2019/06/01

【AI時代に立ち向かう韓国】超スマート社会の一歩は教育革命から #4 子どもたちの日常の中にあるAI

ITジャーナリスト。東京大学大学院情報学環特任助教。韓国ソウル生まれ。東京大学大学院学際情報学府修了(社会情報学修士)。韓国・アジアのIT事情を日本と比較しながら、わかりやすく解説するセミナーや寄稿活動を行っている。『日経ビジネスオンライン』『日経ITpro』『日経Robotics』『ダイヤモンド・オンライン』『ニューズウィーク日本版』『週刊エコノミスト』『日本デジタルコンテンツ白書』等に寄稿中。

SKテレコムのディスプレイ付きAIスピーカー「NUGU nemo」(写真:SKテレコム)

いよいよ始まった5G

IT強国を自負する韓国では毎月のように全国各地でIT展示会が開催されている。4月末にはソウル市内にある展示場COEXで、主に韓国の通信事業者とスタートアップのITサービスとデバイスを展示する「World IT Show」が開催された。会場は韓国が世界初スマートフォン向けサービスを始めた新しい超高速モバイルネットワーク「5G」と「AI」に染まっていた。

韓国では2018年12月1日に企業向け、2019年4月3日にスマートフォン向け5Gサービスが始まった。5G加入件数は、サービス開始から5日過ぎた4月8日時点で10万件、5月26日には60万件を突破した。6月末には100万件を突破する見込みで、予想より速いスピードで5G加入者が増えている。

韓国の5G料金プランは通信事業者ごとに若干違いはあるものの、平均的に月約8,000円で150GB分が使え、月約1万3,000円でデータ使い放題である。料金プランにはデータ+音声通話・SMS使い放題、OTTサービス、メンバーシップ(コンビニやレストランなどでの割引特典)も含まれている。5G対応スマートフォンもサムスン電子の「Galaxy S10 5G」とLG電子の「LG V50 ThinQ」2種類があり、高画質の大画面で超高速、超低遅延が特徴の5Gを経由してOTTやオンラインゲームを楽しめる。韓国の通信事業者LGユープラスは5G基地局にファーウェイの技術を選択した。5Gサービスはまだ首都圏と大都市が中心で、2022年までに全国カバレッジを目指している。

KTの5G野球中継アプリ紹介

エンターテイメントから工場まで
5Gだからできること

World IT Showでは視聴者が好きなアングルを選択できる野球やゴルフなどのスポーツ中継、eスポーツ中継、自動運転シャトルバス、VR、ホログラム、ドローンを使った防災・セキュリティ、遠隔診療、ヘルスケアなど幅広いジャンルのサービスを体験できた。5Gは現在のLTEより伝送速度が最高で100倍(10Gbps)の超高速、LTEの1/10に過ぎない1ミリ秒程度の超低遅延、1km²当たりの接続機器数もLTEより最高100倍(100万台)で同時多重接続可能なのが特徴であり、どの展示コーナーでも5Gだからこそ実現できるという点を強調していた。

スポーツ中継やOTT動画サービスにしても、LTEでは安定した4K高画質のストリーミングは難しかったが、5Gだと再生をクリックすると同時にローディングもなく動画が始まり、途中で低画質に切り替わることなく安定的に4K動画を視聴できた。造船所や中小企業のスマートファクトリーなどLTEから5Gに切り替えるところも増えているそうで、企業ではどのように5Gを利用しているのかも紹介していた。作業員がカメラの前を通る1秒以内に安全道具をちゃんと身に着けているか把握してアラートを鳴らす、360度高画質カメラで転倒や煙発生などを感知して通報する、AIによる外観検査もLTEから5Gに切り替えるとサーバーとの通信速度が上がってよりスピーディーかつ正確になったなど、すでに5Gによっていろいろな変化が起きているのがわかった。

学生たちがアイデアを披露する
「ICT未来人材フォーラム」

展示場の別フロアでは「ICT未来人材フォーラム2019」が同時開催されていた。韓国政府と複数の大学が共催したイベントである。全国30以上の大学にある「ICT研究センター」で大学生らが研究開発したホログラムコンテンツ、頭にヘッドフォンのようなものを付けてモニターを見ながら脳波を使って遊ぶ空を飛ぶゲーム、より軽くて長く飛べるドローン、建物の入り口に設置し出入りする人から花粉や埃を払うIoTエアーシャワー(空気洗浄機)、自動運転シミュレーションなどが展示してあった。会場内には学部生から博士課程まで学生らが自分の研究を紹介、学生が立ち上げたスタートアップを紹介するプレゼンテーションコーナーもあった。二十歳前後の若い大学生が、積極的に自分がしていること、したいことをアピールする姿に感動してしまった。

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各大学がブースを構えるICT未来人材フォーラム

学生らの資料は韓国語と英語で用意してあって、英語も堪能だった。World IT Showは外国人も来場する有名な展示会だからかもしれない。学生のスタートアップは政府も支援しており、随時優秀なアイデアを募集していて、企画書が通れば政府のインキュベーションセンターに入居できるほか、アイデアをビジネス化できるよう専門家のアドバイスも受けられ、国内外の投資家の前でピッチできるチャンスももらえるのだとか。

また展示と研究発表を熱心に聞いている見学者の中には制服を着た高校生も多かった。韓国政府が力を入れている特性化高校(科学高校、情報通信高校など、特定分野の科目を重点的に教える高校)の学生たちで、先生と一緒に見学に来たそうだ。年齢の近い先輩が活躍する姿を見られる展示会はモチベーションアップにつながるだろう。

遊びも勉強も
子どもの日常に浸透するAIスピーカー

教育に関する展示で面白かったのは、通信事業者が提供するディスプレイ付きAIスピーカーである。韓国では子育て中の家庭の多くがAIスピーカーを使っている。子どもの学習サポートのためである。歌を歌ってくれる、絵本を読んでくれるといった機能よりもよく使われているのが、会話機能。AIスピーカーは子どもの「○○って何?」「何で?」「どうして?」と果てしなく続く質問攻撃に忍耐強く付き合ってくれるので、保護者にとっては大助かりである。

韓国のAIスピーカーは韓国の企業が開発したAIを搭載し、韓国語の自然語認識率が高いことを売りにしている。質問の意図を把握して答えてくれるので、とんちんかんな答えをすることもなかった。質問ではなく「今日は友達とたくさん遊んで楽しかった」と話しかけると「よかったね、君が楽しいと私もうれしい」と答えてくれたり、子どもの話し相手にもなってくれる。外国語も話せるので、英語や日本語、中国語の会話練習の相手もしてくれる。クイズ大会やしりとりゲームもできる。IBMが開発したAI「Watson」に韓国の学習塾が保有しているデータを学習させ、子ども一人ひとりに科目ごとにぴったりの学習サポートを行い、データ分析を繰り返して弱点を補い成績を上げる、というサービスも登場した。

展示場にあったSKテレコムの7インチディスプレイ付きAIスピーカー「NUGU nemo」は、AIスピーカーの機能に加え、今や韓国だけでなく米国の子どもたちにも大人気の歌「サメのかぞく」をヒットさせたPINKFONG社のアニメや学習コンテンツを搭載している。動作認識機能で子どもとじゃんけん遊びもできる。面白いのは、子どもの顔がディスプレイから15cm以内にあると、絵本や動画の表示をストップして「もっと離れて」と表示することだ。子どもの視力保護のため、5分おきに距離を確認し近づきすぎないようにする。またディスプレイをスタンド照明として使うこともでき、ナイトモードにすると灯りがだんだん消えて睡眠を誘導する機能もある。さらに、家族の写真を飾るデジタル額縁にもなる。

NUGU nemo紹介動画


展示場にはなかったが、LG電子もAI搭載ホームロボット「CLOi」を子ども用学習サポートロボットに改良して3月からテレフォンショッピング経由で販売を開始した。大手学習塾もAIで学習をサポートする機能を搭載しただけでなく、子どもを褒めて学習意欲を高める会話機能まで付いたディスプレイ付きAIスピーカーの販売を始めた。韓国の親たちは子どもの教育のためにはお金を惜しまないだけに、AIスピーカーやロボットも大人向けよりは子供向け+大人も使える機能を搭載した方が売れるのかもしれない。通信事業者3社によると、2019年末には全世帯の4割がAIスピーカーを保有する見込みである。このように、子どもの日常の中にもしっかりAIが入ってきている。

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LG電子のAI搭載ホームロボット「CLOi」(写真:LG電子)

次回は韓国で行われた調査を元に、AIと未来の職業、学校教育の変化などについて紹介する。

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