2019/07/03

「もったいない能力」を解放する 町工場と企業をつなぎ日本の製造業を活性化するベンチャー・キャディ(CADDi)

1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア『ROBOTEER』を運営。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。

製造業の受発注を改革する注目のベンチャー企業

浅草・隅田川付近の閑静な通りにあるキャディ(CADDi)のオフィス。製造業分野で高い注目を浴びるベンチャー企業の雰囲気は、他のそれとはどこか異なっていた。ベンチャー企業のオフィスと言えば整然としていて、ともすればどこか機械的な印象を受けることが多い。「イノベーション」や「テクノロジー」など、“オシャレ”なトレンドワードがそこら中から聞こえてきそうな雰囲気もある。

誤解して欲しくないのだが、キャディのオフィスがオシャレでないという話では決してない。人間くさいエネルギーが充満している――。立ち入った瞬間に、そんな熱気にあてられるのだ。この異質な雰囲気の理由は何か。同社代表取締役を務める加藤勇志郎氏に話を聞いた後、その疑問はすっと腑に落ちることになる。

高校生の頃、音楽の道に進もうと考えていた加藤氏は、家族の強い希望で大学進学を決意。高校3年生の6月から、決して得意ではなかった勉強に集中し、わずか6か月で東京大学に合格する。大学卒業後は、外資系コンサル大手マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社。重工業、大型輸送機器、建設機械、医療機器、消費財など大手メーカーの購買・調達をサポートする業務に従事した。その後、製造業の課題解決と可能性を追求するため、2017年末にキャディを創業している。

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キャディ代表取締役の加藤勇志郎氏

キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げ、製造業分野の改革を促進するサービスを打ち出している企業だ。2017年11月の設立からわずか1年半で、大手メーカー約60社を含む機械装置メーカーなど3,500社、町工場140社にまで取引実績を拡大している。現時点におけるメインサービスは、機械・装置の板金加工品の受発注を効率化するプラットフォームの開発・運営、また受発注のマッチングサービスだ。詳細は後述するが、製造業の現場には「相見積り」や「値下げ交渉」など、業界プレイヤーの誰もが得をしない受発注の古びた仕組みが根強く残っていた。そこで、キャディは業界に特化した知見とIT技術を組み合わせ、独自のソリューションを生み出した。

なぜ、製造業の受発注に目を向けたのか。加藤氏は、「日本の製造業には課題は数多くある」と前置きしつつ、まず全体的な構造について説明する。

「日本の製造業は、高度経済成長期を通じて、大量生産に合わせた大企業・下請け企業の密な生産体制を築くことで成長を遂げてきました。基本的な戦略としては大企業が“城下町”をつくり、そこで集中的に中小企業の生産体制の効率化や改善が行われていたのです。モノをつくれば売れる時代であれば、それでもよかったかもしれない。しかし多品種少量生産の時代には、その下請け構造がある一面で足かせになってきてしまっている」(加藤氏)

現在、多品種少量生産が必要な業界においては、大量生産時代と変わらず、町工場など小規模な企業が売上のほとんどを一部クライアントに依存する下請け構造が根強く残っているという。仮にクライアントが調達先を変える(=転注)と、町工場の財政は一気に悪化。倒産してしまうというケースも少なくない。一方、クライアントとなる産業機械のメーカー側は、多品種少量生産に対応するためにはさまざまな部品を調達しなければならないのだが、大量生産の下請け構造から脱せずにいる場合、付き合いのある限られた町工場に多くの部品をまとめて発注することになる。町工場としては、得意とする限定的な品目であれば高品質かつ低コストで請け負うことができるが、多品目となると質の低下や納期の遅れが避けられなくなる。そのため、発注元であるメーカー、受注先である町工場ともにコストが増加。価格交渉の末に、受注側が安い値段で無理な仕事を引き受けざるをえないといういびつな関係が生まれている。

「買い叩くというと聞こえが悪いのですが、クライアントは利益が出なくなるので『全体で下げてよ』と交渉するしかなくなる。結果、町工場の75%が赤字になっているとのデータもあります。大量生産の時代に構築された『お客さん中心の下請け構造』は、多品種少量生産の時代にはネガティブ。そこで、特定のモノづくりに強みを持つ町工場が得意な分野を掘り下げることができ、同時に調達側の利益も高めうる仕組みが必要だと考えました」

キャディは顧客である町工場の原価計算の方法をすべてヒアリング。メーカーなど発注側から依頼があれば、強みを持った町工場からの見積もりを即座に提出する。町工場側は不要な見積書をつくる業務から解放される上に黒字で受注することができ、メーカー側も自分たちで発注を行うより2~3割も安く調達を行うことができる。時代に即した製造業の受発注関係をプロモーションする魔法のようなITソリューションだ。

「価格交渉や見積もりから解放されるという側面もそうですが、町工場にとって、自分たちに得意な発注しかこないというのは最大のメリットだと思います。板金と一言でいえども、数百の加工種類に分けられている。そのうち、1カテゴリーだけでも強ければ仕事がくる仕組みなのです。実際のところ、我々のサービスが日本の製造業全体の衰退を止められるかどうかは未知数。それでも、少なくとも残るべき企業が残ることはサポートできると考えています。残るべき企業の定義は、ひとつのカテゴリーでもいいので強みがある会社。競争力がある企業がなくなるのは非常にもったいない。産業全体にとってもマイナスですからね」

受注・発注の双方にWin-Winなサービス

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キャディの社員たち

多品種少量生産が求められる現在の日本の製造業界において、翌月の売上を予測できる町工場は1割にも満たないのではないかと加藤氏は指摘する。例えば、中国の大規模工場であれば、大手メーカーの発注で5年後まで売り上げが読めるというようなこともあろう。一方で日本の町工場には「2週間後までに頼む」というような案件が、突然、一気に降って湧いてくることが常態化している。それがいつ来るか、どのような商品を求められるかもわからないというのだ。加藤氏はキャディのサービスを通じて、町工場の経営に安定した収益基盤を提供できると考えている。

「キャディが毎月の売上の3~4割に相当する案件を安定的に供給できれば、経営者の心理的安全性も確保できますし、残りの6割をどうするか、新たにチャレンジしてもらえる時間や余裕をも生みだせると考えています。その延長線上で業界全体も活性化していき、黒字でサステナブルな構造が生めるのではないかなと」

町工場からすると、クライアントからの受注は“経営そのもの”だと加藤氏。安定的に利益を確保できれば、設備投資を増やしたり、人員を増員することもできる。実際、キャディのサービスを利用している町工場のなかには、「数十年ぶりに社員を雇った」という企業もあるそうだ。加藤氏はそのような話が何よりも喜びであり、誇りであるという。

一方で、加藤氏はキャディのサービスを通じてクライアント企業の調達関係者の負担も軽減できると話す。というのも、部品を調達するクライアント企業の多くも中小企業であり、お菓子を袋に詰める機械や、大手ECサイトの商品をラッピングする機械、クリーニング用の包装機械など、さまざまな用途の産業機械を作るにあたって、調達担当者はひとりで毎日、何百もの図面を加工可能かつコストの合う調達先に振り分ける作業に追われている。しかし受発注の時間やコストを削減でき、かつ納品される部品の品質がアップするとなれば、設計など付加価値を出すための作業に時間を割けるようになるというわけだ。

「クライアント企業も20~30名の中小企業が中心なのですが、キャディの理念に共感してくれる方々も多くいらっしゃいます。というのも、調達する側の方々も町工場の部品を買い叩きたいわけでは決してない。処理しなければならない図面がたくさんあり、経営側からは安く買うよう指示され、製造サイドからは品質や納期を求められる。板挟みのなかで、下請け先に価格交渉せざるをえないんです。ただ本音としては、自分たちが頼んだものを嫌な思いをして作ってほしくないと考えている。キャディの場合、高品質な部品の納品が可能で、かつ町工場側も黒字だということを認知してもらっているので、気持ちよく発注できるとの声をいただいています」

加藤氏は、「町工場」という言葉はキャッチーでメディアにも取り上げられやすい反面、調達側の苦労はあまりフォーカスされないと話す。ただ、調達という仕事は製造業の経営にとって生命線であり、縁の下の力持ち。その調達と町工場がWin-Winになれるサービスであるという点もキャディに支持が集まる理由だ。

能力が正しく評価される仕組みをつくりたい

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キャディの取引先の町工場

日本の製造業は約180兆円、そのうち部品調達は約120兆円におよぶ巨大な市場だ。加藤氏は受発注の改善という現場のニーズに即したサービスをコアに据え、今後さまざまな方向で事業を展開していきたいとする。例えば、町工場の生産工程をIT化する事業だ。

「町工場では発注書が壁に貼ってあるなど、生産工程の9割が紙で管理されています。そのため、案件を忘れてしまったりというようなミスが少なくありません。それをウェブで管理できるようになれば、効率やミスを改善していけるはずです。キャディにとっても、町工場の機械がいつ空いているかが瞬時に把握でき、案件も出しやすくなる。町工場の遊休資産を一瞬で埋めて、納期遅延率などを改善していくことができるのです。既存の生産管理ソフトなどを導入しようとすると、最低1,000万円はかかりますが、弊社としては受発注というビジネスを中心に据えているので、その生産管理のIT化に関しては低コストでサービスを提供できると考えています」

加藤氏はまた、キャディが受発注のプラットフォームとして成長することで、町工場の材料調達のコストダウン、資金調達などファイナンス面にも力を発揮できるはずだと話す。さらに、部品調達の最適化はアジアや欧米でも需要があると踏んでいる。

「私は前職で中国、米国、オランダにおける調達の支援にも従事していましたが、日本の製造業には大きな可能性があると考えています。すべてそうというわけではないですが、大体において、コスト感で言えば米国は日本の2~3倍ほど高いものもある一方で、品質は日本の方が良い、というケースが多い。ただし、日本の中小企業が米国にモノを売れるかというと、非常に難しい。日本の町工場で米国に支社を持っている企業は0.1%にも満たないのではないでしょうか。それでも、モノづくりは非常にわかりやすい分野でもあります。質が良くて安ければ、認められる。横展開しやすいポテンシャルを秘めた領域なのです。海外各国内だけでも部品調達の最適化は可能ですが、私どもとしては、さらに日本の町工場を世界とつなぐようなプラットフォームを生み出していきたい」

加藤氏は取材中、「もったいない」という言葉を何度も使った。そこには、ネガティブな意味合いは決して含まれていない。必要とされるべき企業、そして人々が、環境要因に左右されず、世の中に正しく評価されるべき仕組みが重要だと言うのだ。もったいない、すなわち人が持つ能力や力を最大限に活かすこと――。それが、加藤氏とキャディという企業を通底するビジネス哲学だ。

「私自身は、特定の個人の得意な能力を最大限に伸ばしてあげることが、本人にとっても、企業にとっても、社会にとっても良いことだと考えています。高校生の頃、私はインディーズのレコード会社で活動していました。高田馬場が主な活動の場所だったのですが、20代の先輩たちのなかには、売れていないのに驚くほどうまい人もいました。私もその人たちの音楽がとても好きで、今でもCDを買っているほどなのですが、そういう才能を持った人たちがみな、音楽だけでは稼げないからとコンビニなどでアルバイトをやっていて、途中でつらくなり辞めてしまう。では高田馬場に限定されず、さらに広い世界に彼の歌を届けることができたらどうか。おそらく、音楽だけで食べていける人も少なくなくなかったはずです。人から評価されるべき能力を持っているのに、つぶれていく。そういう状況は、製造業だけでなく世の中にたくさんあります。そんな負の状況をひとつずつ解決していきたい」

製造業の改革に取り組むキャディには、建設業界や不動産業界、SIer業界などからも相談が来ることもあるという。日の目を見ることがない“もったいない可能性”を解放したいと考える業界は日本にとても多いのだ。キャディのオフィスに立ち入った時のあの雰囲気の正体は、現場の人々と接しているからこそ得られる人間や社会に対するポジティブな視点、そして情熱や愛だったのではないかと思えてならない。

写真提供
キャディ株式会社

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