2019/04/27

【AI時代に立ち向かう韓国】
超スマート社会の一歩は教育革命から #3 子どもの未来のために学校で「しなくなった」こと

ITジャーナリスト。東京大学大学院情報学環特任助教。韓国ソウル生まれ。東京大学大学院学際情報学府修了(社会情報学修士)。韓国・アジアのIT事情を日本と比較しながら、わかりやすく解説するセミナーや寄稿活動を行っている。『日経ビジネスオンライン』『日経ITpro』『日経Robotics』『ダイヤモンド・オンライン』『ニューズウィーク日本版』『週刊エコノミスト』『日本デジタルコンテンツ白書』等に寄稿中。

小学校ではVRを使った授業も行われている。安全教育の一環でVRを使用している様子

韓国の教育現場はAI導入、AI時代に向けたクリエイティブな人材育成を目指し変わり続けている。最も大きな変化を迎えたのは小中高校である。AI時代を生きることになる今の子どもたちに何を教えたらいいのだろうか。その悩みから、学校では新たにするようになったことと、しなくなったことがある。

教科書だけでなくすべてをデジタル化
学級SNSで遠隔授業参観も

まずするようになったのは、教室のデジタル化とスマートラーニング導入、ソフトウェア教育である。

韓国は1990年代からデジタル教科書研究が始まり、デジタル教科書を使ってみたいと申請した一部の学校を研究学校に指定して、10年以上かけてデジタル教科書の導入と、デジタル教科書を使って授業をするための校務情報化、学校情報化、教育向け電子資料開発、デジタル教室、Eラーニングといった環境作りに励んできた。デジタル教科書で授業をして紙でテストをするのではなく、授業も評価もオンライン上で実施し、学校で生徒と先生が行うことすべてを情報化するための変化である。

韓国では1998年に一般家庭でもブロードバンドを使えるようになると、政府が全国の学校のホームページを開設、「家庭通信文」と呼ばれる保護者向けの案内事項を書いた配布物をホームページに掲載することでペーパーレスにした。先生全員の名前と写真、学校の年間スケジュール、給食の献立、学校で行ったイベントの写真など、学校で何をしているのかが保護者たちに見えるようホームページに公開するようになった。

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1998年頃から全国の学校がホームページを開設し、学校の情報を公開するようになった。家庭通信文もホームページに掲載し、ペーパーレスに。どの学校のホームページも構成は同じで、生徒数や先生の紹介など全般的な情報、年間スケジュール、学習計画、給食メニュー、学校イベントの写真、電子図書館、教育関連情報サイトリンク、政府サイトリンクなどがある

現在は学校ホームページに加えてクラス別に学級SNSがあり、担任の先生が認証した学生と保護者だけが会員登録できるようになっている。予習しておくべき資料の案内、その日の授業内容や宿題の告知、子どもたちが自宅でやった宿題の登録、授業中発表した内容などを掲載し、子供の成長記録にもなっている。

小中高校ではデジタル教室が普及したこともあり、今は子どもたちが授業中討論した結果をその場でパワーポイントにまとめて発表する授業が頻繁にあるため、授業で子どもたちが作成したパワーポイントの資料もすべて学級SNSに掲載し、学級SNSを電子黒板とつないで資料を開いて発表するようになっている。先生によっては子どもたちが発表する様子を動画で撮影して学級SNSに載せてくれることもあるので、保護者にとっては会社や自宅にいながら授業参観ができてしまう。

学級SNSには保護者から先生へコメントを書き込めるようになっている。取材した仁川市の小学校によると、先生への頼みごとやクレームの書き込みはほとんどなく、「今日もお疲れさまでした」「いつも楽しい授業をありがとうございます」といった感謝のコメントが多く寄せられるという。確かに今までは先生に感謝の気持ちを伝える場もなかった。最初は学級SNSなんて余計な仕事が増えただけだと嫌がる先生もいたが、今は保護者との距離も縮まり、子どもたちも学級SNSにどんな写真や動画が載るか楽しみにしているので負担にならないそうだ。

2011年には政府が「スマート教育推進戦略」を発表し、モバイルラーニング環境を前提にしたスマート教育活性化のための著作権法整備、教育関連法整備、教授学習法先進化などを本格的に進めた。デジタル教室もノートパソコンからタブレットPCへ、デジタル教科書は2Dから3DやVR、ARまで使うようになった。学級SNSもパソコン向けからスマートフォン向けに切り替わった。

子どもの教育のためならICT導入もいとわない
教育格差もデジタルデバイドも解消

韓国が目指すスマート教育は、1990年代にデジタル教科書の研究を始めた時と同じく、「希望のはしご」を作ることである。過疎地域に住んでいても、障害があっても、塾に通えなくても、本を買うお金がなくても、みんなに均等な教育のチャンスを与えるため、いつでもどこでも好きなだけ学びたいことを学べる環境をつくることが政府の役割であり、それをうまく活かして子どもたちを導くのが学校や先生、保護者の役割という考え方である。

学校で情報化の推進に力を入れた影響からか、韓国ではデジタルデバイドが大きな問題になることはなかった。子どものためなら何でもする親心から、保護者たちは子どもの学校のホームページにアクセスするためブロードバンドに加入したり、スマートフォンを買ったりと、積極的だった。

取材先の小学校で、「家でインターネットを使えないからプリントのままでいい」という保護者はいなかったか聞いたところ、「いない。ホームページから見られる方がプリントをなくす心配もなくていいから」ときっぱり。韓国では自宅でブロードバンドを使うとしても、工事費やルーターのレンタル費込みで月2,000円以下、低速のインターネットは月1,000円以下で、家計の負担が大きくなく、低所得層の場合は無料でインターネットが利用できることも影響しているだろう。

デジタル化で社会性や幸福感が向上
人文と科学の両輪で育てる融合型人材

韓国政府傘下のデジタル教科書研究機関が2013年、1年間デジタル教科書を使った学生20人と紙の教科書を使った学生20人の脳機能の活用状態を比較したところ、デジタル教科書を使った学生の方がより広範囲に多様な情報処理を行う脳の領域が相互作用を起こす傾向があり、宿題をする時のストレスが低いという特徴があった。デジタル教科書を使った学生の方が社会性が高く、先生との関係満足度、学校にいる時の幸福感が若干高いという実験結果もあった。デジタル教科書は多様な資料を使える分、先生や学生同士のコミュニケーションも活発になるからかもしれない。

デジタル教科書からステップアップし、韓国政府は2015年、「クリエイティブで融合型人材」を養成することを目標に教育課程を全面改訂した。韓国政府が求める融合型人材とは、「人文学で想像力を育て科学技術で創造力を供えた人材」を意味する。この改定により、2018年から中学校で、2019年から小学校で、正規科目としてソフトウェア教育が始まった。高校では2018年から選択科目になった。もちろん、現職の教師と教育大学に在籍している未来の先生を対象にソフトウェア教育を行い、教える先生がいないという問題も解消した。

前回紹介したように、ソフトウェア教育はプログラミングができる人を育てたいというよりは、論理的に問題を解決していく考え方を身につける、コンピュテーショナルシンキング(computational thinking)を教えるのが狙いである。同時に小学校では教室の外で行う体験授業を拡大し、新たに芸術性を高めるため地域の芸術団体と連携して演劇教育の時間を増やすようになった。

中1の1学期はテストなし!
自分と向き合うための「自由学期制度」

一方で、AI時代に備え、学校でしなくなったこともある。

中学校1年の1学期は中間テストも期末テストをしなくなった。自由学期制度といって、自分は将来どんな人になりたいか、自分にとって楽しいことは何か、どんなことなら楽しく続けられそうか、学校の授業から離れて自分のことだけをじっくり考える時間を中学入学と同時に与えている。学校には行くが、スポーツをしたり、外部の講師を行う講演を聞いたり、体験学習に行ったり、自分と向き合う時間を重視する。

自由学期制度は2014年3月に全国42の中学校が導入し、その効果が認められ2016年から全国の中学校で行われている。2018年からは校長先生の裁量で、約半数の中学校が1年の1学期だけでなく年間まるごと自由学期にしている。

今の韓国は就職が大変厳しく、名門大学に入学しないと就職ができず所得も思うように得られない。大学入試に向けた受験レースはどんどん年齢が低くなり、幼稚園児から大学受験に備えた英才教育をするほど過熱するばかりだ。少子化といっても、その分AIに仕事を取られますます就職の競争率が上がるのではないか、どんな仕事なら人間を必要とするのか、という悩みもある。誰も予測できないのが未来だが、自分がしたいことは何かのヒントが見つかれば、時代がどう変わろうと希望を持てるだろう。

高校では、学校側が時間割を決めて授業を行うのをやめようとしている。大学と同じように好きな科目を選んで一定の単位を取ったら卒業できる「高校学点制度」に変える方針で検討が行われている。目標としては2025年から全面的に導入する計画で、現在は一部の高校を先導学校に指定し、実証実験をしている。この制度も同じく、大学入試がすべてだった高校生活を変えようという動きである。

韓国政府の教育部(文部科学省にあたる)が制作した自由学期の広報動画。画一的な教育を受ける子どもたちをドミノにたとえ、一度つまずくと回復できない危うさと、自由学期を通じて自分の力で立てるようになることの重要性を訴えている


次回も韓国が目指すAI時代の人材、学校の変化について続けて紹介する。

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