2019/06/21

【北欧発Happiness Technology】待ち時間も移動時間もなし、アプリで医師と会話 デンマークのオンライン診察

デンマーク工科大学 リサーチアソシエイト。北欧研究所主宰。京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学博士取得。専門分野は、情報システム、デザインアプローチ。異文化協調作業支援、創造性支援、北欧におけるITシステムと参加型デザインの研究を行っている。

官民連携で進むオンライン診療の取り組み

多くの先進諸国同様、高齢社会を迎えているデンマークでは、医療の質を担保しつつ最適な医療サービスを国民に届ける一つの方法として、オンライン診察の導入がここ数年議論されている。

オンライン診察は医療費削減の一手段として位置付けられ、2018年1月に発表された医療戦略において迅速な導入が求められている項目の一つだ。デンマークの各地域でその進展が見られるが、例えばコペンハーゲン郊外に位置するホルベック病院は今年度、財務省内のデジタル化局が毎年デジタル技術を活用した公共部門の優れた取り組みに与える優秀デジタル賞に選出されるなど、特に評価が高い。ホルベック病院では今年3月時点ですでに200を超える外来患者がオンライン診療を受け、今後さらに450件以上のオンライン診察が予定されているという。

対面式の診察に比べたオンライン診察の利点として、患者が病院まで訪問する移動の負担と待ち時間を少なくし、また病院側では人材リソースの有効活用ができることがあげられる。その利点を生かし、主に対面式の治療でなくとも十分な質のケアを与えられると判断された領域に限り、オンライン診察が導入されている。実際にデンマークにてオンライン診察が行われている例として、例えば下記のようなものがある。

  • オーフス大学病院における妊娠合併症を発症した妊婦を対象とする家庭モニタリング
    外来患者の数は減少し、病院スタッフがモニタリングにかける時間は75%削減された。妊婦の病院での滞在日数は44%削減された。
  • オーフス大学病院における早産の赤ちゃんを持つ家庭に対する家庭サポートの提供
    診察によって危険性がないと判断された場合は、入院せずに家庭でサポートを受けられる
  • 南デンマーク地域における、メンタルヘルスに対するオンライン診察クリニックの設立
  • 北ユトランド地域におけるオンライン診察の導入実験


オンライン診察の仕組みはきわめてシンプルだ。患者は診察用に開発されたアプリをスマートフォンやタブレット、PC機器などにダウンロードし、そのアプリを通じて医師とコミュニケーションを行う。特別に細かい設定やテクノロジーの知識を必要としないという点で、高齢者にも使いやすい点がよい。

このような使い勝手の良いサービスを可能にしているのが、民間企業との提携だ。優秀デジタル賞に選出されたホルベック病院の試みは、医療アプリを開発、提供する民間企業ViewCareとの連携で進められている。また北ユトランドの例では、同じく民間企業のHejdoktor.dkと協同でアプリの開発をするなどして、オンライン診察の推奨をしている。 このように、官民が協力してテクノロジーをサービスに取り組む動きがオンライン診察の領域で行われているのである。

無料の公的医療を補填する有料民間サービス

福祉国家として名高いデンマークは、無料で提供される公共の医療サービスが一つの特色だ。一次診察は地域に登録されているGP(国民一人一人に割り振られたかかりつけ医)により無料で行われる。そのような無料診察が公的医療サービスとして受けられる一方、近年は民間の医療サービスを選択する動きも出てきている。

こうした民間医療サービスの一例が、上述の北ユトランド自治体と協力体制をとるHejdoktor.dkだ。

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Hello Doctorアプリの画面。左図上から医者とのオンライン通話、メールでのコンタクト、処方箋の履歴。右図のようにオンライン診察時間をアプリ上で予約することも可能

Hejdoktor.dkが提供するアプリ「Hello Doctor」では、1か月75デンマーククローネ(約1,200円)で定期サービスの登録ができ、未登録者でも1回250クローネ(約4,000円)でオンライン診察を受けられる。受付時間は平日は16時から21時、土日は9時から14時半で、医師免許を有する医師(歯科医も登録されている)が診察を行っている。

民間サービスであるHejdoktor.dkにお金を払ってまで相談をすることの理由の一つが、公共サービスが時間外の時にサービスを受けられることだ。デンマークの公共サービスを受けられるのは一般的に平日8時~16時であり、Hejdoktor.dkはこの時間外にサービス時間を設定し、公共サービスを利用できない時間にも医療サービスを手軽に受けたい人たちをターゲットとしている。

また、公共サービスと比べて待ち時間や移動時間がかからない点もユーザーには好評だ。現地メディアのインタビュー記事では、公共サービスよりも時間を節約できるのが、民間サービスを使ううえで大変便利だという声があがっていた。

領域は限定的 対面と使い分けながら進展

このようにデンマークではオンライン診察が官民連携で進められているが、まだ妊婦のモニタリングやメンタルヘルスなど一部の領域に限定されており、民間サービスも始まったばかりである。さらに、例えばアトピー性皮膚炎の患者からは適切な処方を受けるためにオンラインではなく対面で診察してもらいたいという要望があるように、ケースバイケースでオンラインと対面を使い分けるというのが今のところは現実的だろう。

デンマークは電子政府ランキングで世界第1位、医療分野のIT活用でも世界トップクラスと、ITを国のシステムに積極的に取り入れ、高い評価を得ている。ヘルスシステムもデジタル推進活動の土壌も日本とは異なるが、デンマークの取り組みは日本のオンライン診察のあり方を検討するうえで大いに役立つのではないか。

デンマークではHello Doctorのようなサービスによって、今では自分の空いた時間に自宅から医療サービスを受けられるようになっている。これまで時間や場所の制約で診療サービスを利用することに負担を抱えていた人たちも、民間オンライン診察という選択肢を選ぶことができるのだ。テクノロジーの導入により誰もが利用しやすいヘルスシステムの構築を進めるデンマークの取り組み。今後もその進展に注目し、都度紹介していきたい。

共著者
松永 和成(まつなが かずなり)

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