2019/04/15

ムーアの法則を超え、量子コンピューターの世界へ その可能性とファーウェイの取り組み

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By 翁文康(ユン・マンホン)from WinWin

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ファーウェイ 量子コンピューティングソフトウェア・アルゴリズム チーフサイエンティスト 翁文康(ユン・マンホン)

20世紀における重要なブレークスルーに、コンピューターの発明と量子力学の発見がある。約30年前、この2つのアイデアがぶつかりあって、量子情報学が誕生した。その下位領域である量子コンピューティングは、従来の計算物理学の限界を超越する可能性を持つものだが、科学者とエンジニアにとっては未曾有のチャレンジともなっている。

ムーアの法則の終わり、そしてその先に

今日、ほとんどのコンピューターは、1は1、0は0という「古典力学」のフレームワークのもとに動いている。過去数十年間で、こうした古典力学に基づくコンピューターチップや計算力は常に改良され続けてきた。これは主にエンジニアがチップ内部のコンポーネントを継続的に縮小してきたおかげだ。その過程でチップ内により多くのコンポーネントを入れられるようになり、電子信号がコンポーネント間を移動する距離が短くなったことで、論理演算の速度が上がり、消費電力も抑えられるようになった。これを説明したのが有名な「ムーアの法則」で、量産されるチップの密度が18か月ごとに2倍になるというここ数十年の現象を示している。

しかし、ムーアの法則が提案された当時、この法則はいずれ当てはまらなくなるだろうとも予測されていた。物理的なコンポーネントが無限に小さくなることは不可能だからだ。あらゆる物質は原子からなっており、原子レベルでは素粒子の振る舞いは古典力学ではなく量子力学の法則に従う。1と0の定義でさえ、このレベルでは重要な問題となる。

ムーアの法則が当てはまらなくなるからといって、人類の計算力向上へのあくなき追求が終焉を迎えるわけではない。ウィンストン・チャーチルの言葉を借りれば、「これで終わりではない。終わりの始まりでさえない。だがおそらく、始まりの終わりではある」。ムーアの法則によって、人類は古典力学の世界と量子力学の世界の境目に到達できるだろう。その境目を超えると、量子コンピューティングという新たな世界が幕を開ける。

量子力学は、現実世界が我々の認識を覆すような直観に反する物理法則に満ちていることに気づかせてくれる。量子の世界では、古典物理では存在しえない多くの物理状況が可能になる。例えば、素粒子は同時に1でもあり0でもある状態でありうる。量子コンピューティングの主な目的は、量子力学をフレームワークとしたより強力な量子コンピューターを開発し、コンピューティングの意味を再定義することだ。

第2次量子革命

量子力学のフレームワークに基づくと、さまざまな物質の特性をより深く理解することができる。そこから数多くの最先端技術が発明されてきた。レーザー、チップ、MRIはそれぞれ光、電子、磁力の量子力学的特性の理解をもとに開発されたものだ。物質の量子力学的特性を研究することでこうした技術が大きく進展したことは、第1次量子革命とされる。

技術の進歩にともない、ミクロなシステムを調整したりコントロールしたりする人類の能力は格段に上がった。現在我々は、個々の原子の振る舞いや、単一の電子が起こす電流さえも制御することができる。こうした最先端技術によって量子力学の基本的な特性を繰り返し実証することが可能になり、それが第2次量子革命を引き起こしつつある。

第2次量子革命の特色は、量子力学が本来持つ性質に基づいた新技術が発展しているということだ。例えば、量子の重ね合わせという性質を活かして量子コンピューターが、量子もつれという現象を活かして高精度量子計測が、量子複製不可能定理を活かして量子暗号システムが開発されている。第2次量子革命は多くの分野で技術のブレークスルーを起こすだろう。

量子コンピューティングが持つ可能性

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© metamorworks - stock.adobe.com

量子コンピューターにおいては、データの保存と伝送の基本ユニットは従来の古典コンピューターにおける「ビット」に対して「量子ビット」と呼ばれる。これが量子コンピューターと古典コンピューターの最大の違いだ。量子の重ね合わせの法則に従えば、1量子ビットは2つの論理状態(0と1)を線形に重ね合わせた状態で存在することができる。2量子ビットなら4つの論理状態(00、01、10、11)というように、量子ビットが増えるほど存在可能な状態は指数関数的に増えることになる。量子アルゴリズムの最大の目的は、こうした量子重ね合わせの状態を使って演算処理を加速することだ。

1994年に発表された「ショアのアルゴリズム」は、最もよく知られている量子アルゴリズムだ。素因数分解を高速に解くアルゴリズムで、これは古典コンピューターネットワークが用いている暗号化システムを脅かすものでもある。汎用量子コンピューターはいまだ開発されていないものの、ショアのアルゴリズムに対してはネットワークセキュリティの専門家の一部から懸念の声があがっている。今後50年以内に組織や個人が量子コンピューターの開発に成功した際には、我々が現在公共空間、すなわちインターネット上でやりとりしている暗号化された情報はすべて、傍受され保存された時点ですぐに解読されてしまうことになるだろう。量子コンピューターの実現を見据え、サイバーセキュリティの専門家たちは量子攻撃に対抗できる新たな暗号化技術の開発に着手し始めている。

量子コンピューティング研究においては近年多くのブレークスルーが起きており、量子計算量の発展につながっている。同時に、量子アルゴリズムの活用が進んだことは、古典的アルゴリズムにも影響を及ぼしてきた。量子アルゴリズム研究に触発され、多くの新たな古典的アルゴリズムが生まれたのだ。これは量子アルゴリズム研究の総合的な価値を示しているといえる。

研究者たちはおおむね、今後量子コンピューターが量子化学シミュレーションやAIの分野に多大な恩恵をもたらすだろうと考えている。歴史上の多くの優れた発明と同様に、いったん量子コンピューターの開発に成功すれば、今では想像もつかないようなたくさんのアプリケーションが見つかるはずだ。

実現に向けた多様な道すじ

量子は電子や中性子のような素粒子ではなく、量子ビットは稀少な物質というわけではない。量子力学における「量子」は、マクロな世界の物理システムでのエネルギーが連続性を持たないことを表している。つまり、操作と読み出しができる実験手段がありさえすれば、原則的にはあらゆる量子システムにおける2つのエネルギーレベルが量子ビットとして振る舞いうる。

現在のところ技術開発が比較的進んでいるのは、超電導量子デバイス、量子ドット、イオントラップ、ダイヤモンドカラーセンター、NMR(核磁気共鳴)システム、線形光学システムなどの分野だ。量子ビットは物理システムごとに特性が異なる。これまで、量子コンピューティングのハードウェア研究開発は異なる領域でばらばらに進められてきた。ある物理システムで開発された技術が、別のシステムでも実装できる可能性はある。今後は複数の量子システムと関連づけながら量子ハードウェア開発を進めていくことで、システムごとの強みを発揮しあい、全体の性能を向上させることができるかもしれない。これは科学技術の発展にとって大きな課題となっていくだろう。

量子コンピューターが覇権を握る時代

量子コンピューターはおそらく強力な計算機になるだろう。だが、量子コンピューターが古典コンピューターには解けない問題を「高速に」解けるかどうかを論理的に証明することはできない。例えば、ショアの量子アルゴリズムはこれまでに知られているどの古典アルゴリズムよりも計算量が低い(計算速度が速い)が、かといって素因数分解をショアのアルゴリズムと同じ速さで、あるいはもっと速く解くことのできる古典アルゴリズムが存在しないとは言い切れない。もしそのような古典アルゴリズムが発見されれば、ショアのアルゴリズムの影響力は大幅に弱まるだろう。

ここ数年、各国政府や企業の強い後押しにより、研究レベルでは量子ビットの数や質が着々と向上していることが知られてきた。量子コンピューティングの研究者たちにとって、これは驚きでもあり、喜びでもある。取り組むべき目前の課題は教科書に出てくるような「理想の量子コンピューター」の実現ではなく、「疑似量子コンピューター」、すなわち量子力学の法則に基づく複雑な計算機の開発だ。こうした疑似量子コンピューターによる論理演算はまだ汎用量子コンピューターに求められる水準には達していないものの、その振る舞いは古典コンピューターではシミュレーションできないことがほとんどだ。量子コンピューターが古典コンピューターを超えて覇権を握る時代がやってくるのだ。

量子クラウドサービスプラットフォーム『HiQ』

実際のところ、研究機関の量子コンピューティング用設備やシミュレーターの計算力はいまだ現代のコンピューターに追いついていない。物理的な量子コンピューターの開発製造を目指す研究機関や企業は、量子ビットの数を徐々に増やしていくことを戦略の主眼としている。

量子コンピューティングハードウェアが成熟するまでは、シミュレーターによるソフトウェアやアルゴリズムの研究を進めていかなければならない。これに関連してファーウェイは、量子コンピューティングシミュレーター向けクラウドサービスプラットフォーム『HiQ』を立ち上げ、成果をあげ始めている。

昨年、ファーウェイの年次イベント『HUAWEI CONNECT 2018』で発表された『HiQ』は、量子コンピューティングシミュレーターと、それをもとに構築された量子プログラミングフレームワークからなる。ファーウェイ・クラウドの強力なコンピューティングインフラをベースに、分散アーキテクチャとアルゴリズム最適化機能を備え、全振幅シミュレーション時のメモリー容量とネットワーク遅延の問題を解決する。

『HiQ』は全振幅・片振幅シミュレーションをクラウドサービスとして提供する。全振幅では42量子ビット、片振幅では81量子ビットの量子回路のシミュレーションが可能だ。深度の浅い片振幅回路では169量子ビット(20層)のシミュレーションができ、量子回路シミュレーション向けのクラウドサービスとしては業界をリードしている。さらに、クラウドサービスプラットフォームでは初めて量子誤り訂正シミュレーターを統合しており、数万量子ビットの回路の誤り訂正を同様のシミュレーターの5~15倍の性能でシミュレーションできる。

『HUAWEI CONNECT 2018』ではまた、ファーウェイの量子プログラミングフレームワークを初めて展示した。オープンソースのProjectQと互換性を持ち、量子アルゴリズムの並列計算性能を大幅に向上するほか、ユーザーフレンドリーな量子回路オーケストレーションGUI、BlockUIなどの新機能を搭載し、古典・量子のハイブリッドプログラミングをより簡単で直観的なものにしている。

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ファーウェイ・クラウド上で提供する量子コンピューティングソリューションのアーキテクチャ

量子コンピューティングに対するファーウェイのビジョン

量子コンピューティングが未来の計算技術に破壊的なイノベーションをもたらしうることは何年も前から言われてきた。指数関数的に計算を加速できれば、いずれ量子コンピューターは古典コンピューターが数万年もかけるようなタスクを数分か数秒で終えられるようになるだろう。量子コンピューティングには複雑なシステムエンジニアリングが必要で、ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズム、システムの面で多くの技術的難題が待ち受けているとはいえ、近年の急速な発展からすると、AI、製薬開発、量子化学、新材料設計、複雑な最適化スケジューリングなど、この先さまざまな分野で変革を起こすことは間違いない。

ファーウェイは今後も量子コンピューティングハードウェアの最新動向を注視し、自社の研究開発の強みを活かして探索的研究に取り組み、量子コンピューターの少しでも早い実現に寄与することを目指していく。

量子コンピューティングは古典コンピューティングとは異なる画期的な技術だ。なにより、クラウドコンピューティングの将来を担う中核技術である。量子アルゴリズムはAIアルゴリズムに新たな視点をもたらし、古典的なAIアルゴリズムを改良するとともに、より高速な計算を可能にする。『HiQ』クラウドサービスプラットフォームの立ち上げは量子コンピューティングの研究とイノベーションを促進する重要な一歩だ。

ファーウェイはこれからもこの分野における研究と投資を継続していく。オープンな協業の理念のもと、『HiQ』量子コンピューティングシミュレーターは広く一般に開放されている。開発者、研究者、高等教育機関の教員や学生の方々にはぜひ共同イノベーションに参加していただきたい。こうした共同イノベーションを通じ、学術的なブレークスルーが促進され、量子コンピューティングの実用化が加速することになるだろう。

※ファーウェイ・クラウドおよび『HiQ』は日本国内では未展開です。

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