2019/01/30

ストローだけが問題ではない!?
マイクロプラスチック問題の深刻な現状

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1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア『ROBOTEER』を運営。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。

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人体に悪影響を及ぼす「マイクロプラスチック問題」が、社会的に大きく取り上げられ始めている。コーヒーチェーン大手・スターバックスは、2020年を目標に、使い捨てストローを世界全店舗から撤廃することを発表。米マクドナルドも紙ストローの導入を公言している。いずれも背景には、マイクロプラスチックによる環境汚染がある。

マイクロプラスチック(microplastics)の定義は学者や専門家によってさまざまだが、一般的には、「人間の目で認識できないサイズの微小なプラスチック」とされている。レジ袋、コンビニの弁当箱、ペットボトルおよびその蓋、お菓子のパッケージなどなど、プラスチックごみがその主な発生源だ。では、マイクロプラスチック問題は具体的にどのように地球を蝕んでいるのか。その全体像について、専門家に詳しく解説を仰ぐことにした。取材に協力してくれたのは、環境汚染の専門家である東京農工大学・環境資源科学科の高田秀重教授だ。

高田教授によれば、全世界では年間約4億トンのプラスチックが生産されているが、そのうち約半分が容器・包装など使い捨てのものだという。例えば、レジ袋は日本だけでも年間で約300億枚が消費される。ペットボトルは年間200億本以上だ。その他にも、食品のパッケージ、コンビニのお弁当箱など、プラスチック製品の大半が使い捨てだが、それらをまとめると一世帯あたり1日約数百グラムのプラスチックゴミが発生している計算になる。

「きちんと処理されていれば海には入ってきませんが、残念ながら路上や地面には結構な量のプラスチックゴミが落ちています。それらが雨で洗い流されて、最終的には海に流入します。海のプラスチック汚染の話をすると、海辺に遊びに行った人が置いていったゴミが原因だと思われますが、私たちが日常生活で排出するゴミもマイクロプラスチックの主な発生源なのです」 日本はリサイクルが進んでいるので、プラスチックゴミは少ないのではないかとの意見もあるかもしれないが、高田氏によればこちらも「決してそうではない」という。


荒川河口・河川敷のプラスチックゴミ(高田教授提供)

「東京・荒川などを少し遡った河川敷にも、大量のゴミが溜まっています。その大部分がペットボトルです。リサイクルがよく行われているペットボトルでさえ、回収率は85%程度。2015年の未回収率は11.1%ですが、年間225億本のペットボトルが消費されていると考えると、処理されていない本数が25億本にもなるわけです。そのうち、1%が環境に流れ出すだけでも年間2,000万本。なお、荒川で河岸清掃をしているボランティア団体が1年間に拾うペットボトルは4万本を超えるということです。これは、リサイクル率が高くても100%でない限り、環境を汚染してしまうという一例になります」

環境汚染の専門家が指摘するプラスチックゴミの問題

なおプラスチックゴミの特徴は、浮力が高いため使った場所から遠く離れた場所にも汚染を広げてしまうという点だ。プラスチックは、石油素材の高分子(ポリマー)から作られているが、その高分子には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(ペットボトル)、ポリ塩化ビニル(塩ビ)などがある。上記5つのポリマーは、プラスチック生産量全体の7割程度を占め、そのうちポリエチレン、ポリプロピレンは対水の比重が1より小さく水に浮く。また、ポリスチレンはわずかに比重が1より大きいものの、主な用途は発泡スチロールであり、気泡を含むと同じく水に浮いてしまうという。

「ハワイ島のカミロビーチには、周りに人がほとんど住んでいないにもかかわらず、大量のプラスチックが打ち上げられています。そこには、アメリカ本土から来たもの、ハワイ島で発生したものもありますが、日本語、中国語、ハングルが書かれたゴミもあります。プラスチックは浮いて分解されないので、太平洋を渡り数千kmも運ばれ、都市から遠く離れた場所でさえも汚染させてしまうのです」

浮いて海を漂うプラスチックは、分解されないものの、自然環境の影響を受けて劣化し小さくなる。一般家庭で使われるプラスチック製の洗濯バサミは、1年もしないうちに折れてしまうことがあるが、これは紫外線によって劣化するからだ。紫外線を遮るもののない海の上では、プラスチックの劣化はより活発に。さらに海岸の熱も劣化を加速させる。

「海洋物理の法則では、大きさが5mm以上の比較的大きなプラスチック破片は風の力を受けやすく、海岸に打ち上げられます。そこで紫外線と熱で劣化し5mm以下になると、反対に風の力を受けにくくなる。そうして今度は、沖合に流されていくというメカニズムです」

なお、ペットボトルやビニール袋だけでなく、人工芝、足ふきマット、三角コーンなど、野外で使われるプラスチック製品、またレジンペレット(プラスチック製品の中間材料)、ポリエステルやナイロンなどの化学繊維の衣服を洗濯するときに発生する「洗濯クズ」なども、マイクロプラスチックの発生源になっているという。


世界の海を漂うプラスチックの分布密度(資料提供:高田教授)

「2012年までに行われた調査の結果、約5兆個、重さにすると27万トンのプラスチックが世界各地の海を漂っていると試算されています。また最近の調査では、日本近海にも大量のプラスチックが漂っていることがわかってきました。日本国内で多くのプラスチック製品が使われていることや、黒潮の流れで中国南部や東南アジアから流れ着いていることが大きな理由として考えられています」

海を漂うプラスチック、およびマイクロプラスチックの一番の問題は、生物が餌と間違えて摂食してしまうことだ。現段階では、地球上の海鳥の90%からプラスチックが検出されるだろうという推定もあり、実際にウミガメ、クジラ、魚など200種以上の海の生物からプラスチックおよびマイクロプラスチックが検出されているという。

「二枚貝、ゴカイ、アミ類、カニなどが摂取しているという事例もありますし、ベルギー産のムール貝、フランス産のカキなどからもマイクロプラスチックが発見されたという報告があります。プラスチックは生物にとっては異物。生態系への悪影響が非常に懸念されています」

プラスチックやマイクロプラスチックが、有害化学物質を運んだり、吸着したりしてしまうという側面も大きな問題だ。例えば、プラスチックにはさまざまな添加剤が含まれるが、なかでもノニルフェノールという物質は人体への悪影響も危惧されている。

「ノニルフェノールは人間の体内あるいは野生動物の体内に入ると、女性ホルモンのように振る舞いホルモン系の撹乱を引き起こします。いわゆる環境ホルモンの一種ですが、水環境中では魚の生殖異常を引き起こすことも明らかにされています。最近、ヨーロッパで行われた大規模な調査の結果、成人男子の精子数が減少傾向にあることが明らかにされましたが、その原因のひとつとしてプラスチックの添加剤に由来する環境ホルモンの存在が疑われています。なお、世界50か国300地点以上の試料を分析した結果、プラスチックの有害化は世界規模で起きていることが判明しています」

世界各地に広がるプラスチック削減の動き


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プラスチックは海中で分解せず、小さくなると回収も不可能だ。今後、何も手を打たなければ海へ流入する量はさらに増えると予想されている。「20年後には現在の約10倍にまで増加する」。そう推定する一部専門家もいるという。

高田教授は、プラスチック廃棄物に対する複数の対策を組み合わせていくことが重要だと説く。まず、すでに発生してしまった石油ベースのプラスチック廃棄物については、リサイクルや焼却=エネルギー回収という手段を効率的に組み合わせ処理。一方、将来的には削減を第一目標とし、それでも残ってしまうプラスチックについてはバイオマスベースの生分解性プラスチックなどへの置き換えを進めていくというものだ。

「プラスチックの削減を進めていくには、代替策も考える必要があります。例えば、紙や木などバイオマスベースの素材を利用することは、温暖化対策を規定したパリ協定にも沿うものであり、海洋汚染低減につながります。こうした素材はゴミとして海に流入してもいずれは分解されますし、有害な化学物質を吸着する割合も微小です。一方で、セルロースナノファイバーなど、紙や木を高度利用する技術開発も重要になってきます」

現在、スターバックスやマクドナルドなど大手飲食チェーン以外にも、アメリカン航空、ディズニーなど各企業、英国、台湾、米国各州・各都市などでも、プラスチック製ストローを撤廃・置き換え・規制する動きが広まっている。マイクロプラスチック問題の周知は世界規模で加速していきそうだが、高田教授の解説を聞く限り、ストローだけに限定されず、より広範囲な使い捨てプラスチックのあり方も問われていくべきかもしれない。

なお同問題への関心が高まっている米国では、Anna Duさんという12歳の少女が、海中や砂浜からマイクロプラスチックを発見できる遠隔制御型水中ロボット「Nereid Jr」を開発したとして話題になってもいる。同様に、世界中に散らばってしまったマイクロプラスチックの除去を支援する新しいイノベーションの登場にも注目していきたい。

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