2019/05/31

【森山和道の「未来の断片」】AIは地方創生の役に立つのか
日経「AI/SUM APPLIED AI SUMMIT AIと人・産業の共進化」から

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

「地方創生のためのAI活用」

さまざまな社会課題が山積する日本だが、そのなかの一つは地方活性化だろう。人口が減少傾向にあるなかで、何をどのようにすればいいのか。筆者も地方出身者の一人なので気になっているテーマなのだが、率直に言って見当もつかない。

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「地方創生のためのAI活用」セッション

AI活用をテーマにしたカンファレンス「AI/SUM APPLIED AI SUMMIT AIと人・産業の共進化」が2019年4月22日から24日の日程で東京・丸の内で開催された。主催は日本経済新聞社。そのなかで「地方創生のためのAI活用」というセッションがあった。登壇者は福島県南相馬市市長の門馬和夫氏、株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャーの井上岳一氏、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻・准教授の山崎俊彦氏、株式会社エムネス代表取締役で放射線診断専門医の北村直幸氏、公立はこだて未来大学副理事長の松原仁氏の5名。モデレーターは日本経済新聞社コメンテーターの中山淳史氏。ここで簡単にレポートしておきたい。

被災地で期待される復興のためのテクノロジー活用

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南相馬市 市長 門馬和夫氏は「とにかく困っている」と強調した

まず、東日本大震災で被災した南相馬市の門馬和夫市長は、同県の浜通り地方について、AIやロボティクスなど最新技術をチャレンジする場所として使ってもらいたいと語った。研究者にとっては色々なことが実験できる場として使えるはずだという。生産年齢人口が被災前に比べて約3割減少した南相馬市は慢性的労働不足に陥っており、率直に言って「困っている」ので、どんなアイデアでも歓迎するとのことだった。

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日本総研創発戦略センター シニアマネージャー 井上岳一氏

南相馬市復興アドバイザーでもある日本総研の井上岳一氏は、どうすれば人が消えた街に暮らしを成り立たせられるのか、パブリックを復興させられるのか、そのためにIoTやAIが使えないかと考えたと述べた。古来から人が続けてきた伝統産業の養蚕などのほか、「福島ロボットテストフィールド」などの試みに期待しているが「試験施設のなかだけで研究していても市民には遠い」と指摘し、もっと生活のなかでIoTなどを活用しなければならないと語った。公共が積極的にAIを使うことで市場を作り、街をイノベーションの舞台にすることが重要だという。少人数であっても合意形成は容易ではないが、個人データ収集の仕組みはむしろ小さな町の信頼の関係を元にすることが重要だと述べた。

AIで「魅力」を探る

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東京大学工学部電子情報工学科 山崎俊彦氏

東京大学工学部電子情報工学科の山崎俊彦氏は人やモノがどうやったら魅力的に見えるのかを研究する「魅力工学」という研究について紹介した。AIは地方とのほうが相性が良いのではないかと考えているという。そして「刺さる情報発信」にAIを活用することで観光支援を行うという試みを紹介した。AIが推薦するタグを付けて画像を投稿したり、撮影されSNS上にアップされた写真の中から、枚数は少ないが多くのいいねを集めた、いわゆるインスタ映えする写真がアップされるところを「穴場」と判定し、紹介するというものだ。

また、婚活にもAIを使うと3倍くらい成功率が上がるといったトライもしているという。この仕組みは子どもの心に刺さってないところはどこかを探ることで教育に活かしたり、ショッピングモールや町全体のデザインに活用したりできるという。人間は何になぜ魅力を感じるのかというのは実応用も含めて面白い研究テーマだ。

データの活用で村の診療所に総合病院並みの医療を

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株式会社エムネス代表取締役、放射線診断専門医 北村直幸氏

遠隔画像診断システムとクラウドプラットフォーム「LOOKREC」を提供している株式会社エムネス代表取締役で放射線診断専門医の北村直幸氏は、日本は画像診断のための装置はダントツで多いが一台あたりの専門医が少ないと指摘。島嶼部や山間部など僻地の医療をなんとかしたいと考えて事業を進めているという。エムネスでは広島県内を中心に46医療機関を結んで遠隔画像診断サービスを行っており、2018年後半からは日本全国に向けて読影事業を開始している。

また日本は実はデータ大国ではないとも指摘した。データのトータル数は多いが実際に使えるデータの数は限られており、アメリカや中国に後れをとっているのが実情だという。北村氏は優秀な医師の知見をAIを用いて患者に還元したいと考え、実臨床に近いかたちで自身が使っていると述べた。

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エムネスによるAIを用いた画像診断支援

エムネスのプラットフォームでは画像だけではなく他の種類のデータも管理して包括的に質の高い医療が提供できるようにし、医療の均てん化を目指すという。また、医療画像データは患者のものであるという考えから、検査の診療データを患者にスマートフォンでデータとして返しているという。さまざまなところに分散している医療情報を個人が閲覧できる時代が近い将来実現し、田舎の村の一診療所であっても総合病院のようなやり方を果たせるのではないかと語った。

高齢者に移動手段を提供するシェアモビリティ

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株式会社未来シェア代表取締役社長、はこだて未来大学 松原仁氏

はこだて未来大学の松原仁氏は2016年に設立した株式会社未来シェアの代表取締役社長として同社の事業を紹介した。多くの地方で公共交通が疲弊している。路線バスは路線も本数も減り、より不便になっていくし、タクシーは日常使いには高くつく。そして高齢者の運転は社会問題になっている。補助金は自治体の財政を圧迫している。いっぽう、地方都市は移動手段がないと生きていけない。そこで「路線バスよりも便利で、タクシーよりも安い公共交通機関システムを実現したい」と考えて、松原氏が立ち上げたのがAIとスマートフォン、GPSを使うモビリティサービスの未来シェアだ。

基本的には乗合バスのようなサービスだが、乗り合う相手を先に決めるわけではない。動き始めたあと、同じ方向にいる客がいたら、ちょっと寄り道するといったかたちで、一人ずつから徴収する金額は低く抑えることができる。到着時間についても、最悪何分以内には到着する、とする。バス・タクシー事業者にとっても乗車率が上がるので利益があるはずだという。

未来シェアでは、これをリアルタイム乗合サービス「SAVS(Smart Access Vehicle Services)と呼んでいる。事前予約が必要な従来のオンデマンドバスよりは使いやすいものを目指している。また将来はこれを医療やデイケア、飲食店などのサービスとも結合することで、交通確保によって住みやすさを維持したいと語った。

簡易なインターフェースと技術の組み合わせがカギ

ここからは筆者の個人的感想である。AIだろうがICTだろうが、これ一発で問題解決といった「銀の弾丸」のような処方があるわけではない。地方にはどこであっても共通した課題と各地に特有の課題があるが、いずれにしろ、できることを何でもやっていくしかない。だが一方、やれることにも限りがある。金も人も限られているわけで、むしろ、何をやらず、何にフォーカスすべきかに各地方自治体の首長たちは頭を悩ませているのが実情だろう。スタートアップその他も結局は商売なので、儲けるためのサイクルを回しようがないところでは実際には本気では取り組みにくいのだろうと思う。しかしながら日本の国土のほとんどは地方だ。なんとか、本当に地方を活性化する技術開発を進めてほしい。

個人的には未来シェアのようなモビリティサービスの将来に興味がある。確かに都度都度の事前予約が必要な既存のオンデマンドバス、オンデマンドタクシーは使いにくい。かといって、スマートフォンを使ったインターフェースというのもどうかなあと思う。スマートフォンを使い馴れていない人たちにとって、かなりハードルが高いことは想像に難くないからだ。スマートフォンは、日常的に使っている年齢層の人が一緒に住んでいて、ちょっとわからないところを教えてくれるような環境にいないと活用は難しいだろう。そして、ライドシェアサービスが最も必要なのは、そういう状況にない人たちなのだ。できれば、今すぐに彼らでも使えるような、ワンボタンなどの簡単なインターフェースにしてほしい。

たとえば、オンデマンドタクシーやオンデマンドバスのバス停に、SIMを内蔵した「押せば車がやってくるボタン」のようなものを用意する。それを押して一定時間待ちさえすれば車がやってくるようなサービスである。さらには目的地も単なるボタンで選択できるようなものにならないものか。自宅からある程度歩く必要があっても、スマートフォンを使って云々よりは、そのほうが現実的で直感的に使いやすいと思う。もちろんボタンを押したあとは待ち時間も表示すべきだし、待合室のような空間があればなお良い。せめてベンチを設置して、雨風がある程度防げるようにしないと、高齢者に「使ってください」とは言いづらい。もしこれで「使える」と判断できたら、今度は各家庭にこのボタンを配ってしまえばいい。これで高齢者の交通手段という問題はとりあえずなんとかできるかもしれない。

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© kawamura_lucy - stock.adobe.com

シンポジウムでも出ていた話題なのだが、このようなライドシェアサービスと、AIを活用した医療均てん化との組み合わせは、今後なんらかのかたちで社会に導入されていくことになるだろう。また、都市部在住者は自動車免許を持たなくなりつつある。ライドシェアと「穴場」発見システムを組み合わせて、旅行者を写真映えするところに連れていくといったかたちで観光業を活性化するのも現実に需要が出てくるのではないか。このように各種技術を組み合わせることで、少しでも地方の寿命を伸ばしていくことが必要だと思う。

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