2019/03/25

イノベーションの力を測定できるか? 特許ランク研究が示す最も重要な技術とは

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トーマス・A・エジソン(1847-1931)、1901年頃、ニュージャージー州ウエストオレンジの研究室にて

By Andrew Williamson from HUAWEI BLOG

波及するイノベーション

トーマス・エジソンは歴史上最も偉大な発明家の1人だとされている。彼がニュージャージー州メンロパークに開設した研究所は、世界で初めての研究開発に特化した機関と言われ、多くの専属の研究者とエンジニアを抱えていた。新たなブレークスルーを目指す過程で、エジソンは「結果だと! 結果ならたくさん得ている。どうしたらうまくいかないかは数千件わかっているのだ」と述べている。

意外に聞こえるかもしれないが、どうしたらうまくいくかがわかっている場合でさえ、その新たな技術が経済と社会にどれだけの影響をもたらすのかを測ることはいまだに難しい。なぜなら、新しい特許やアイデアは直接的な応用を生み出すだけでなく、そこから派生的に進化していくことがあるからだ。これは通常「波及効果」と呼ばれる。知識の波及効果は、1人の発明家が生んだイノベーションや知識が他の発明家によるさらなるイノベーションを促進する際に生じる。こうした波及効果を評価することができれば、優れた頭脳を持つ人たちが最も影響力の大きいアイデアやテクノロジーに取り組めるよう、社会全体でよりうまく調整することができるだろう。

特許ランクで技術の影響力を探る

2018年にファーウェイの委託によりロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(London School of Economics and Political Science)が実施した研究では、この課題に真っ向から取り組んでいる。研究チームは新たな調査方法を用いて知識の波及効果を測定し、これを「特許ランク(Patent Rank)」と名づけた。グーグルのページランクアルゴリズムと同様の原理を、ウェブ検索ではなく世界の特許引用のネットワークに適用したのだ。この方法によって、個々の特許の被引用数だけでなく、そこから広がる引用の連鎖からその特許の幅広い影響力を測定することができる。同研究ではさらに、ICT(無線通信、ロボティクス、3Dイメージング、その他のICT)の総合的な影響力と、バイオテクノロジー、環境保全技術、それ以外の技術との影響力との比較も行った。

この研究から、いずれの国においても、各国の波及効果のパターンは人口1人あたりのイノベーションにおいて他国より優位性や専門性の高い分野のパターンとおおむね一致していることが明らかになった。目立った例外としては、英国で3Dイメージング、イタリアでロボティクス、中国で無線通信の波及効果の平均値が高かったことがあげられる。

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国別に見た各技術の波及効果(効果の大きさは特許が生み出す価値を米ドル換算した値で算出)

波及効果が最も高いICT

では、現代の技術で最もパワフルなものは何か? 今回の研究では、ICTがそれ以外の技術よりもはるかに大きな知識波及効果を持つことが示された。バイオテクノロジーや環境保全といった最先端技術よりも大きい。また、ICT分野の中でも無線技術がその他の分野よりも50%以上高い波及効果を持っており、さらなるブレークスルーを促進する可能性がとりわけ高いことが見てとれる。

無線通信の波及効果は、1980年代初期から最も長期にわたって上昇していることもわかった。一方、ロボティクスの波及効果は1970年代初期から1980年代初期に主要なピークを迎え、それ以降の伸びは鈍い。しかし、引用にタイムラグがあることを考慮すると、今回の研究では2000年代後半から2010年代にかけてのロボティクスの最新の発展がもたらす波及効果を測定しきれていない可能性があると研究チームは指摘している。ブレークスルーと呼べるようなイノベーションは、さらなる発明へと波及するまでに時間がかかるのだ。

時系列的な変化を見ると、波及効果の規模における懸念すべき転換点も浮かび上がる。多くの技術において波及効果の全世界の平均値が2000年以降横ばいの傾向となっているのだ。これにはICTの波及効果が1990年代初期の急上昇(米国の経済的生産性の急上昇に呼応している)を経て沈静化したことも影響している。それでも、ICTの波及効果は調査期間終了時点で他の技術分野よりも20〰50%高くなっている。

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各技術の波及効果の変遷(赤が各技術、青がその他(6つの技術以外)の技術の波及効果を示す)

波及効果が投資の指針となる

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© natali_mis - stock.adobe.com

この研究から、世界各国の政策立案者はいくつかのヒントが得られるだろう。まず、ICTの波及効果が明らかに高いという結果は、政府がICTの研究開発投資を強化することの重要性を示している。知識の波及は社会全般に広く影響するものであり、社会的なリターンが広範すぎるため、民間企業が投資するには十分なインセンティブがない場合が多い。そのため、補助金や税控除といった対策で研究開発を促進することが必要になる。政府が研究開発政策を立案する際、特許ランクは技術の優位性と波及の現状を評価する指標となるのだ。

今回の研究では、ICT分野において優位性が高かったのは韓国、米国、フランスの3か国のみだった。産業戦略の設計にあたり、各国政府は自国が優位性を持つ分野を支援しようとすることが多い。となると、ICT分野は限られた国でしか支援されないことになるが、今回の研究が強く示唆しているのは、産業政策は現状の優位性ではなく波及効果が最も高い分野にフォーカスすべきだということだ。そうなれば支援すべき技術分野の優先順位は大きく変わり、ICT、とりわけ無線通信が最優先分野となる。

今回の研究がもう1つ示唆しているのは、多くの国で金融政策において中央銀行が政府からの独立性を高めてきたのと同様、各国政府はICT政策における統制や監視を緩和したほうがよいということだ。独立性を高めることで長期的な計画が可能になり、あからさまな利益追求からは距離を置いた政策立案ができるようになる。

最も強力なアイデアや発明は何かを理解し、そこに的を絞って支援することは、第4次産業革命を迎える我々すべてに巨大な恩恵をもたらす。再びエジソンの言葉を借りれば、「もっといい方法が必ずある。それを見つけるのだ」。

特許ランクによる研究報告の全文はこちら: The Evolving Role of ICT in the Economy(英語)

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