2019/07/01

パンダの飼育数日本一を誇る和歌山県「アドベンチャーワールド」 どの役割にも共通の“Smileを創造する”働き方

大阪の企画・編集会社、株式会社glassのスタッフ。地域情報を日々取材して回りながら、新たなトレンドや活気のあるコンテンツに注目する。

パンダの飼育員を約3年半務めている奥村育恵さん

和歌山県の南端部に位置する白浜町には、約80万平方メートルもの広大な敷地を擁する大型テーマパーク「アドベンチャーワールド 」(運営:株式会社アワーズ)がある。ここではおよそ140種、1,400頭の動物の飼育・繁殖研究を行っており、特にジャイアントパンダの繁殖は現在(2019年6月)までで16頭と日本一を誇っている。さらなる繁殖のために中国に旅立ったパンダが11頭もいるため、今は6頭が園内で元気に生活している。

繁殖研究で数多くの実績を持つアドベンチャーワールドは、「こころでときを創るSmileカンパニー」という企業理念を掲げ、チーム・個人の成長を促し社員の自己実現を目指す方法の1つとして「ジョブローテーション」を取り入れている。事務担当から飼育員、販売担当から獣医補佐など、業務のジャンルを問わず部署を異動しさまざまな経験を積んで、人の成長に重きを置くという働き方だ。社内で数々の職種を経験し、現在パンダの飼育員をしている奥村育恵さんに、パンダの繁殖と理念経営に基づくジョブローテーションについてお話をうかがった。

中国に次ぐ繁殖率の高さ 生活環境と相性がカギ

絶滅の恐れがある哺乳類のパンダ。繁殖が難しいと言われているが、なぜアドベンチャーワールドでは中国に次いで高いという成功率を誇っているのか。いくつか理由はあるが、主に重要になるのは生活環境とオスとメスの相性だという。

澄んだ海と青々とした山に囲まれた白浜の土地にはおいしい空気があり、新鮮な竹が手に入りやすい。竹は大阪と京都からそれぞれ週に2回、多い時は300kgほどの量を仕入れている。というのも、野生のパンダは自分の好きな竹や新鮮な竹を求めて竹林を動き回れるが、園内のパンダはそうはいかない。そのため、安全性や鮮度はもちろん、季節や個体の好みも考慮して、さまざまな種類の竹を入手している。だが、それでも食べない時は、園内の竹林からより新鮮な竹を調達することもある。

次に大事なのがパンダ同士の相性。パンダも人間同様、相手を選り好みするのだそうだ。

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竹を食べる結浜(ゆいひん)。複数の土地の竹をバランスよく与えるという

「当園の場合、お父さんの永明(えいめい)とお母さんの良浜(らうひん)がいますが、おっとりした性格の永明はメスに合わせるのが特に上手で、現在は国内最高齢に加え『飼育下で自然交配し、繁殖した世界最高齢のパンダ』という記録も持っています。そんな2頭をそれぞれ見守りながら、私たち飼育員も日々繁殖の準備を行っています」

パンダの発情期は年に一度、通常3〜5月に訪れるが、発情のピークはその中でも2~3日しかないと言われている。限られた期間のなかで、ピーク時にオスとメスが交配を行えるように、飼育員はそれまでの行動の観察をしたり、健康状態を見たりして交配に向けた環境の準備を進めていく。

「春が来て発情の兆候が見られるようになったら、些細なことも気にするようになるので基本的には公開を中止し、落ち着いて過ごせる環境を作っています。いきなり2頭を会わせるのではなく、まずは柵越しにお見合いをさせたり、お互いの部屋を交換してみたりなど、発情のピークを見据えて、一番いいタイミングでオスとメスを対面させられるようにしています」

親子の時間を重視して子育てを優先

同園では、できるだけ母と子での時間を長く過ごせるよう環境を整えている。通常のパンダの親離れの時期は1歳~2歳と言われているため、なるべくその時期までは母親が自分で子育てを行っていく。また、母親の温もりで育てられることにより、赤ちゃんパンダのメスは将来子育てができるように、オスは繁殖に携われるようになりやすい。子育て期間(約1年)を大切にするため、繁殖への取り組みはおおよそ2年おきのペースで行っている。

「赤ちゃんの体調もそうですが、お母さんの健康状態にもかなり気を遣っています。お母さんがストレスなく子育てができるように、新鮮でおいしい竹を食べてもらったり。また、赤ちゃんが母乳をしっかり飲めているかを確認するためにも体重測定や体温測定のチェックを行う必要があるので、その時はお母さんから一時赤ちゃんを預からなければなりません。その場合、できるだけ早くチェックを終えて戻せるようにお母さんに蜂蜜をなめさせています。パンダは1つの物事に集中すると周りが見えなくなるので、お母さんが蜂蜜に夢中になっている間に手短にチェックを済ませるようにしています」

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良浜から母乳を飲む彩浜。授乳は1日に1~2回しか行わない(生後10か月現在)

2018年8月14日、永明と良浜の間に9頭目となる赤ちゃんの「彩浜(さいひん)」が誕生した。通常は100~200gで生まれてくるが、彩浜の体重は過去にアドベンチャーワールドで誕生したパンダの中で最も小さい75gだった。無事出産できたはいいものの、生まれてすぐに体温が下がり、かなり危険な状態に陥ってしまった。また、小さく弱った体では自力で母乳を飲むこともままならないため、彩浜をすぐに保育器に入れ、シリンジや哺乳瓶で母乳を与えていた。2日後、彩浜の体重や体温は通常値まで上がり、その数日後には自分で母乳を飲めるまで回復。約1か月が経った頃には、来園者に元気な姿を見せられるまで成長した。奥村さんを含むスタッフみんながこの一連の出来事を「最善を尽くして起こった奇跡だと思った」と歓喜した。

“Smileを創造すること”に役割は問わない

ここまでに紹介した話はパンダの飼育員だけが知っていることのように思えるが、アドベンチャーワールドでは社員なら誰でも経験し得ることだ。なぜなら社員全員が「次の部署では動物の飼育員をしてください」と告げられる可能性があるから。日々事務所でパソコンを触っていたり、チケットを販売していたりする社員たちも飼育員になることがあるのが、この会社のおもしろいところ。“どのような役割でもSmileを創造できる”という考えがあり、その中の1つとしてジョブローテションという働き方を取り入れている。1つの会社に在籍しながら幅広い分野に携わってきたスタッフは、この働き方をどう考え、どう感じているのか。奥村さんは続ける。

「私は、入社してから現在のパンダの飼育員の配属になるまで3つの職種を経験しました。営業課でのチケット販売、イルカやペンギンなど海の動物の飼育員、園内にある動物病院の獣医補佐です。それぞれ専門的な知識も必要ですが、これまでの経験は今の自分の業務にすべて活きているなと感じています。営業課に配属されていた時期は、入園口でチケットの販売やベビーカーなどのレンタル、お客様の応対などを行っていました。入園口は来園されるお客様と一番初めに関わる場所です。園内に関するさまざまな質問に答える必要があるため、この業務に携わることによって自分が働くアドベンチャーワールドの情報や知識をたくさん身につけることができました」

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イルカ、クジラたちがダイナミックなパフォーマンスを繰り広げるマリンライブ「Smiles」

次に奥村さんが配属されたのは海の動物の飼育員。ここでは、先輩飼育員から動物の飼育に関する基礎を徹底的に教わった。初めてやる仕事に自信が持てず、悔しくて泣きながら仕事をした日もあったという。

「私は人前に立つことが昔から苦手だったのですが、イルカの飼育員はパフォーマンスライブがあったためお客様の前で演目をしたり、話をしたりする機会が多く、苦手などと言っていられない状況だったんです。ですがこの仕事で場数を踏めたおかげで場慣れすることができて、今はツアーや講演会など、人前で話すことにも自信を持てるようになりました。そして次の異動では園内にある動物病院で獣医の補佐をしました。ホルモン検査などを行っていたのですが、当時は正直、どうしてこの検査が必要なのか知りませんでした。でもパンダの飼育員になってから、行動観察や交配を実際に目にした時に、自分が今まで行っていた検査の数々はこういうポイントで役に立っているんだなと理解できました。ひとつひとつ違う業務をしてきましたが、それぞれの場所で学んだ事柄や経験が、すべて今につながっていると感じます」

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飼育員スタッフはライブにも出演

知識をつなげ、多様な視点と強みを育む

パンダの飼育員となると専門的な知識が必要になってくるが、業種を問わず異動があるアドベンチャーワールドでそれを補っているのが、歴代のスタッフが日常を明確に記録している日報だ。毎日必ず記録をつけており、体重から糞の量まで細かく管理している。これは日々の健康管理に加え、繁殖時期の目安のデータとしても使われる重要なもの。過去の飼育担当者から受け継いだ貴重なデータを、これから携わる未来の飼育員に託す意味もある。日々の成長記にはすべてが詰まっているのだ。

「他の業界であれば転職しないとできないことを同じ会社の中で経験できるので、すごく働きがいを感じます。さまざまな考え方、視点を持っている人と働くとお互いに助けあえることも多いですし、同じことに取り組むときもいろんな意見を交換できます。また、今まで積極的に取り組めなかったことも経験するチャンスがあり、新しい自分を発見できました。私の場合、それが人前に立つことでしたが、いざ実践してみるといろんな人からお褒めの言葉をいただいて、気づいていなかったけど私の強みはこれだと思えて、集中的にその部分を伸ばしていくことができました」

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さまざまな肉食動物や草食動物が見られるサファリワ-ルドも人気だ

アドベンチャーワールドでは、会社全体が企業理念を大切にし、自己実現のためにさまざまな経験を得るための1つの方法としてジョブローテーションを取り入れ、“Smileの創造”を追求している。こうした経験から生まれる実績が彩浜の奇跡的な誕生・成長として実を結び、全スタッフの自信と高いモチベーションへとつながっていくのだろう。

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