2019/06/26

【森山和道の「未来の断片」】バイオ3Dプリンターを活用した細胞積層技術で再生医療の革新を目指すサイフューズ

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

サイフューズの剣山。ステンレス製の針の山に3Dプリンターで細胞塊を刺し、立体構造体を作成する

細胞をレゴブロックのように積み上げて臓器を作り出す。しかも人工材料や動物由来の足場材料を使わず、患者の細胞のみを使って――。画期的な立体組織再生技術の開発に挑んでいるスタートアップが、株式会社サイフューズだ。同社は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による研究開発成果の実用化・社会還元を促進する取り組み「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」から支援を受けている。2019年6月11日に行われたJST理事長記者説明会でのサイフューズ代表取締役の秋枝静香氏によるレクチャーを元に、同社の取り組みについてご紹介する。

足場なし、細胞のみの立体的組織を作る

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株式会社サイフューズ 代表取締役 秋枝静香氏

3Dプリンターを使って、自家(患者本人)の細胞だけから血管や骨軟骨など立体的な組織を作る技術を持つサイフューズは2010年創業の九州大学発ベンチャーである。従来の再生医療はゲルのような人工材料や動物の組織を使った足場(スキャホールド)と呼ばれる材料を用いて、そこで細胞を培養して移植するというものが一般的だ。いっぽうサイフューズの手法は足場材料を使わない。数万個の細胞が凝集した小塊(スフェロイド)を、ステンレスの針を立てた「剣山」に3Dプリンターを使って刺していく。この状態で培養するとやがて細胞塊が連結していき、立体を作ることができる。元になった細胞ももともと患者自身のものだが、できあがった立体物を必要な場所に移植すると、やがて生きた細胞に置換されていくというのが基本的な考え方だ。

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3Dプリンターと自家細胞で立体的な臓器を作る

以前は手作業で20時間ほどかけて数mmサイズの立体物を作るのが限界だったが、今では3Dプリンターを使うことで材料となる細胞を投入するだけで臓器を作ることができるようになっているという。同社が独自開発した専用の3Dプリンター「Regenova(レジェノバ)」と「S-PIKE(スパイク)」はすでに販売されている。ただしサイフューズは装置メーカーではなく、あくまで臓器を細胞製品として届ける会社でありたいと秋枝氏は強調した。

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サイフューズの技術で作られた血管

作ることができるのは骨軟骨や血管、神経導管など。血管は佐賀大学、京都府立医科大学と共同で、人工透析用のシャント(動脈と静脈をつないで透析時の血流量を増やす処置)に利用する新たな治療法の開発を進めており、今年臨床試験を行う予定だ。すでに体内の血管と同等の強度や弾力性を持つことは確認されており、透析患者などへの適用が期待されるという。

秋枝氏は、サイフューズではあくまで細胞だけで立体的な臓器を作製し患者の体内に移植することを目指していると強調した。異物を使うと感染症やアレルギー反応などのリスクが生じる可能性があるからだ。

もともとの技術は、現在佐賀大学医学部附属再生医学研究センター教授の中山功一氏の、九州大学大学院の整形外科時代の研究に由来する。当時、秋枝氏は同研究室の研究員だった。当時の細胞治療は液体状の細胞やシート状のものだけで、立体組織を作る技術がなかった。サイフューズはそこを狙っている。

2000年頃から大学のラボでスタートした研究はJSTの支援を受けて事業化。その後、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、AMED(日本医療研究開発機構)そのほかの支援を受けて今日に至っている。「今のサイフューズがあるのは、たくさんのご支援とご縁の賜物」と秋枝氏は語った。

「剣山メソッド」とバイオ3Dプリンター

前述したように、サイフューズは剣山のようなものに、細胞数万個からなる0.5mmサイズの「細胞の団子」をレゴブロックのように積み立てて立体構造物を作っている。もともとは高校の教科書にものっている細胞凝集現象(似た細胞は自然に集まり塊になる)と、骨がくっつくまで仮止めする骨折の治療法からアイデアを得たものとのこと。

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剣山方式

ちなみに「剣山」は英語の論文でもKenzanと表記されており、この培養法は「”Kenzan” Method」と呼ばれているとのこと。剣山を使ったのは、単純に縦方向に積むと細胞がだらけてしまい大きな臓器の作製が難しいが、仮組みしておけば立体的にできるのではないかという考え方だったという。ただし、闇雲に細胞を詰めこんでも、酸素と栄養分が送れないと細胞は死ぬ。剣山を使うことで針の隙間に栄養分と酸素が循環するのだという。実際にはここに独自のノウハウがあるそうだ。

同社の3Dプリンター「Regenova」は形状を入力し、細胞塊をセットすると、自動で積層していく。その後、バイオリアクターによる成熟を経て、血管のような立体構造体ができあがる。バイオ3Dプリンターには他社製品もあるが、移植可能な臓器を作成できるのはサイフューズのみだという。なお新型の「S-PIKE」は、従来機よりもコンパクトなサイズになっている。

血管、肝臓、神経、軟骨がターゲット

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サイフューズによる細胞で作られた「血管」

サイフューズは最終的にはバイオ3Dプリンターで作った三次元構造物を使って再生医療に貢献することを目指すが、それには時間がかかるため、今はまず、バイオ3Dプリンターと周辺機器の開発・販売と受託研究を行っている。創薬スクリーニングツールの開発も目標の一つだ。

製品化を目指す臓器は、まずは血管、肝臓、神経、骨軟骨。骨軟骨は九州大学病院整形外科と共同研究を行っており、同社の厚みを持った立体構造物を生体内に移植すると、従来は治療が難しかった骨まで病変が進行した症例でも治療可能になることを期待しているという。

血管については、上述のように人工透析をしている患者向けだ。国内の透析患者は32万人。そのうちシャント造設のための人工血管を必要としている患者は1万2,000人。針を何度も刺すと血管がボロボロになってしまううえ、感染症になるリスクも高まる。それを再生させた自己血管に置き換えることを目指している。動物実験はすでに済ませており、移植後に針を刺してもその傷がふさがることなどは確認済みだ。なお品質検査は大変な作業で、さまざまな機器を駆使して強度を確認したり、内視鏡用カメラでチェックしたりしているという。将来的には重症下肢虚血の血行再建や冠動脈バイパス術、脳血管・小児用血管領域への適用を目指す。

末梢神経の再生は京都大学整形外科と共同研究を行っている。神経が切れた箇所にチューブ状の構造体を移植すると、神経が再生する。既存のシリコンチューブでは細い神経しか再生せず、曲げることもできないが、サイフューズのチューブを使うと、きちんと機能するように神経が再生すると期待されているという。共同研究では末梢神経の再生を確認している。また、ラットを使って脊髄損傷をターゲットとした非臨床試験も行っている。

サイフューズの技術は異なる細胞を組み合わせることもできるし、培養後に結合していけば大きな組織を作ることもできる点が特徴だ。大きな皮膚を作ったり、連結することで血管以外にも気管支のような大きな管を作ったりもできる。

創薬支援については、小さな肝臓のような組織を作って製薬会社に提供している。本物の肝臓に近い、薬物の代謝機能を持った3Dの構造体であることから、毒性評価ツールとして使えるという。脂肪肝モデル、胆汁排泄モデルなどの構築も検討中とのこと。毒性評価ツール開発は、業務資本提携している積水化学工業の子会社・積水メディカルと共同で実用化に向けて取り組んでいる。

3Dプリンティング拠点を立ち上げ、商業生産を目指す

サイフューズのバイオ3Dプリンターは澁谷工業株式会社と共同で、社内で開発している。これまでに18台販売している「Regenova」は第3世代。小型装置「S-Pike」のほか、臨床用の装置開発も行っている。その先には商業用生産機開発やグローバル展開も視野に入れている。スタートアップながら会社内で生物研究と工学研究を手がけており、秋枝氏は「一つの会社のなかで医工連携できることが強み。社内外の色々な人たちの知恵をフュージョンしながら進めている」と語った。

いまは日本国内だけでなく、アメリカなど海外で類似の研究開発を進めている機関とも互いに情報交換をしながら、3Dで臓器を作出するという分野自体を作り上げようとしているという。今後の課題は大学のラボを出て、自社で管理可能な3Dプリンティング拠点を作ること。革新的な細胞培養施設で、培養者・移植者・患者を含めサイフューズに関係する誰もが幸せになる臓器づくりを目指すという。2019年4月には、そのために三菱UFJリース株式会社と業務資本契約を締結している。

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サイフューズの歩み

「剣山」も現在はステンレス製の成型品となっているが、一番最初は虫ピンや歯ブラシの毛を石膏で固めて研磨したものを自作して手作りで積層していたという。間もなく創立10周年を迎えるサイフューズ。秋枝氏は「医療として届けられる段階が見えてきた」と述べ、「世界中の医療機関と各診療科に必要な臓器を提供したい」と語った。臓器作出方法の改良も含め、やるべきことはまだ多くありそうだが、今後が楽しみである。

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