2019/06/03

【ソーシャルテクノロジー最前線】ビジネスの社会的意義を重視、ソーシャルテクノロジーを後押しする新世代の投資家たち

フリー・ジャーナリスト。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。フルブライト奨学金(ジャーナリスト・プログラム)を得て、1996年から2年間、スタンフォード大学コンピューター・サイエンス学部にて客員研究員。当時盛り上がりを見せていたシリコンバレー・テクノロジー産業のダイナミズムに魅了される。現在、シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネスのほか、社会、文化、時事問題など、幅広く取材。ネットと社会の変貌を追い続けている一方、建築やデザインも大きな関心の対象。

利益ありきではない投資の形

テクノロジーによって社会的な意義を追求し、社会を向上させようという、ソーシャルテクノロジー企業やテックNPO(非営利組織)などは、今やよく知られる存在になった。それに一歩遅れながらも出てきたのが、社会へより良いインパクトを与えるために投資を行う「ソーシャルインベスター」や「ソーシャルベンチャーキャピタル」だ。

ソーシャルインベスターやソーシャルベンチャーキャピタルには、いろいろな形がある。社会的な意義を持つスタートアップにだけ投資を行うところもあれば、利益追求型と社会的意義追求型のスタートアップを織り交ぜてバランスを取っているように見えるところもある。営利企業とNPOの両方に投資を行うところも見られる。

いずれにしても、こうした投資会社は「インパクト(社会を変えるような影響を持つ)」「サステイナブルおよびリスポンシブル(持続可能で責任を持つ)」「倫理的」「トリプルボトムライン(人、地球、利益を3つの柱とする)」など、それぞれの表現を用いているが、共通しているのは、これまでの利益ありきの投資とは異なったスタンスを採っていることをアピールするものだ。

彼らが出てきた背景には、ご時勢もあるだろう。ミレニアム以降の世代は、ガツガツと儲けだけを追求する社会構造に批判的で、それが投資業界にも反映されていること。テクノロジー業界においてはすでに成功を収めた起業家が多く、彼らが資産をさらに増やす以外のところに目を向けていること。スタートアップが、短期的リターンだけを求める投資家に批判的になっていること。そして、投資会社もESG(環境、社会、ガバナンス)を含めた自らの企業評価に敏感になってきたことなど。そうした変化があるのだ。

世界をポジティブにする起業家を支援
オブビアスベンチャーズ

比較的新しいベンチャーキャピタルで、このカテゴリーに入る会社として、オブビアスベンチャーズ(Obvious Ventures)が挙げられる。

同社は「信条」として、「今の時代に最も価値のある企業は、人類の大きな問題を解決するところだというシンプルな確信の下に、この投資会社を設立しました」と掲げている。投資を行う対象は、「ワールドポジティブな(世界をポジティブな方向へ向ける)起業家」で、彼らを支援することで世界経済の大部分を占めるセクターを再考することができる、としている。

オブビアスベンチャーズの企業紹介動画


オブビアスが投資を行う領域は3つ。「持続可能なシステム」「人々のパワー」「健康な生活」である。具体的にポートフォリオ会社には、人や地球環境を傷めない人工ダイヤモンド開発会社ダイヤモンドファウンドリー(Diamond Foundry)、住宅用ソーラーパネルのレンタル会社モザイク(Mosaic)、ゼロエミッションの電気バス開発会社プロテラ(Proterra)、生物学から生まれる未来素材開発会社ジマージェン(Zymergen)、社会変革をもたらすアピールを起こすためのオンライン署名プラットフォーム提供会社チェンジ・オルグ(Change.org)、植物のタンパク質から肉を作るビヨンドミート(Beyond Meat)、良質で社会的責任を重視した食材を配達するグッドエッグズ(Good Eggs)などがある。

投資は長期的な視点で行うが、それは世界は常にリ・インベンションの最中にあるという理由からだ。社会的な価値を求めるので、最終的には通常の投資よりもリターンが大きいと予測する。

このオブビアスは、投資先を決めるタームシートにユニークな内容を加えている。それは、「ワールドポジティブタームシート」と名付けられ、次のような項目へ記入を求められるようだ。まず、コアの価値観。自分たちのミッションや求める価値は何か。2つ目は、多様性やインクルージョンを意識しているか。それがあれば、リクルーティングや社員教育の方法も違ってくるはずだが、そこはどうか。3つ目は、サステナビリティ。製品やサービスは地球に優しいものか。最後に、チャリティへの貢献。利益の何%かを、社会的な目的を持つ組織に寄付することを考えているか、である。

実は、オブビアス自体が「B Corp.」というカテゴリーの企業として認証されている。B Corp.は、社会や環境、社員を尊重することを掲げて、そのための事業や業績の透明性を約束する。株主への利益還元や利益追求が最優先課題でないことをはっきりさせている会社と言える。B Corp.の認証を受けた会社には、他にもパタゴニアやキックスターターなどが知られている。

成功を収めた起業家がソーシャルインベスターに

オブビアスを共同創業したのは、ツイッターの共同創業者であるエヴ・ウィリアムズや、アップルに売却されたソフトウェア会社を共同創業したジェイムズ・ホアキンら。成功を収めた起業家が、まったく新しい世代のベンチャーキャピタルとなった例だ。

彼らの前に、やはりソーシャルインベスターとして知られていたのが、オミダイアネットワーク(Omidyar Network)である。同社は、イーベイを創設したピエール・オミダイア夫妻が創設したもので、「責任あるテクノロジー」「教育」「資本主義再考」「労働者のパワー」などの9つを投資のテーマに挙げている。

信じるところは、市場の力が社会のポジティブな変化のための動力になるというもので、だからこそ営利会社とNPOの両方に投資を行って、その2つの相互補完的な役割をサポートするという。

投資先は多岐多数にわたり、アフリカのリーダーシップ養成からジャーナリズム関連、コンピューター科学を専攻する学部生に社会的意義を考えさせるイニシアティブもある。 オミダイアネットワークのコンセプト動画


この他に、ソーシャルインベスティングを掲げるベンチャーキャピタルには、ソーシャルキャピタル(Social Capital)シティライト(City Light)などもある。それぞれに投資する領域は少しずつ異なるが、社会的意義を掲げているのは共通する点で、ベンチャーキャピタルの第一世代には見られなかった傾向だろう。

リターン評価は慎重に
複眼的に真の価値を見極める

世界のインパクトインベスティングの状況を追うグローバルインパクトインベスティングネットワーク(GIIN)によると、世界のインパクトインベスティング市場は5,020億ドル(約55兆2,200円)規模と予想される。インパクトインベスター1,300社の数字によるものだ。

こうしたソーシャルインベスティングは、実際にはどれほどのリターンを生んでいるのだろうか。いわゆる「ソーシャルROI(SROI)」は、実質的に数字に現れた効果とともに、通常の決算書には現れない価値を算出しなければならない。そのための明確な方法はなく、その製品やサービスがなかった場合の社会的損失や、関係者による評価も注意深く積み重ねていく必要がある。

「ソーシャル」や「インパクト」は、現在スタートアップの売り文句として過剰に用いられている表現ではある。流行の言葉をちりばめて投資を受けようとする起業家も少なくない。投資をする側は、そのスタートアップの本当の価値を見抜く必要があるわけだ。

ただ、利益と社会的意義という、両刀的な視点をわれわれが持てるようになった変化が意味するところは大きい。どちらをも生かしていく方法を模索するところに、本当のアイデアが求められる時代になったのだ。

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