2019/07/10

【山谷剛史の"デジタル中国"のリアル】じわじわと進化が進む中国のインターネット医療

中国を拠点とし、中国・アジアのIT事情を現地ならではの視点から取材・執筆。IT系メディアやトレンド系メディアなど連載多数。著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)などがある。

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病院はピンキリ、病院や医師は不足
インターネット医療に期待される課題解決

中国での「医療とインターネットの融合(ネット医療)」が進んでいる。医療系のスタートアップのニュースも週に何本も見るようになった。

…といっても現状のところは普及とはとてもいえる状況ではない。2018年度の中国衛生健康統計年鑑(国家衛生健康委員会)によれば、ネット医療の利用者数は2019年4月時点で4,500万人だという。人口比でいえば3.5%程度だ。

筆者は内陸の都市である雲南省昆明を長く拠点にしていたが、過去の病院の支払いで支付宝(Alipay)や微信支付(WeChatPay)などの電子決済に対応しているのを利用した程度であり、ネット医療の恩恵を受けたことはまだない。ただ今後、じわじわと知る人ぞ知るサービスとして、普及していくだろうし、インターネット医療を意識していなくてもその恩恵を受けるようになる。

現状では、昆明では良い病院と悪い病院の格差が激しく、ほぼ良くない病院ばかりだ。日本と同じ要領で近所の病院に行けばいいというわけではない。よい病院で治療するべく、1番目に知人の話、2番目にネットの書き込み、つまりはまずは口コミを見聞きして判断する。外国人は公立の大病院を利用せざるを得ない場合もあるが、地元の人でお金があれば、とりあえず公立の病院よりは私立の病院のほうが待たなくていいし設備もいいという認識を持っているだろう。農村部や都市の中でも貧しい地域では、個人開業の診療所があり、貧しそうな身なりの人々が点滴を打ちながらベッドに寝ている姿を見ることがある。

ネット医療により、ピンからキリまで多くの病院が改善していくとは思えないが、しかし最終的には省都クラスの一定数の病院は、その恩恵を受けるだろうと考える。また、「都市部は金持ち、農村部は貧乏」と紋切り型で考えがちだが、都市部でも「金持ち」ではなく「ネットリテラシーの高い人々」から普及していくだろう。

そもそもなぜネット医療が必要なのか。一因としては、さまざまな産業で進められているネット技術との融合「互聯網+(インターネットプラス)」がある。くだけた言い方をすれば、ネット化がトレンドだから医療でもインターネットの融合をしてみましょう、ということだ。中国政府は2018年4月に「関于促進“互聯網+医療健康”発展的意見(“インターネットプラス医療健康”の発展促進についての意見)」を発表している。これは他の業界でインターネットとの融合「インターネットプラス」を推進したように、医療についてもインターネットテクノロジーを積極的に活用した新サービスの投入を推進するとともに、産業の健全な発展を求めるもの。

だがそれだけではない。前述のように現状の病院はピンキリであり、医師の技量や知識の差が大きい。また中国の人々も健康になり寿命が延びてきたことで、高齢の患者が増えている。こうした中で、医療サービスが量的に不足している一方、医者の育成には時間がかかる。社会保障も日本ほどは充実しておらず、所得によっては医者にかかることも難しい。そこで、現状あるリソースでいかに効率よく医者を育て、市民が利用しやすい医療現場を効率よく提供するかという問題意識から、さまざまな新サービスが登場している。

医療リソースの効率利用を実現するネット医療サービス

以下に挙げるさまざまなネット医療サービスは、中国の一部ですでに商用化されているものだ。

まず、前述した現状の中国の医療問題に幅広いサービスで取り組んでいるのが「好大夫(ハオダーフー)」だ。「オンラインや電話による問診」「上海や北京にいる専門の医者によるビデオチャットによる問診」「患者にとって最適な医者の紹介と予約」「オンラインによる退院後検診」「医者の口コミ評価」「中国全土の病院情報の提供」「医者などの専門家が執筆した数百万記事の医療関連記事」「家庭での慢性病対策」などのサービスを提供している。

「オンラインや電話による問診」「患者にとって最適な医者の紹介と予約」「オンラインによる退院後検診」といったサービスは、医者と患者の拘束時間を減らすことができる。医者が直接会って診察する必要がない患者をオンライン診察にし、別の医者に担当を割り振ることにより、医者と患者がともに時間をとって病院で問診する時間を削減する。専門性のあるの医者は、本当に必要な患者に時間を割けるようになる。また処方箋もオンラインで処理し、専門の薬局から家まで薬を配送する。好大夫によれば、同サイトには21万人の医者が登録していて、1日あたりのサイト訪問者数は300万人超、オンラインでの患者数は30万人弱だという。

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好大夫には各医師ごとのページがあり、メールや電話での問診を申し込めるほか、患者によるレビューや医師が執筆したブログポストも掲載されている

同様のサービスとしては、テンセントが出資する「微医(WeDoctor)」も比較的知られている。微医は専門家の医療記事や、オンライン問診、患者に最適な医者の紹介などを提供している。

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微医(烏鎮(うちん)互聯網(インターネット)医院)は、オフラインの医療施設ネットワークとして全国19の省の100超の病院と提携している

好大夫や微医はネット医療の中でも西洋医学を扱っている。一方「小鹿医館(シャオルーイーグァン」は、同コンセプトの中国医学(漢方)のインターネット融合病院だ。同じようにできる限りオンラインで対応し、処方した漢方薬は配送する。2万3,000人の漢方医が登録し、患者数は100万人超、漢方薬の販売額は数千万元を超える。

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小鹿医館の「雲会診(クラウド診察)」ではオンラインで各地の漢方医の診察と処方が受けられる

好大夫の美容外科版ともいえるのが「美大夫(メイダーフー)」だ。こちらも美容外科医によるオンライン診療+オフラインの手術となるが、加えて場所のコストを抑えるため、シェア手術センターを用意。シェア手術センターでは、最先端の手術施設に加え、看護師や麻酔科医を共有し、美容外科医が手術を行う。

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美大夫のサイト。皮膚美容、ヒアルロン酸、目整形などのメニューが並び、クリックすると各分野を手がける美容外科医を検索できる

好大夫は総合的なサービスを提供しているが、「商贏互聯網医療」は入院治療の最適化を目指したサービスだ。医者と患者と看護師と病院を最適に組み合わせスマートに配置することによって、入院や通院を極力減らし、トータルコストを抑える。一例として、がん患者の治療にかかる時間が3、4日減少したという。同様に退院後の診察の頻度や一度の入院にかかる日数を減らし、トータルでの治療にかかった費用が5,000元(約8万円)削減できたとともに、医者の負担も大幅に軽減できたとしている。

医者の育成にもネットを活用

こうしたネット医療は、既存の医者や施設や看護師などのリソース配分を効率化している。一方、以下に紹介するのは、医者不足をなるべく早急に解決するために、医者を育てるサービスである。

微医匯(ウェイイーフイ)」は、ネットを活用した医者を育てるサービスだ。好大夫にも医療関連記事はあるが、こちらは医療関係者向けに絞っている。100万人の医療関係者が登録していて、医療関係の2万超の授業動画がアップされている。中国各地にある約1,000の医療機構と提携していて、各地の医者がこれらのオンラインレッスンを利用しているという。

「微医匯」以外にも医者を育てるサービスは、名医によるオンライン授業動画+オンラインテストによる医療関係者のトレーニングサービス「名医伝世(ミンイーチュエンシー)」、医療関係者向けライブストリーミングサービスの「医生匯(イーシャンフイ)」、VRによる手術練習ができる「好医術(ハオイーシュー)」、オンライン学術会議を行う「唯医(ウェイイー)」などがある。さらに心臓病専門のサービスや、精神科医に絞ったサービスなど、ジャンルを限定したものもある。

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名医伝世では各地の専門医による授業を動画で受講できる

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医生匯は「直播(ライブストリーミング)」で講義を配信

中国でこれまでに突然普及した、インターネットテクノロジーがもたらしたシェアサイクル・ニューリテール・無人販売店・フードデリバリー・配車サービスなどは、モノがあるからこそイメージがしやすく、中国の発展に驚かされた。一方インターネットと医療の融合では、以上に示したように、サービスは医療関係者、病院、患者をつなぐものであり、端末も既存のスマートフォンなどでほぼ済むため、その発展に気づきにくい。どうしてもモノがないとイメージしにくい面もあるので、「5GによってVRやロボットアームを使った遠隔医療が実現する」というような未来絵図を描きがちだが、実際は中国の現状の問題に即したさまざまなソリューションが誕生しているのだ。今のところはまだ利用者が限られているとはいえ、こうしたネット医療サービスがいつのまにか飛躍的な普及を遂げているという日もそう遠くないかもしれない。

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