2019/04/12

保育園マッチングに保育ロボット AIは保育業界の救世主になるか

1984年東京生まれ、横浜育ち。同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。

「あい・あい保育園 東池袋園」(東京都豊島区)では、登園した園児たちが保育ロボット「VEVO」にICチップ入りのキーホルダーをタッチ。登園時間等を記録する

1万9,895人――これは、厚生労働省が発表している2018年4月1日時点での全国の待機児童数だ。都道府県別に見ると、5,000人以上と突出した東京都を筆頭に埼玉県、千葉県、兵庫県、沖縄県でも1,000人を超えている。共働き世帯の増加に伴い、待機児童をめぐる保活問題や保育士の人手不足などの課題が浮き彫りになっている。

2019年2月、政府は幼児教育・保育の無償化を2019年10月から実施することを閣議決定した。政府も保育業界の改善を図る中、AIやテクノロジーを使ったサービスが誕生し始めている。

AI技術で50時間の作業がわずか3秒に

都道府県の自治体において、保育園の選考がピークとなる「繁忙期」は毎年1~3月。4月入園に向けての子どもと保育所の割り当てを行うからだ。自治体ごとに選考基準は異なっていて、きめ細かくルールを設定すればするほどパターンは細分化するため複雑になる。

そんな中、2018年11月に業界初AIを搭載した保育所の割り当てソフトが登場した。九州大学と富士通研究所が開発した「FUJITSU 公共ソリューション MICJET MISALIO 子ども子育て支援V1 保育所AI入所選考 」は、入園申請者の多様な希望や、自治体が定めている基準に基づき、わずか数秒で千人規模の児童の保育所割り当てを自動で行うことができる。富士通の担当者は、約1年間の開発過程で、複雑な入所選考をAIに反映するのが一番苦労したと振り返る。今後は機能拡充をしていく予定だ。

このソフトの実証実験に協力したのが埼玉県さいたま市だ。同市は選考基準を細かく設定しているのが特徴的で、例えば、兄弟姉妹が同時に2名以上申し込みをした際、全員が同じ保育所を希望するのかしないのか、もしくは同じタイミングでないといけないのか否かなど、8通りのフローチャートを保護者に提示している。

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さいたま市の選考で兄弟姉妹が同時に申し込みをした場合のフローチャート

2018年4月選考時においての保育所申し込み数は約8,500件で、毎年申し込み者数が右肩上がりで増えているという。今年度は約9,000件になる見込みだ。その数の割り当てを、これまですべて手作業で行ってきた。担当のさいたま市子ども未来局保育課の仲陽平氏は「4月入所選考は1~3月の間、各区役所の担当職員25名ほどが時間外労働と休日出勤により、一次・二次選考あわせて約60時間かけて行ってきました」と話す。

その状況を打開したのがAIだ。2017年度の選考終了後に匿名化したデータを開発側に提供し、九州大学と富士通研究所が保育所AI入所選考のテストを実施したところ、わずか数秒で結果が出たという報告を受けたと仲氏は言う。手作業との結果を照合したところ、AIによる結果とおおむね相違はなかったという。現在、2020年4月選考から本格的な業務活用を予定している 。導入を考えた背景を仲氏はこう話す。

「選考基準が明確なため、選考の正確性は職員でもAIでも変わりありません。最大の利点は、職員の肉体的、精神的負担の軽減と、コスト削減です。50時間の作業がわずか数秒に短縮になることで、労働時間が劇的に減ります。また、結果確定の早期化により、市民への通知発送も早められるかもしれません。初期投資費用は数年で回収できると見込んでいます」

もう一つのメリットは、一度割り当てが確定したとしても、通知発送前にやむを得ない転勤や引っ越しで申請を辞退する人が出てきた場合の対処法だ。1人ずれると、その保育園の割り当てがすべてずれていく。そのため、従来は手作業での結果調整を頻繁に行っていたが、このソフトでは変更後の条件で再度処理を行えば、同様に数秒で新たな結果を導出できるのだ。

AIに選考基準を教えるのは人がやる必要があるが、いったん設定してしまえば各自治体のルールに沿った割り当ての自動化が可能となる。さいたま市のほか、東京港区、滋賀県草津市、滋賀県大津市などの自治体が導入を検討予定だ。

保育園の現場に保育ロボットが登場

保育園の現場でも、すでに先端テクノロジーを使った試みがスタートしている。

平日の朝8時。東池袋駅から徒歩7分にある「あい・あい保育園 東池袋園」に、続々と園児たちと保護者がやってきた。「おはようございます!」という元気なあいさつと同時に、園児たちが率先して向かった先は、入り口近くにいる保育ロボット「VEVO」だ。体長は70cmで、色はマリンブルー。ICチップ入りのキーホルダーをタッチすると、「おはよう○○くん、今日は何して遊ぶ?」など愛嬌のある声で話しかける。園児たちはそれが楽しいようで、保護者とすんなり別れ、颯爽と園内に入っていく。

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同園では、2018年8月にVEVOを導入。それ以前はPCで入園時間を管理し、入口付近に端末を置いていたが、打刻をするのはほぼ保護者だったという。施設長の髙山氏は「以前と比べ、登降園時にグズってしまったり、遊び出したりする子どもが減りました。特に帰りがスムーズになりましたね。みんな『ピッ』としたがるんです」と話す。

VEVOには主に3つの機能が備わっている。登降園管理、検温機能、そして午睡チェックだ。午睡チェックとはうつ伏せ寝における事故死を防ぐための対応で、0歳児は5分に1回、1歳~2歳児は10分に1回、園児の状態を確認することが求められる。保育士にとって負担が大きい仕事の一つだが、VEVOはこの業務のシステム化を可能にした。午睡時に園児のオムツに「VEVOのセンサー」を取り付けることで、園児の体温と心拍を測り、うつ伏せ態勢になるとアラートを発するようにしたのだ。

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ICチップ入りのキーホルダー。入園すると各家庭に2個ずつが配られる

そのデータは、同園を経営する株式会社global bridge HOLDINGSの子会社、social solutionsが開発した「Child Care System+Pro(CCS+Pro)」という保育園運営管理システムへと送られる。同システムの機能は、各園児の情報管理から保育日誌作成、職員の出退勤管理など多岐にわたる。

保護者と保育士が対面するのは送り迎えのわずかな時間だ。その中で保育士が必要な伝達事項を各々にきめ細かくすべて伝えようとしても限界がある。その役割の一端をVEVOがインターフェースとして担うことで、より多くの有益な情報を保育士に代わって保護者に伝えることができるのだ。髙山施設長はこう話す。

「私たちの仕事は子どもたちと接する保育のため、すべてをシステム化するのは不可能です。人が見るところと、システムに頼るところをうまく分け、より質の高い保育を目指していきたい」

今年の春には、そのCCS+Proと連動した連絡帳アプリの「CCS+Proれんらくノート」をリリースする予定だと同社代表取締役CEOの貞松成氏は話す。「その一つの機能として、子どもが病気などで保育園を欠席する場合の連絡をアプリ上でできるようにしました。従来の電話連絡が必要なくなるので、保護者の方も保育園側も忙しい時間帯を避けて連絡を取りあうことができます。また、子どもの健康状態のデータ解析も可能になります」

2019年度の入社式では、113人の新入社員とともに4月から新たに導入される10台のVEVOが参列した。今後、VEVOにAI機能を搭載していく予定で、現在は学習データの蓄積を進めているという。最終的には家庭での子どもの情報も学習データとして蓄積したうえで、子どもの発達や子育ての方針等で家庭との連携を強化したいと考えている。

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global bridgeの入社式では、東池袋園にいるVEVOがスピーチをする場面も

AIの予測力を活用し雇用の幅を広げる

一方、保育士のマッチングサイトにもAI技術が使われ始めている。保育業界は女性の働き手が多く、結婚や出産を機に退職する割合が高い。同時に、一度所属していた保育園を退職すると、それまでの経歴がリセットされてしまうという現状がある。その課題解決として各保育士の実績を蓄積し、個人に合ったキャリアアップを提案する試みがなされている。

福岡県に本社を置き、保育所運営や保育士派遣をする株式会社テノ.ホールディングスはAIを活用した保育士と保育所のマッチングに乗り出している。同社は「保育のとびら」という保育士と保育所のマッチングサイトを運営しており、福岡、東京、大阪での就職を支援する。今は、求職者が希望勤務地や勤務形態などを都度入力して検索する必要があるが、今後は各保育士のデータからその人に最適の転職先を提案できるようにする計画だ。そのため、現在は同社に所属する保育士の職務履歴に加え、各園がどのような人材が欲しいのかというデータを集めており、今後その情報を元に、紹介先の最適な条件式をAIに覚えさせていく。実際にAI機能が同サイトに搭載されるのは、2021年の予定となっている。

AIの予測する力を使い、1時間単位からの雇用マッチングも提供していきたいと、同社広報の笹部康弘氏は言う。

「保育士にはさまざまな働き方があります。フルタイムをはじめ、時短勤務や、この日のこの時間のみというスポット的な勤務を希望する人も。保育園側が急遽この時間の人手がほしいと思っても、現状は自社に登録している保育士に電話をするなどの対応しかなく、うまくマッチングができていません。その部分をAIが予測できれば、その園の近くに住む保育士にあらかじめ声をかけることができるのではないかと思います。。保育士はスキマ時間に働くことができ、園は人手不足を解消でき、保護者は(十分な数の保育士が配置されるため)安心して子どもを預けられるようになるのではないでしょうか」

まさに“三方良し”になるこの案は、マッチングの機会ロスをなくすことができそうだ。

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© milatas - stock.adobe.com

今回取材した3社は現在、ビッグデータの収集を開始したばかりだ。今後も少子高齢化が進み人材不足が懸念される中、AI技術の活用は必要不可欠になっていくはずだ。そのためには、いかに大量のデータを集められるかがポイントとなる。子どもの情報に対しては敏感な保護者も多いが、AIやデータを扱う企業や組織はプライバシーやセキュリティを確保しつつ、現場の課題を解決できる方法を探っていかなければならないだろう。

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