2019/05/20

【山谷剛史の"デジタル中国"のリアル】ひそかに熱い、中国ショッピングモールはハイテクと投資の見本市

中国を拠点とし、中国・アジアのIT事情を現地ならではの視点から取材・執筆。IT系メディアやトレンド系メディアなど連載多数。著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)などがある。

モール内に置かれたVRドライブゲーム

ECが発達し、ECサイトの商品どころか、近所の商店のジュースや市場の野菜まで当たり前に買えるようになった中国では、いよいよ日々外出する必要性がなくなっている。その一方で人をまだまだ呼び込んでいるショッピングモールでは、空きテナントが出つつも、新しいテナントやイベントで人を呼び込もうとしている。中国でリアルとネットの融合というと、阿里巴巴(アリババ)の盒馬鮮生(Fresh Hippo)をはじめとした新零售(ニューリテール)を思い浮かべる中国通もいようが、それとは別の話をしようと思う。

近年中国で人が集まる場所はショッピングモールだ。少なくとも、筆者が住民として見続けてきた雲南省の省都・昆明に関しては変わっていいない。また他の省都クラスの都市においてもショッピングモールへの人の入りは特別多いので、地下鉄が通っているくらいの都市であれば、買い物や食事に出かけるならとりあえずショッピングモールへ、という動きはあるといっていい。

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河南省鄭州のショッピングモール

ショッピングモールはもうできて5年10年クラスのところも多く、見た目はさほど変わらないものの、中に入るとテナントに変化があり、以前とは異なる様子を見せている。そうしたものを中心に紹介していきたい。

「なんだかスゴイ」ショッピングモールのハイテクイベント

人が集まるショッピングモール1階では、よく催し物が開催されている。催し物とといってもアパレルのバーゲンセールだけではなく、広く言えば「ハイテク」を活用したイベントが多い。今まで見たものは数知れないが、例えばVRゲームやドライブゲームなどの試遊スペース、ロボットアームの展示、アーティストによるCGを活用した芸術作品の展示、3Dプリンターを使って何か作ってみるという臨時アートスペースなどがある。かつてはセグウェイなどの立ち乗り二輪車の試乗もよく見かけた。

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モールで見つけたCGアートの特別展示

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多くのモールで新しい体感ゲームが置かれている

こうした催し物に共通するキーワードは、「ITを活用してなんだかスゴイ」ということだ。テクノロジーをショッピングモールという日常生活の場で見ることにより、ハイテク音痴は減るだろう。例えばVRを採用したゲーム筐体が臨時的にもショッピングモールに置かれることで、VRを知り、VRへの心理的ハードルは下がる。日本よりも中国のほうが万人にVRが知られ、結果的に中国人のほうがVR利用のハードルが低くなるのではないかと、両地を比べて感じるところだ。3Dプリンターにしても、特設スペースにずらっと使える状態で並んでいれば、親子連れやカップルがとりあえず触ってみている。

街中で見かけるロボットアーム 呼び込み効果は抜群

先日はモールの通路で通信事業者の中国移動(チャイナモバイル)が特設ブースを設置し、5Gの啓蒙活動を行っていた。そこでは1台のロボットアームがきびきび動き注目を集めていた。5Gを活用したロボットアームが使われるのはスマート工場などであり、ロボットアーム自体は通信事業者が作っているわけではないが、それでも一般向けの5Gのイベントでこうした展示をすることで未来を感じてもらうことができる。人も集まるし、展示の戦略としては正解だったのではないだろうか。

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ロボットアームで遊べる展示をする中国移動

類例では、タピオカミルクティー店を展開する企業が、上海のショッピングモールでロボットアームを利用した無人の店舗を一時的にオープンしていた。おそらくメンテナンスが大変だろうし、オペレーションに時間もかかる。コスト面でも人を雇ったほうがいい。それでもロボットアームを実験的に導入したことで、ニュースバリューが高まり、人々が関心を持った。

ショッピングモールではないが、日本にも出店する有名な火鍋チェーン店「海底撈(ハイディーラオ)」の北京の1店舗が、ロボットアームや配膳ロボットを活用したハイテク店舗となっている。河野太郎外務大臣も視察した店舗だ。入店待ちの人々の海を抜けて広いレストラン内を見てみると、配膳ロボットは稼働しておらず、配膳担当のスタッフがせわしなく食材を運んでいるのが見える。結局はロボットよりも人力のほうが効率がよいのだろうが、結果として一目見たさの人々が集まったのか、数時間待ちの人気店となっている。

「ハイテクな何か」は中国では人を呼び込むものであり、決して効率的でなかろうと、意味があると筆者は感じている。街中でロボットアームを見かける中国と比べると、日本ではロボットアームを見る機会が少ない。そのため、日本人の多くは「ロボット」と聞けば二足で歩く人型のものしか想像できないのではないだろうか。

IT専門メディアを見れば最新トレンドを知ることができるし、ECサイトで意図して探せばハイテク製品を見つけることができるとはいえ、マニア以外は自ら探すこともない。また中国のショッピングモールには家電量販店やガジェットショップ、モバイルショップはあるが、最近の中国の人々は目的なしにふらっと入るようなことはしない。人の集まるショッピングモールの目立つ場所で、どこかの企業がハイテクも含めた面白いイベントを開催しているからこそ、人々は何かがあるのではないかと多かれ少なかれ期待してショッピングセンターを訪問する。

中国の典型的ショッピングモール

ところでショッピングモールはだいたいこんな感じだ。1階にファーウェイやシャオミやアップルなどのモバイルショップと、カフェやファッションブランドショップがある。人が最も動く場所だからか、自販機に加え、クレーンゲームや、最大でも2人しか入れないガラス張りのコンパクトなカラオケボックス、カプセルトイ販売機、ゲームをクリアすると口紅がもらえるといったゲーム要素のある自動販売機などが置かれている。こうした機械は通路に置かれることもあれば、ショッピングモールのテナントの中にびっしりと置かれることもある。

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口紅が獲得できるゲーム(左)と何が入っているかわからない福袋自販機(右)

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クレーンゲームだらけのテナント

地下にはスーパーマーケットのほか、軽食屋や安めの商品を扱う商店が並んでいるが、スーパーマーケットにも近年変化が起きている。店の前にはデリバリー待ちの黄色の美団(メイトゥアン)や青色の餓了么(アーラマ)のスタジャンを着用したドライバーがいる。レジに目をやると、有人レジとセルフレジがあり、有人レジでは若い世代の客がQRコードをスマートフォンで表示しスピーディーに決済する一方、老人や農村出身者らしい身なりの人たちは現金で支払う姿が見られる。セルフレジはここ1年で増えてきている。スマートフォンアプリから商品のバーコードをスキャンして決済する「レジ端末レス」の意欲的なスーパーも登場したが、よく見かけるのは日本のスーパーにあるような、それでいて現金決済には対応していないセルフレジだ。

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スーパーマーケットのセルフレジレーン

最上階にはレストランが並び、映画館がある。このフロアにもだいたいクレーンゲームがあり、上映やレストランの入店を待つ人々が利用する。

1階と最上階の間は低層階はアパレルショップが入り、アパレルフロアとレストランフロアの間には、子ども向けのフロアや、病院や健康のフロアがある。子ども向けのフロアには、子ども服のアパレルショップや、アミューズメントコーナー(子ども向けのゲームセンター)、それに子ども用の知育、語学、絵画、ダンス、音楽などさまざまな教室がある。また最近ではプログラミング的なものを教えるSTEM教室もできている。また病院や健康のフロアでは、フィットネスジムや、美容や健康のためのクリニックがあるところも多い。

教育にヘルスケア モールの出店から見える投資の風向き

実はこのところ、教育や病院や健康に関する分野についての投資ニュースを連日聞くようになった。シェアサイクルをはじめとしたシェアブームでは頻繁に新サービス登場や投融資の話題が出たし、ニューリテールが話題になった時には無人店舗やニューリテール絡みの企業の投融資話が頻繁に出た。そのような感じで、最近教育や病院や健康に関する企業の話題がスタートアップ界隈で増えているのだ。特に幼稚園から高校生までの教育については「K12」という用語が中国で飛び交っている。

つまりシェアサイクルやニューリテールのように投融資を受けた教室や病院やジムが、システムのスマート化を行い、最新の機器やシステムを導入し、スペシャリストなどの有能な人材を取り込み、店舗拡大をしようとしている。例えば子ども用の教室であれば、先生と親で共有できる成績表や、家でも勉強をフォローできるオンラインコンテンツは、多くのK12のスタートアップ企業が手がけている。

北京や上海ならまだしも、昆明程度の省都クラスのサイズの都市であれば、市街地は広すぎず、市内どこでも通うことは可能だ。子どもの未来を考えて留学させたり海外旅行をしたり、あるいは海外への医療ツアーがある中で、愛する子どもや自らの健康管理や美容のために、市内の質の高い教室や病院やジムまで足を運ぶことについて苦にならないのは想像できよう。市内で競合する教室がクオリティ向上で切磋琢磨する一方、ショッピングモールへの出店で知名度を上げていく。

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1階の目立つところに出店する子ども向け教室も

ショッピングモールは今、ハイテクの展示場だけでなく、新しい投資ブームの舞台となっている。これまでと変わらず、人々にとって重要な場所となり続けるだろう。

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