2019/05/22

社会課題の解決資金をどう集めるか? 日本ファンドレイジング協会に聞く日本の寄付&非営利セクター事情

1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア『ROBOTEER』を運営。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。

日本ファンドレイジング協会メンバーと協会会員の皆さん(写真提供:日本ファンドレイジング協会)

先進国のなかでも社会課題が山積する課題先進国・日本。少子高齢化が進み社会保障費が増大するなか、課題解決のための社会的リソースは行政や企業のそれだけではもはや不十分な状況となってきた。並行して重要性が高まっているのが、NPOなど民間非営利セクターだ。

非営利活動を促進するための「特定非営利活動促進法」が成立したのは1998年のこと。法案成立当時、23法人だった認証法人数は約20年が経過した2018年3月末現在、5万1,610社と急激な増加を遂げてきた。一方で、多くのNPOが運営をしていく上で直面する課題がいくつかある。そのうちのひとつが「資金」の問題だ。

社会貢献や課題解決を目的に据える非営利組織といえども、気持ちだけでは決してうまくいかない。行政や企業と同様に、活動を支え拡充するための財政的基盤が“命綱”となる。

そこで今回、非営利セクターの資金調達を指す「ファンドレイジング」の能力開発や、ファンドレイザー資格認定業務を行う日本ファンドレイジング協会に取材。同協会社会的インパクトセンターのマネージング・ディレクターを務める清水潤子氏にお話をうかがった。

課題解決の新たな主役・非営利セクターと“お金問題”

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© vchalup - stock.adobe.com

「私どもの協会が設立されたのは約10年前。米国では、ファンドレイザーという非営利セクターのプロフェッショナルが数多く活躍しています。日本でも、ソーシャルベンチャーをはじめ非営利活動に従事する人々が増えてきており、社会課題解決の主役として期待を集めています。協会としては、非営利組織が自立した活動を継続していくためにはファンドレイジングのプロフェッショナルが必要だと考えており、米国の文化や手法を日本の文脈でどのように落とし込めるかを考えながら、資格および研修サービスなどを提供しています」

ファンドレイジングという言葉は一般的に「寄付」と解釈されることもあるが、その意味合いはもう少し広い。いわば、民間非営利団体が活動のために資金を集める行為の総称だ。一方で、ファンドレイザーとは資金調達はもちろん、組織運営のマネージメントや広報などマルチな能力で非営利セクターを支える人材を指す。

補足までに、日本の寄付市場の規模は他国と比べてまだまだ大きくない。協会が発行する「寄付白書2017」によれば、個人寄付の総額はおよそ7,756億円(2016年)で、名目GDPに占める割合は0.14%だ。対して、米国は1.44%、英国0.54%、韓国0.50%となっている。それでも国内市場だけに焦点を当てた場合、日本の個人・法人の寄付額は徐々に増加傾向にあるとも清水氏は付け加える。

「まず個人で見ると、2009年に約5,455億円だった寄付額は、2016年には約7,756億円まで増加しています。東日本大震災があった2011年には数字が突出していて1兆円を超えました。当時、日本人10人中7人が何かしらの寄付行為に関わったという統計もあります。一方で、国連が定めた開発目標であるSDGsやCSRに投資をしない企業は、株主から共感が得られないという社会的状況も醸成されてきています。そのような背景のもと、法人寄付の額も2009年の約5,467億円から2015年約7,909億円まで増加しています」

清水氏は今後、個人寄付、法人寄付、助成金、ソーシャル投資など、それら“大きなお金の流れ”をつかんでいくことがファンドレイジングに必要だと説明する。また近年では、非営利セクターの資金調達手法が増えてきているとも。クラウドファンディングがその代表格だが、ブロックチェーンや仮想通貨を使った社会貢献ICOも話題となって久しい。加えて、ソーシャル事業に投資を行う投資家、また行政が民間事業の活力を引き入れるための枠組みであり、成果報酬型の委託事業であるソーシャルインパクトボンド(SIB)のモデルケースも増え始めている。さらに日本においては今後、「休眠預金」や「遺贈寄付」なども重要なファンドレイジングの財源になると協会側は予想している。

「自分たちのミッションをしっかりと言語化し共感してもらえれば、非営利セクターであっても資金調達がしやすい環境が整い始めているというのは、ここ数年の社会の大きな変化です。またファンドレイジングについて世界的に言われているのは、テクノロジーへの理解や観点です。インターネットを駆使できる人とそうでない人は、寄付というアクションを起こす際に違いが大きい。日本で言えば、高齢者の方々は赤十字や赤い羽根共同募金など従来型の寄付活動を行う傾向が強く、一方で若者は自分からネットで情報を取得して関心がある活動に参与していく傾向があります」

問われる「課題解決エコシステム」の革新

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2010年から毎年開催されているアジア最大のファンドレイジング大会「ファンドレイジング・日本」では、国内外のファンドレイザーが参加者と事例を共有する

ファンドレイジングの手法が増えている一方、非営利セクターの「課題解決力」そのものには課題はないのだろうか。日本ファンドレイジング協会で業務に従事してきた清水氏の視点からすると、「資金の調達方法を拡充することは重要」である一方、「パイが限られているなか、資金の使い道や課題解決のアプローチを根本的に変えていくことがこれから先とても大切になる」という。

世の中で起きている現象は決してシンプルに解決できるものばかりではない。複合的な要因が絡まりあっているケースがほとんどだ。子どもの貧困という問題だけとっても、問題の本質は親の貧困かもしれないし、子どもの学力の問題かもしれない。はたまたコミュニティ自体が貧困かもしれず、時にそこに暴力の問題や性差の問題が関わって複雑化している。従来の非営利セクターの活動は、「自分たちが設定したアジェンダに対して協力してください」というモデルが一般的で、結果、課題に対するアプローチに多様性を欠いてしまうことが少なくなかった。言い換えれば、各組織やお金の出し手が縦割りの状態で課題に取り組むため、成果を最大化する機会を逸することがあった。今後は、そのような非営利セクターを取り巻く「エコシステムの革新」が必要だと清水氏は指摘する。

「例えば、コレクティブインパクトという考え方があります。解決すべき課題が先にあり、各セクターがそれぞれの強みを活かしながら協力していくアプローチです。課題解決のためのアプローチは何万通りもあると思いますが、今後、大事になるのは各々のセクターの力をかけ算しながら有機的なエコシステムを生み出していくことでしょう。いくら各セクターがファンドレイジングに成功したとしても、資金を有効に使えなければ意味がありません。お金の使い方やシステムのあり方にもブレイクスルーが必要で、そこは組織運営者だけでなく、個人、企業、行政、財団などお金の出し手も一緒になって考えていかかなればならないと思います」

清水氏の話をうかがっていて興味深かったのは、近年、「ファンドレイジング」もしくは「ファンドレイザー」の能力やスキルを学びに来る営利企業の担当者が少しずつ増えているという業界事情だ。理由は、CSRの企業担当者や財団のスタッフ、すなわちお金の出し手となる人々が、NPOやそこで働く人たちの考え方やアプローチを理解するため。また理解することで寄付したお金をより有効に使ってもらうこともできるし、お金以外の部分で「+αの価値」の支援を行えるからだ。営利活動と非営利活動の距離が少しずつ縮まっているということだろうか。資金提供を受ける人だけでなく、資金を提供する人も一緒になって課題解決に取り組む、そしてそのプロフィットが循環し社会やひいては自分たち自身にも還元される――。いずれにせよ、清水氏が指摘するような非営利セクターの新たなエコシステムが、日本でも少しずつ育ちつつある。

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社会貢献への理解を深め、若者や子どもたちの「自己肯定感」を養うことも協会のミッションだ

「クラウドファンディングなど資金調達方法が確立された現代においては、団体や組織がなくとも、個人レベルで課題解決に取り組むことも可能になっていくでしょう。ファンドレイジングの能力は、そのような際にも役立つはず。私どもとしても、社会を良い方向に変えていきたいと考える皆さんの挑戦的な取り組みを、しっかりサポートしていけるようにしていきたい」

社会科学の領域においては、「利他行為」が人間に幸福感やポジティブな刺激を与えるというエビデンスが数多く存在する。

ファンドレイジング協会では、子どもたちへの「社会貢献教育」にも注力している。自分の価値観から支援先を能動的に選択することなどを通じて、社会に対して欠かせない自分の役割が存在するという「自己肯定感」を養うことが目標だ。「寄付の教室」という体験プログラムを開発し、すでに140教室、4,400名以上の児童生徒に提供してきた。


人生100年時代が到来するとされる昨今、寄付や非営利活動を通じて社会と関わることは、個々人にとって“施し”であると同時に“救い”になる可能性も充分にありえる。少子高齢化がいちはやく進む日本においては、ことさら大きなテーマとなっていくはずだ。

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