2019/07/12

【携帯電話研究家・山根康宏が見る、5Gとその先の未来】中国の5Gは開始目前、ライブデモを各地で体験

香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。1,500台超の海外携帯端末コレクションを所有する携帯博士として知られるが、最近では通信技術やIoTなど広くICT全般へと関心を広げ、多岐にわたるトピックをカバーしている。『アスキー』『ITmedia』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。

5G開始を目前に控えた中国。通信事業者も5Gのアピールを開始している

既存3事業者+1社が5G免許を取得

2019年に入ってから各国で相次いで5Gサービスが始まっている。韓国、アメリカ、スイス、イギリス、スペイン、サウジアラビア等々、毎月のように5G導入のニュースが聞かれるようになった。日本でもソフトバンクが7月下旬に音楽イベントで5Gのプレサービスを提供する予定で、一般消費者がリアルな5Gサービスに触れる機会がようやく訪れている。日本以外の国でも5Gのプレサービスやテストサービスは始まっており、2019年下半期には5Gを開始する通信事業者の数も一気に増える見込みだ。

中国でも5Gの動きは活発になっている。6月6日には5Gの免許が公式に交付され、事業者はいつでも5Gサービスを開始することが可能になった。5G免許を取得したのは中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)の既存3社と、新たに中国広電(チャイナブロードキャストネットワーク)を加えた合計4社。人口13億を超える中国市場で5Gを急激に普及させるためには3社では役不足と考えられたのだろう。

ちなみに中国広電は3G時代に普及を図ろうとしたが、その後サービス終了となった中国開発のモバイルTV、CMMB(China Mobile Multimedia Broadcasting)放送が保有していた700MHzの周波数を管理している。この貴重な周波数帯が5Gで有効活用されようとしているのだ。

テストサービスやライブデモで5Gを体感

既存の3事業者は5G免許取得前から中国各地でのテスト用の5Gネットワーク構築を進めており、一般消費者が5Gを体感できるトライアルも始まっている。5Gスマートフォンがまだ市販されていないことから、交通機関や駅・空港などで5GネットワークをWi-Fiルーターなどでシェアし、消費者が自分の4Gスマートフォンで高速な通信速度を体験できるデモなどが広がっている。各都市でのテストサービスには例えば以下のようなものがある。


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世界初の5Gホテルとなったインターコンチネンタルホテル深セン

また5月頃から中国各都市の通信事業者店舗や端末メーカー店舗で5Gスマートフォンが展示され、実際に5G通信を体感できるデモも始まっている。デモを積極的に行っているのは中国聯通で、大規模店舗のみならず中小の店舗の一部でも店頭に「5G」の大きなロゴを掲げ、各メーカーの5Gスマートフォンを展示している。店舗には実際に5Gの電波が飛んでおり、スマートフォンも販売予定の製品が展示されている。

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中国聯通は5Gのライブデモを積極的に展開中

筆者は上海や深センの中国聯通の店舗を訪れてみたが、展示されている5G端末の種類もすでに豊富に揃っていた。ファーウェイの「HUAWEI Mate 20 X (5G)」、OPPOの「Reno 5G」、シャオミの「Mi MiX 3 5G」などはすでに5Gを展開している海外の通信事業者でも販売または採用が決まっている。他にもVivo、ZTE、Nubiaの5Gスマートフォンを展示。中国メーカーの5Gスマートフォンだけでもかなりの数が揃っている。他の来客の様子を見ると、5Gでは動画コンテンツの視聴がより快適に行えることもあってか、ディスプレイサイズの大きい端末に人気が集まっていた。

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ファーウェイの5Gスマートフォン、HUAWEI Mate 20 X (5G)は7.2インチの大画面端末

中国聯通の店舗ではスマートフォンで動画ストリーミングサービスを試用できるほか、Ookla社の速度測定アプリ「Speedtest」がインストールされており、実速度を計測することもできる。見せかけだけの展示ではなく、5Gのライブデモを行っているのである。

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5G回線で1Gbpsを体験

高画質な動画を次々に切り替えてもすぐに視聴が開始される5Gのギガビット速度は、4Gでは得られない体験だ。とはいえ4Gから5Gへユーザーを移行させるためにはこれだけではやや物足りなく感じる。複数のカメラからの動画を同時に受信して好みのアングルに切り替えられるオムニビュー、あるいはVR・ARなど動画そのものの新しい体験をユーザーに提供する必要があるだろう。そしてなによりも、コンテンツそのものに魅力を持たせなければならない。

5Gはすでに始まっている 事例展示であふれていたMWC上海

2019年6月26日から28日まで上海で開催されたGSMA主催の「MWC19上海」では、中国3事業者が5Gサービスを大々的にアピールしており、コンシューマー向けに8K TV放送やVRゲームなどのデモも行なわれた。5G回線を使ったクラウドゲーム配信は若い来場者からの注目が熱い。4Gではゲームに対してのレスポンスが遅れる遅延性が問題だが、5Gならばそれも気にならないレベルだという。中国3社とも「4Gにはない体験」をアピールしていたが、来場者の中でも一般消費者の反応はまずまず良好と言ったところだった。

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MWC19上海での5G回線を使ったクラウドゲームのデモ

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8K動画配信は5Gの特性を生かすサービスになりそうだ

一方で5Gはコンシューマー向けのB2Cサービスだけではなく、産業界やスマートシティなどB2B向けの重要な基幹インフラになろうとしている。MWC19上海の通信事業者の展示でも、多くの事例がデモされていたのは産業分野への応用だ。たとえば工場のロボットや建築現場の重機の遠隔操作、構内を走る自動車のリモート運転、5Gドローンを使った遠隔地のカメラ監視や荷物の運送、さらには遠隔医療やEラーニングへの応用など、5Gの応用事例が3事業者のブースには所狭しと並んでいた。

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5Gの産業向け展開に大きな期待が集まる

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医療分野への5Gの応用も進むだろう

これらのデモは概念が説明されたのではなく、実際にその場で5Gのネットワークと接続されたライブデモが大半だった。海外イベントでの5G関連展示は今年2月の「MWC19 Barcelona」や4月の「ハノーバーメッセ2019」で多数見かけたものの、MWC19上海ほど実際に動く5Gの応用事例の展示はなかった。MWC19上海は、5Gがテスト段階を終えコンシューマー向けサービスをいますぐにでも展開できると思わせるほど、具体例の展示にあふれていたのである。

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一般来場者がまるでゲーム感覚で遠隔地の無人自動車を操る遠隔運転のデモ。遅延を感じることなく操作できた

なお現時点(2019年7月)で各国の通信事業者が展開している5Gの通信方式は2018年6月に3GPPが制定したRelease 15に基づく「5G NR」を採用しており、これが5Gの標準仕様となっている。ただし各事業者は既存の4Gインフラを流用することで5Gの早期普及を目指し、4G・LTEのコアネットワーク(EPC)を5G NRと共用するNSA(ノンスタンドアローン)システムを構築している。つまり「5G」と言いながら、厳密には4Gを共用するネットワーク構成となっている。5G単独のSA(スタンドアローン)のネットワーク仕様は2019年12月に予定されているRelease 16で制定される予定だ。

5Gの真の特性を出すにはSA方式の展開が必要となる。NSAでまずは4Gとの互換を保ちつつコンシューマー向けにスマートフォンサービスを展開し、SAへの切り替えは産業向けなどを優先し、最終的に数年かけてSAを導入する、という展開を通信事業者は考えている。現在発売・発売予定の5GスマートフォンもNSA、SAの両方式に対応しているし、ネットワークベンダーもMWC19上海ではNSAからSAへのマイグレーションに関する展示を行っていた。

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5G is ON」を掲げるファーウェイ。5Gはもはや商用技術であり、次の展開に関する展示も目立っていた

東京・北京のオリンピックに期待

中国の5Gの正式開始は中国移動が2019年後半、中国聯通と中国電信が2020年としている。中国では2022年に北京で冬季オリンピックが開催されることもあり、5Gの本格的な普及はそのころになるだろう。同オリンピックでは中国聯通が公式スポンサーとなっており、5G回線を使ったオリンピック競技配信が本格的に行われるはずだ。2018年に韓国・平昌で行われた冬季オリンピックではKTが世界初の5Gを使ったさまざまなライブ配信を行って注目を集めたが、このときはまだテスト端末のみによる限定的なサービスだった。しかし北京冬季オリンピックでは中国国内の誰もがリッチでインタラクティブな競技配信を体験できるのである。

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中国聯通は2022年の北京冬季オリンピックスポンサー。5Gによる競技配信に注目

日本の5Gも2020年にはスタートし、東京オリンピックでは5Gならではのさまざまなサービスが展開されるだろう。中国の5Gの本格展開後の姿を、東京でも垣間見ることができるかもしれない。

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