2019/06/19

キーワードは「新規性」と「持続性」――無人古本屋が発信する、日本に書店を増やす方法

1984年、群馬県生まれ。編集者・ライター。株式会社KADOKAWA、株式会社サイゾーでの雑誌編集を経て、フリーに。編集・構成を担当した書籍は『死体格差』『跳べない蛙-北朝鮮「洗脳文学」の実体』(共に双葉社)など。『現代ビジネス』『Forbes JAPAN』など各種メディアで執筆も行い、カルチャー、社会、医療など、幅広い分野で取材をする。現在、出版レーベル「Hagazussa Books」の立ち上げを準備中。

「みんなの本棚をシェアしてもらう感覚に近い」と語る「BOOK ROAD」店主の中西功さん

駅から徒歩15分…あえて住宅街に出店した理由

「無人古本屋」と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、いくつかの疑問だった。

「本を盗まれたりしないの?」
「お金はどうやって回収する?」
「回収したとして、そのお金を盗む人はいない?」

これまで、野菜の無人販売所というのは目にしたことがあるけれど、無人の書店を目にする機会はなかった。そのせいか、どうしても防犯面が気になってしまう。

「一応、防犯カメラを回してはいますが、これまで本を盗まれたことはないです。価格を300円か500円に統一して、支払いはガチャガチャでしてもらう。お金の管理も問題なくやってこられました」

そう話すのは、武蔵野市にある無人古本屋「BOOK ROAD」の店主、中西功さんだ。JR三鷹駅から徒歩15分ほどの、商店街の一角でその書店を営んでいる。

「もし、繁華街で大特価の商品が無造作に並べられたとしたら、有象無象の人たちが押し寄せて、そこで何か起きてもおかしくないかもしれません。でも、『BOOK ROAD』に来てくれる人たちは、地域に住む人か、“わざわざここを目指して来た人”のどちらかです。前者は自身の生活圏だからこそ、犯罪を犯すようなことはしないだろうし、後者は興味を持ってアクセスしてくれているので、『せっかく来たんだから、何か買って帰ろう』という心理が働きやすい。わざわざ登った富士山の山頂で、物を盗もうとする人っていないと思うんですよ。むしろ、『富士山の山頂で買えるもの』があるとすれば、その行為自体に価値がつく。それと同じなんじゃないかと」

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無人古本屋「BOOK ROAD」は、武蔵野市の三谷通り商店街の一角にある

当初は吉祥寺で店を構えることも考えたという中西さん。しかし、家賃も高い上に、繁華街で運営すれば荒らされる可能性があると考え、あえて少々不便な場所を選んだという。そこには「地域住民が集う、性善説の成り立つ場所がいい」という思いがあった。

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お客さんが置いていってくれたという、出番待ちの本たち

「ある程度の人通りはないとビジネスとしては成り立たないので、生活道路として人が盛んに行き来する場所がいいという希望はありました。結果的に、その狙いは想像以上の効果をもたらしてくれて、本を購入するだけでなく、お客さんがいらなくなった本を置いていってくれたりするようになりました。実は、僕が持ってきた本より、みなさんが置いていってくださった本のほうが売れたりするんです(笑)。中には陳列を変えて“チェ・ゲバラ本フェア”の棚を作ってくれる人がいたり、手書きのポップを置いてくれる人がいたりと、みなさんが自分ごととして“一緒に運営してくれている”ことも、無人本屋ならではの強みですね」

無人販売だからこそ「育つことができた」

本好きが高じて、中西さんが無人古本屋を開店したのは2013年。当時はまだIT企業・楽天に勤めるサラリーマンだった。

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面陳していた金魚本の横に魚釣りのおもちゃをディスプレイしてくれる人がいたりと、書棚作りもお客さんが手伝ってくれている

「楽天に入社した2003年頃は、ちょうど配属されたEコマースの部署がぐんぐん伸びている時期でした。そうした中で、インターネットでものを売るためのコンサル業務を経験させてもらった。さまざまな人に出会うことができたし、仕事は本当に楽しかったです。ただ、コンサルって、正直“口だけ”な部分がある。お客さんに『こうすると業績が伸びるはずです』『こうしたらロングセラーを狙えます』と日々話はするけれど、じゃあそれを自分で試したのかと言われたら、何も言い返せません。実際に何度も『じゃあ、やってみてよ』と言われることがありました。自分でもやってみないことには、説得力がないなと感じるようになったんです。なので、そもそも妻に自宅にある大量の本をどうにかしてほしいと言われていたし、『古本屋』をやりたいなと思うようになりました。そこから、新しさがあって無理なく継続できる本屋さんとは何か、模索を始めました」

まずは徹底的に市場リサーチをしたという中西さん。その規模の大小を問わず、都内の古書店を巡っては話を聞いた。

「古書店の店主さんたちに話を聞くと、意外なことに本屋を維持していく上で最も大きなストレスになるのは、『本が売れない』ということよりも『立ち読みをしていく人』の存在でした。立ち読みで済まされてしまっては売り上げにならないし、商品である本も傷んでしまう。そういうお客さんばかりになったら書店は立ち行かなくなるわけですから、無理もありません。僕も、自分が毎日店に立ってそのストレスを受けるのは嫌だなと思ったし、別の誰かを雇っても、結局その人がストレスを受け、人件費だってかかってしまう。何より、そのせいで本好きの人を嫌になってしまうことは避けたかった。そこで思いついたのが、無人販売でした」

中西さんが生まれ育った東京都小平市は、広大な畑が多く、野菜の無人販売が珍しくなかったという。その原体験がきっかけになった。

「野菜の無人販売所も30か所くらい回って、実際に自分でも野菜を購入してみました。すると、近くを通る人たちの目がやたらと気になるんですよね。『この人は本当にお金払ったの?』という目で見られている気がして、『私、ちゃんと払いましたよ』と言いたい気持ちになる。無人販売にするにしても、“買った証明”が必要だなと思いました」

そこで中西さんが導入したのが、「ガチャガチャ」だ。本の料金を入れて回すと、“買った証明”として特徴的な黄色と青色のビニール袋が出てくるという仕組みになっている。

「自分で新たな仕組みを1から作るのは難しいですが、任天堂の横井軍平氏が提唱した『枯れた技術の水平思考』の通り、すでにある何かを別の使い方で応用して利用したら、新しい価値が生まれるかもしれない。ガチャガチャなら、きっと小さい頃にみんな1度はやったことがあるからハードルも高くない。それを利用して、買う時の面白さを特徴にすることにしました」

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本を購入する際はこのガチャガチャにお金を入れて袋を買う。中には「仕組みが面白かったのでお金を払います」という人もいたとか

この、ガチャガチャで本を買うという「新規性」を追求したことによって、

  1. 金銭的コスト(人が介在する必要がない状態を作り上げることで人件費のカットが可能)
  2. 時間的コスト(週2、3回店を訪れ、商品の補充・整理、お金の回収を行うだけでよい。滞在時間も1回15分程度)
  3. 精神的コスト(対面する機会を減らすことで、客や周囲の人に対してストレスを与えず、自身もストレスを受けない)


という3つのコストを減らすことが可能になったため、運営の負担が減り、「持続性」が高まった。結果、6年間赤字にならずに運営を続けてこられた。

「書店のリサーチをしている際、『いい本屋』と感じたり、評判になっていたりするのは、①品揃えが豊富、②駅近、③希少性の高い本を扱っている、④店主が有名かどうか、のいずれかでした。でも、開店当時はサラリーマンを続けながら運営していくつもりだったのでできることに限りがあるし、新規参入にあたって同じことをしてもうまくはいかないでしょう。かと言って、よく『自分にしかできないことを』というけれど、自分しかできないことってほとんどないんじゃないかって思っているんです。それなら、“自分しかやらなそうなこと”をやってみようと考えたんです」

「とはいえ、儲けは固定費として必要な月々の家賃と電気代(450円程度)を引いて、平均すれば月1、2万円程度です。これだけだと生活していくことは無理ですが、楽しく続けてこられたのは、本業があったからこそです」

みんなの好奇心を持ち寄った書店を作る

そう話しつつも、中西さんは今年の4月に楽天を退職した。現在は、無人古本屋での経験をもとに、“みんなで持ち寄り、みんなで運営する本屋”を吉祥寺でオープンさせるべく、準備中だという。その構想は、長らく空いていた4階立てのビルを1棟借り、「棚貸し」で運営を行うというもの。棚ごとにオーナーを募り、各々が自由に本を置いて販売することで、みんなで一緒に運営するというスタイルだ(現在クラウドファンディングを実施中)。

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出勤は週に2、3回のみ。中西さんが不在の時は商店街の人たちがお店を見守ってくれる

「今後も、書店は出版業界に精通されている方や、書籍に詳しい方が開業するのが主流というのは変わらないと思います。一個人や法人の思想が反映される形で作られる、ウォーターフォール型の書店です。でも、直近10年を見てみると、書店は3割弱減っていて、通常の店舗運営だと厳しくなってきていることがわかります。ならば書籍に精通した方にだけに書店開業を促すのではなく、それとは別の道で書店を増やす方法を模索してもいいんじゃないかと思うんです」

「例えば、ウォーターフォール型書店の店主が広く網羅した中のひとつとして持っている哲学の知識より、哲学を10年以上専門にやってきた研究者の知識のほうが詳しいですよね。そういう人たちが棚ごとに自分の好きな本を置いたら、ある棚は哲学に特化していたり、例えばある棚はカエルに特化していたりと、いろんな特徴がより出しやすくなる。従来の本屋さんの形態とは異なりますが、みんなで持ち寄り、みんなで運営するというボトムアップ型の書店を目指していきたいと考えています」

今後は、「日本列島、書店増大計画」として、日本に地域のハブになる書店を増やしたいという中西さん。「ネットビジネスの出身者だからこそ、作ったら広げたい。そしてそのノウハウを展開して、みんなに使ってほしい」。異業種からの参入だからこそ、新たな価値を見出し、持続させることができる。そんな未来が、書店業界にも見え始めているのだ。

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