2019/04/19

【山谷剛史の"デジタル中国"のリアル】
中国国内外を震撼させたシェアサービスはどうなったか?

中国を拠点とし、中国・アジアのIT事情を現地ならではの視点から取材・執筆。IT系メディアやトレンド系メディアなど連載多数。著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)、『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)などがある。

路上に並ぶシェアサイクル。大量にあるが、使える車体は少ない

2019年時点ですでに「かつて」と言わなければいけないくらい状況が変わったが、かつて中国ではシェアブームが起きていた。このところ新しいシェアサービスの話題はほぼ出てこない。現在もサービスが継続されているシェアサイクルとシェアバッテリーの2大サービスは現状どうなっているのか、レポートする。

山積みの自転車、事業は赤字……
乗れない故障車も

ニュースで報じられているが、シェアサービスの旗手たるシェアサイクルにおいては、各地で想像を絶する自転車のゴミの山ができている。黄色の車体でお馴染みのofoは倒産の危機がささやかれた。またオレンジの車体のMobikeは、ネットサービス大手「美団」に買収され、「美団単車」に名前が変わるとされている。美団の2018年末締めの決算報告によると、買収したMobike部門の2018年4月4日から年末までの売上は15億元(約240億円)で、45億5,000万元(約730億円)の損失だったとしている。

上海や北京といった沿岸の大都市はもちろんのこと、内陸の昆明でも一時期に比べてシェアサイクルは減っているが、まだまだ自転車は歩道の上に多数置かれている。中国のシェアサイクルというとofoやMobikeというイメージを持たれている読者も多いかと思うが、全国的には新たに白い車体のHelloBikeや、シェアライドのDiDi(滴滴)によるエメラルドグリーンの車体のLimeBike(青桔単車)が後発で参入し、多数の自転車を投入している。また北京などでは青い車体のBluegogo(小藍単車)も新車を投入している。北京や上海ではMobike、それも新型の車体に乗る人が多いが、昆明ではHelloBikeとLimeBikeの利用者が増え、Mobikeやofoの利用者が減った。見る限り、シェアサイクルに乗っている人自体がだいぶ減ったと感じる。以前は乗り捨てられたofoの自転車を解錠して乗り回す子どもたちを多く見かけたが、そうした光景もだいぶ見なくなった。

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HelloBikeが開発する公園向けのシェアサイクル

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電動自転車もあるが普及はしていない

それもそのはず、そもそも乗れる車体が少ないのだ。場所にもよるがだいたいは故障車や、故障こそしてないがくたびれた車体が路上に並ぶ自転車のほとんどを占めていて、適当に選んで乗ろうものなら、漕ぐことすらできないというオチが待っている。多くの人がお金をどぶに捨てるようなシェアサイクルには乗ろうとしないのもわかるし、シェアサイクルを使おうとする人が数少ない新車を選んで乗るのもわかる。街を彩り歩道を占拠するシェアサイクルは、一見すると以前と同じだが、使えなくなってオブジェとなった車体も多くなった分、悩ましい状況となった。近年の中国メディアで頻繁に見るシェアサイクル悲観論には、そうした環境で生活する各地の記者の私情も多かれ少なかれ込められているのではないかと思う。

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人々は快適に乗れる新車に乗りたい

まるで2016年! 地方ではまだまだ活躍

ところがだ。河南省の省都・鄭州(ていしゅう)は状況が違い、シェアサイクルの春を迎えていた。去年6月に行った時には、やっとシェアサイクルが普及しだすというタイミングで、2016年の沿岸部の大都市の状況を見ているようだった。今月鄭州を再訪すると、まるでシェアサイクル全盛期のようにくたびれていないシェアサイクルがずらりと並べられて、多くの人が活用していた。中国に長くいる人が鄭州に行けば、タイムマシンにでも乗ったかのような光景を見て驚くだろう。また河南省の小都市の焦作(しょうさく)に行くと、中国全土でほとんど見かけなくなった「永安行」というシェアサイクルの新車が投入されていた。地方都市では、中国の悲観的なシェアサイクル論に反して市民はシェアサイクルを有効活用している。

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新車が投入されている鄭州

結局のところ、シェアサイクルを一気に投入するとその時は便利になるが、数年経過すると歩道を占拠するだけのやっかいな存在となるようだ。当初は「壊れにくく作りました」「壊れたことがスマホアプリから報告されれば修理に向かいます」と言われていたが、想定以上に雑な扱われ方をされ、また想定以上に多くの車体が故障したのだろう。例えば昆明では、ガードマンが道路を管理するというミッションのもと、駐輪してあるシェアサイクルを旧車新車問わず1か所に投げて積み重ねるという行為を日常的に見た。

どこにでもあり、どこでも利用を終了できるという、「中国新四大発明」なるものにもエントリーされた夢の乗り物、シェアサイクル。意地でも乗り続けるという筆者のような人間もいるが、車体の設置から2年程度で多くが使えなくなり、利用されなくなるようだ。アプリの出来不出来や利用価格、デポジットの有無以前に、まず使える車体が当たり前にあるということが必要だろう。

トラブルもなく順調にサービスを継続する
シェアバッテリー

一方、同じくシェアサービスとして展開されているシェア(モバイル)バッテリーはどうだろうか。シェアバッテリーは主にモールの空きスペースやレストラン、ジューススタンドなどに置かれており、スタンドに収納されたモバイルバッテリーをスマートフォンの操作で取り出すことができる。スタンドで支付宝(アリペイ)を立ち上げてQRコードをスキャンすれば、アリペイからミニプログラム(クラウドアプリ)が起動し、どの企業のサービスかを気にすることなく、専用アプリをダウンロードする必要もなく、バッテリーを借りることができる。料金は1時間で2元(約32円)。アリペイと紐づけられた信用スコア「芝麻信用」のスコアが低くなければ、デポジットを払う必要もない。使い終えたら最寄りのスタンドに返却し、その時点で精算される。

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シェアバッテリースタンド

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各社のシェアバッテリー

シェアバッテリーもシェアサイクルと同様に、かつては一攫千金を狙ったのか数多くの会社が乱立したが、中小企業が淘汰された後、現在大手数社が残る状況になっている。2015年に立ち上がった大手シェアバッテリーの「街電」に出資する「聚美集団」の、現状で最新となる2018年上半期の決算報告書によると、街電はユーザー数6,000万、うち支付宝のミニプログラム利用者は5,000万で、2018年5月から3か月連続で利益を出しているという。

シェアバッテリーについては、シェアサイクルのような故障問題や、ゴミとして大量に捨てられているといった問題を聞かない。またひどく汚れたり傷ついているのも見たことがない。これはシェアバッテリーがスタンドに収納されており、そのスタンドも外に無造作に置かれているのではなく、モール内やレストラン内に置かれているというのが大きい。利用者がモバイルバッテリーを多用し、アリペイを使いこなすヘビーユーザーであるのも、トラブルが少ない一因であろう。

筆者は、各社のシェアバッテリーサービスを使っているし、シェアバッテリーと同型のモバイルバッテリーも所有している。購入して所有するモバイルバッテリーは使いすぎてバッテリーの持ちが悪くなり、購入当初と比べ使えなくなっているが、一方で借りたシェアバッテリーは時々新品の投入をしているのか、そういう不満は感じたことがない。

「モバイルバッテリーは必要であれば買えばいい。(500円以下という)安い価格で買うことができる」という消費者の声を拾う中国メディアの報道もある。それも一理あるが、シェアバッテリー登場以前にはよく見た、カバンの中にモバイルバッテリーを入れて持ち歩いていた人は、今では明らかに減少している。以前よりもさまざまなスマートフォンアプリを多用し、スマートフォンに依存している以上、シェアバッテリーを使う人は継続的にいると考えるのが自然だろう。

日本では見たことない? 地方での展開に期待

ところで筆者は、中国では頻繁に使っているにも関わらず、日本でサービスが展開されているシェアバッテリーを利用したことがない。見たことがないからである。そこでこの記事を書く前に、筆者のTwitterアカウントで、「日本でシェアバッテリーのスタンドを見たことがありますか?」という質問をした。すると全139票のうち3分の2が「見たことがない」と回答した。日本のシェアバッテリーのアプリで利用場所を見ると多数あるにもかかわらず、筆者も含め見たことがない人が多数派なのである。

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日本のシェアバッテリーサービス「ChargeSpot」

中国に住んでいて買い物や食事や遊びに行くとなれば、日本の地方都市のようにモールに足を運ぶことになることが多い。頻度は地域によって異なるが、ヒアリングによると昆明でも鄭州でも上海でも、消費行動はモールですることが大半だという。しかも中国の都市には日本の地方のようなロードサイドの店舗がないため、モールへの一極集中は強まる。モールに足を運ぶと、エスカレーター近くやレストランの入口など目立つところにシェアバッテリースタンドがあるため、その存在に気づきやすい。

翻って日本の大都市ではモールに人の流れが集中することなく、駅前の街という単位で広く店が展開していて、広範囲に人が動き、思い思いに好きな店に行く。だからシェアバッテリースタンドをちょっとやそっと投入しただけでは、なかなか存在に気づきにくい。中国では街づくりや人の動線から多くの人に認知されていることを考えると、むしろ日本ではモールやロードサイドに人が集中する地方都市にこそシェアバッテリーのビジネスがそのまま適用できそうに思える。

シェアサイクルとシェアバッテリーは同じシェアサービスではある。しかし屋外に放置するシェアサイクルが苦戦する一方、ユーザーの集まる屋内で提供するシェアバッテリーは、利益を出しているという点でも、利用者が今も普通に活用しているという点でも成功していた。アプリの使い勝手や信用スコア、価格競争以前に、まずは「リリース開始数年後も当たり前に使える」ということが大事だ。これは先行する中国では実現されてない問題であり、後に続く日本の課題といえよう。

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