018年末から編集部で取材するオリジナル記事を始めました。

編集部に記者出身者はいないのですが、私がこれまでテレビ局の企画会議に出席してきたことから、「企画の作り方」には心得がありました。面白そうな企画を考え、構成を固めたら、数人で手分けして取材します。最近だと「日本で見かける中国語の変な案内」をテーマに記事を作成しました。

PVを追い求めると、編集方針や方向性はおざなりにされます。オリジナル記事を出すためには、自分たちの役割を考え、実りある会議をしなければならない。今は週に1回の掲載を目標にしていますが、編集部の意識の変化には役に立っています。

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編集会議の様子

ーーウェブメディアは紙媒体ほど立ち上げが難しくありません。ただ、その後のビジネスモデルの作り方は、業界全体で模索が続いています。

まもなく5Gが商用化され、通信環境が大きく変わります。5G時代は「メディア」「コンテンツ」の定義も広がると予想しています。その中で私たちのような小さなメディアが生き残るのは、自分たちの専門性をはっきり打ち出すことだと考えています。

米中貿易摩擦や中国の経済成長というような大きなテーマでは、大手メディアには太刀打ちできません。Record Chinaの強みは庶民の生活を伝え、多くの人に読んでもらうようなコンテンツです。

あとは繰り返しになりますが、広告以外の収入の柱づくりです。広告収入は2割まで下げたいと考えています。私たちは新規事業として中小企業向けの越境EC支援に取り組んでおり、日本商品のアンテナショップを、8月に寧波市国際会展中心に開設し、運営のお手伝いをします。中国市場に興味があるもののノウハウやネットワークに乏しい地方の中小企業を支援していきたいです。

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8月には浙江省・寧波に日本のアンテナショップを開設。現地で準備を進める

取材を終えて

筆者は複数の媒体にコラムやニュースを執筆しているが、読者の反応が一番多いのがRecord Chinaで、愛読者の層の厚さを実感してきた。とは言え、メディアの実態は筆者も詳細には知らず、任社長も今回の取材で、「これまであまり、表に出て話すことはなかった」と語った。その彼が取材を受けたのは、オリジナル記事の掲載など、メディアの方向性がシフトしたことに加え、新規ビジネスを増やしているからでもあるのだろう。

Record Chinaは創業以来黒字を保っているが、日中関係やメディア産業の環境変化の波は常に受けている。任社長は、「日中関係も企業経営も必ずいい時と悪い時があります」と話し、将来に適度な危機感を持って、新しい事業を展開し続ける必要性を訴えた。

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