2019/03/30

【日中クロスオーバー】
「外国人でもいい」から「外国人が欲しい」へ 真の人材活用には覚悟も必要

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早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社記者として地域・経済分野を中心に取材。2010年から中国・大連の東北財経大学に博士留学した後、少数民族向けの大連民族大学で日本語教員となる。2016年に帰国し、中国経済のニュースを中心に執筆、翻訳。法政大学イノベーションマネジメント研究科兼任講師も務める。

グローバルパワー代表取締役 竹内幸一氏

「10年前と比べて、外国人人材の需要は1000倍くらいに増えた感覚があります」

2004年に創業した外国人人材紹介業の草分け、グローバルパワーの代表取締役・竹内幸一氏がそう語るように、コンビニ、居酒屋……と、サービス業を中心に外国人スタッフの姿は日常的に見られるようになった。グローバルパワーも竹内氏が入社した2009年には社員数わずか7人だったのが、今では約180人に増加している。

この10年で、日本の外国人人材市場の何が変わったのだろうか。

リーマンショックと震災
消失した外国人人材市場

別の人材会社で外国人人材紹介事業を立ち上げた竹内氏は、リーマンショック後に人材業界が縮小する煽りを受ける形で、グローバルパワーに転職することになった。

「自動車メーカーなどの派遣切りが社会問題になった頃です。当時私が勤めていた会社も、事業縮小の嵐で外国人どころではなくなりました。でも僕はどうしても外国人人材の仕事を続けたくて、事業ごと他社に買い取ってもらった。それがグローバルパワーだったのです」

2009年2月に同社に籍を移し、2010年12月には代表取締役に就いた。だが、経営は大赤字だった。人材業界全体の不況に加え、2011年3月には東日本大震災が発生し、日本に魅力を感じて移住していた外国人も、原発事故などを恐れて大量帰国。需要と供給の両方が失われてしまった。

「外国人がもっと活躍する社会に」との大義を掲げても、現実にはそれだけでは食べていけない。日本人人材の紹介と、チェーン店向けアルバイト求人サイトの構築も手がけ、3つの事業を回すことで、何とか倒産せずに会社を継続できたという。

追い風を生んだ3つの要因

経営は2013年2月期に黒字転換した。当時の社員は約10人。仕事が増えたというより、コストを切り詰めた結果だった。だが、企業の体質を整え、改めて外国人人材紹介という本業を追求しようと動き出した時期と同じくして、逆風が突如、追い風に変わった。

「転機は2014年です。それまでの求人の大半は、『外国人でもしかたがない』というタイプのものでしたが、その年を境に『外国人が欲しい』という相談が増え始めました」

竹内氏は、外国人人材需要の拡大には以下の3つの要因があり、それらが一気に押し寄せたと説明する。

①インバウンドで旅行者対応需要が拡大
2013年に東京オリンピックの開催が決定し、訪日ビザの緩和など、インバウンド施策が一気に動き出した。同時に、アジアの国々の経済力向上で、周辺国の海外旅行者が急増。特に中国人の「爆買い」が全国的に注目され、企業側も外国人旅行者に積極的に対応し始めた。

②人手不足
少子高齢化、人口減に伴う人手不足は、今や報じられない日はない。最近ではコンビニオーナーが24時間営業にノーを突き付けたり、外食チェーンが一斉休業日を設けるなど、ビジネスモデルの見直しにも波及している。2018年には、人手不足業界に限って外国人の単純労働を認める在留資格「特定技能」が法律で整備された。

③日本企業のグローバル化
人口減の結果でもあるが、多くの日本企業が海外市場の開拓を真剣に考え始め、現地のニーズがわかり、交渉できる人材を求めるようになった。英語を社内公用語にした楽天や、採用者の半数近くを外国人が占めるメルカリのように、日本企業の多国籍化も急速に進んでいる。

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インバウンド需要は外国人人材の活用を後押しした重要な一因

中国語と英語需要が各4割
中国人であることが強みに

外国人人材の需要拡大を受けて、業界の環境も大きく変わった。竹内氏によると、外国人人材紹介を手がける企業は、10年前は10社ほどしかなかったが、現在は大手が軒並み参入。また、外国人労働者に逆風が吹いていた頃に日本で働いていた人々と、追い風が吹いて以降に働き始めた人では、マインドにもはっきりと違いを感じるという。

この数年、日本ではベトナム人、ネパール人の労働者が急増しているが、全体では中国人が最も多く、2018年の調査でも外国人労働者全体の26%を占めている。竹内氏によると、特に技能実習生や留学生を除いた、日本企業の正社員として就職するのは、中国人が圧倒的に多いという。

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国籍別に見た外国人労働者数の推移(厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』より作成)

この数年は日本での外国人採用拡大と中国の経済成長が重なり、日本に留学した中国人は引く手あまただ。「日本企業で待遇の安定を確保しつつ、いずれは駐在員として中国で働きたい」(日本の大手小売り企業に就職した中国人男性)というような、新たなキャリアプランも登場している。

「外国人労働者の主役は今も昔も中国人ですが、30代半ば以上の人たちは、苦労しながら日本人と同じように振る舞って、日本人と同じように仕事をして評価された人たちです。今は、中国市場を攻めたい企業の求人が多く、中国人であることそのものが評価されます。どちらの世代が優れているという話ではなく、働く環境は人のマインドやスキルに大きな影響を及ぼすと感じますね」(竹内氏)

同社に寄せられる相談・依頼から日本企業の需要を分析すると、言語別では、中国語と英語がそれぞれ4割、残り2割がASEAN諸国。職種別では販売が3割、営業や通訳、ローカライズなどオフィス系が7割だという。

一方、グローバルパワーに登録している外国人材は、中国人が37%、台湾が19%、香港が4%で、中華圏だけで6割を占める。また、ベトナム人が増えていることを反映し、同国の登録者は全体の10%と、韓国の8%を上回っている。ただ、アジア系人材は英語が堪能なケースも多く、英語と日本語が求められる求人に採用されるケースも少なくないそうだ。

空気を読むことも忖度も通用しない

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グローバルパワーでは外国人を採用する企業向けのコンサルティングやセミナーなどを通じ、外国人人材活用における課題の克服もサポートしている

販売系のアルバイトでは、外国人材がいなければ職場が回らず、正社員職でも外国人採用は浸透しつつある。そして以前とは違い、表向きには外国人人材が「日本人化」することも求められれない。だがその結果として、職場でのあつれきも増えている。

竹内氏は「外国人人材の紹介って、日本人に比べたら10倍くらい手間がかかるんですよ。マッチングもそうだし、スキルや性格の判断も日本人とは違う。入管法にも習熟する必要があります。これは、受け入れる企業も同じなのです。人材が多様化すれば、これまでの習慣や前提は見直さざるを得なくなります」と指摘した。

日本人には日本人特有の常識があるが、それを自覚していない人も多い。

例えば、「我慢をして無理するのが美徳」という風潮がさまざまなシーンで顔を出す。また、要求や意見をその場で言わずに、相手にも忖度や空気を読むことを勝手に期待する。

「外国人に何かを指示し、理由を聞かれたときに、『こういうものだからね』と説明しても、『そういうものか』と納得する人はあまりいない。ロジックで説明しなければいけません」

「『この仕事、できるときにやっといて。よろしくね』というのも、言われた方は『やらなくてもいい』と受け取ります。私たちのコミュニケーションがいかにあいまいな言葉を含み、相手に判断を委ねているか、それを認識しないとトラブルを招きます」

2010年前後はコンビニに営業をかけ、外国人を「雇ってもらっていた」という同社は、最近は「外国人でもいい」求人を受けることをやめ、「外国人が欲しい」という求人に特化するようになった。外国人人材市場がそれだけ広がったからでもあり、大手が次々に参入する中で、優秀な外国人求職者を引き付けるための戦略でもあるという。

「外国人を安い労働力と考えている企業も、当然まだあります。でも日本人の労働力がどんどん減少する中で、外国人と日本人の待遇を分けることなく、また、外国人が力を発揮しやすい環境を整えないと、日本人にも外国人にも敬遠されてしまうのではないでしょうか」

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